2007年01月17日

日経サイエンス2007年2月号「ミラーニューロンと自閉症」(記事レビュー)

偶然記事を発見したので、レビューしておきます。


ミラーニューロンと自閉症-他人を映す「脳の鏡」それが壊れてしまったら・・・
日経サイエンス
2007年2月号特集記事

たまたま本屋を覗いたときに、雑誌コーナーで「自閉症」の文字が目に飛び込んできたので、思わず買ってしまいました。巻頭に近い場所で組まれている第一特集で、ページ数的にも18ページを占めていますから、かなり本格的な特集記事だといえます。
しかも、後半の自閉症に特化した記事の著者は、「脳のなかの幽霊」で著名なラマチャンドラン氏ですから、かなり期待して読みました。

その結果は・・・

・・・かなりがっかり

というのが正直な印象。

「ミラーニューロン」というのは近年の脳科学の大発見の1つと言われているのですが、「自分の行動でも、他人の行動でも同じように反応するニューロン」のことです。
例えば、「ものをつかむ」という行動を例にとると、自分がものをつかむときにだけ反応するニューロンというのは、ただの運動を司るニューロンだと理解できます。ところが、もしこのニューロンが「他人がものをつかむ」ときも同じように反応したとしたら、そのニューロンは自分の運動ではなく、他人がものをつかむのを観察するという視覚経験に対しても反応しているということになります。
このように、自分のAという行動にも、他人のAという行動にも同じように反応するニューロンが見つかった場合に、「Aという行動のミラーニューロンが存在する」と表現するわけです。

そして、本記事の前半ではミラーニューロンが他人の行動の模倣や意図の理解や共感といったことに関与しているらしい、という話題が展開されるのですが、明らかにこの議論はおかしいです。

自分のAという行動にも他人のAという行動にも同様に反応するニューロンがある。これは実際に観察された事実です。ところが、本記事の中では、この議論が拡張され、例えばこういった話が展開されます。
これらの実験から、ミラーニューロンの活動が行為の理解を支えていることが確認できた。聴覚や想像など視覚以外の情報に基づいて行為を認識する場合にも、ミラーニューロンはやはり活動し、行為の意味を伝えているのだ。
(20ページ)


他者の意図を理解することは人間の社会的行為の基本だ。意図に対する認識を調べた実験から、この能力はミラーニューロンのおかげであるように思われた。(中略)またミラーニューロンは意図の違いを識別しており、文化的に獲得した「片付け」という行動より、生物の基本的な機能である「飲む」に強く反応した。
(22ページ)

「他人の意図を理解できるのはミラーニューロンが活動するからだ」というのは明らかにおかしな言明です。なぜなら、我々の知らない別の仕組みによって「他人の意図を理解できている」という状態のときに(結果として)活性化しているのが、我々が「ミラーニューロン」だと思っている脳の場所であるに過ぎないかもしれないからです。もう少し観念的にいえば、「ミラーニューロンが他人の意図を理解している」と語りつつ、「なぜミラーニューロンは他人の意図を理解できるのか」を語らないというのは、問題を別の場所に押し込んでいるだけで、実は問題を解決していません。

私の考えでは、ミラーニューロンというのは単なる「『ある行動』が一般化されてマッピングされたニューロン」でしかないのではないでしょうか。自分がAという行動をすることと、他人がAという行動をすること、2つの状況を学習できれば、そこから「Aという行動」というより一般化された事象を認知することができるようになるはずで、それを学習したニューロンが「ミラーニューロン」に見える、ということではないでしょうか。

もっと本質的にいえば、外から見える脳の反応に対して、意味を与えて「解釈」するのは、脳科学が陥りやすい典型的な過ちだと思います。ニューロンが反応することに本来「意味」などないのです。外から見た我々が勝手に「解釈」しているだけに過ぎないという側面はいくら強調しても強調しすぎることはないでしょう。

したがって、このような脆弱な構成概念にすぎない「ミラーニューロン」の「不全」を自閉症の原因だと考える後半の記事にも、(有名なラマチャンドラン氏の記事ではありますが)残念ながら説得力は感じられないというのが率直な印象です。ここで示されている各種の実験結果も、およそどれも「原因と結果を取り違えている」ものばかりに見えます。ましてや、薬やその他の方法で「ミラーニューロンの機能を回復する」という主張には、かなり危ういものまで感じました。

さらにこの説の弱さとしてあげられるのが、ミラーニューロンで説明しきれない感覚異常などの問題に対して、ミラーニューロンとはほとんどつながりがなさそうな「突出風景理論」という別の仮説を追加して説明している点です。
この時点で、ミラーニューロン説が自閉症の全貌を示していないこと、追加された「突出風景理論」で示される障害と「ミラーニューロンの障害」という、あまり関係なさそうな2つの障害をなぜほとんどの自閉症児が両方持っているのかという問題が恐らく解決できないこと、仮説の不備を別の仮説を立てることで補うというある意味「稚拙」なやり方などから、このミラーニューロン仮説の説得力は弱い、ということがはっきりしています。

なかなかボリュームもあって読み応えそのものはあったのですが、期待して読んだだけに、内容のクオリティという面では残念さが際立ってしまいました。

※その他のブックレビューはこちら


posted by そらパパ at 23:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 理論・知見 | 更新情報をチェックする
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