先週末、私はそういうことがありました。
ふと立ち寄った100円ショップで、療育なんかに使えそうなものはないかな、と見ていたところ、たまたま近くにいた小さな子ども(3歳くらい?)とそのお母さんが、こんなやりとりをしていたのです。
母「さあ、次はあっちの売り場に行こう」
子「・・・」(S字フックがたくさんかかっている売り場で商品をいじるのに夢中)
母「あっちにはもっと面白いものがあるよ」
子「・・・」
母「うん、ここはとっても面白かったね。じゃあ次はもっと面白いところに行こう」
子「うん」(ようやく顔をあげて返事をする)
私(あー、すごいなあ、子どもがどんなに言うことを聞かないでも、叱ること=罰ではなくて次の場所の強化子を示しながら代替行動を伝えようとしてる。)
母「じゃあ、いこうか」
子「・・・」(行こうとした視線の先でまたさっきのS字フックが目に入ってしまい、またいじり始めてしまう)
私(あ、また元に戻っちゃったなあ。ここでこのお母さんはどうするんだろう)
母(買い物かごから別の商品を取り出して)「じゃあ、あなたにはこの品物を預かっててもらうっていう大事な仕事をお願いするね」(といってそれを子どもに渡す)
子(その商品を受け取る)
母「ありがとう、じゃあ、よろしくね。さあ、行こう」
母・子(その場を離れる)
私「!!」
私は、このお母さんの最後の対応を見て、ものすごく驚きました。
これは、(ABAの)対立行動分化強化と言えるんじゃないか?
このお母さんは、子どもがどうしてもS字フックをいじることから離れられないという問題に対して、既に買い物カゴに放り込んでいた別の商品を「預かって」と言って渡すことによって両手をふさいでしまい、棚から下がっているS字フックに触れないようにしてしまいました。
両手がふさがってしまえば、S字フックは触れなくなります。つまり、これらの2つの行動(S字フックをさわることと、品物を預かること)は同時にできない行動、つまりABAでいう「対立行動」だということになります。
そして、その品物を受け取った子どもをほめることで強化し、その品物を持っている状態が維持されている間に、すばやく売り場を移動することに成功したというわけです。
うーん、このお母さん、ただものではないな。
子どもと一緒に店に入って、親の方は売り場を移動したいのに子どもが聞く耳を持たないなんていうのはよくあることなんじゃないかと思いますが、そんなときに、このお母さんのように忍耐強く、しかも叱ったり怒ったりすることなく非常に頭のいいやり方で問題を解決できる人っていうのは、すごい!と思いました。
こういうシーンを目撃することは、自分にとっての子育てや療育にもとてもいい刺激になります。
恐らく、このお母さんはABAを知っていたわけではなく、ただ経験の中からこういう方法を編み出したのだと思いますが、それでもこんなに効果的な問題行動への介入方法を自然に使いこなしている人がいるのです。
しかも、今回このお母さんが使った「テクニック」は、よくよく考えるとことばが通じない(私の娘のような)子どもが相手であっても、少し工夫すれば通用するやり方です。
この一連のできごとは実際にはほんの30秒ほどのものでしたが、その後何度も思い出しては反芻していました。こういうちょっとした出来事に遭遇したりすることも、日々の療育をクリエイティブに続けるための大切な刺激、エネルギーだと思います。