自閉児―お母さんと先生のための行動療法入門 (単行本)
編:梅津 耕作
有斐閣選書
I自閉児の治療教育プログラム
第1章 治療教育にどう着手するか
1着手するための準備段階
2毎日の学習と共に
第2章 課題学習の実際
2-1 基本的生活習慣を身につける
1食事の習慣を身につける
2排泄習慣を身につける
3衣服の着脱を身につける
2-2 学習態勢づくり
2-3 動作性課題
2-4 言語の学習
1基礎訓練
2音韻訓練
3単語訓練
4文章訓練
5言語理解の訓練
6文字の訓練
7問題行動と言語
2-5 数概念を学ぶ
2-6 抽象語と抽象概念
1所属を表わす語「の」
2「有る」や「無い」の意味の獲得
3「異なる」と「同じ」の意味の獲得
4位置と順序の概念
5上位概念・下位概の学習
2-7 記憶の想起とイメージづくり
2-8 社会性行動を身につける
2-9 動作・運動の学習
第3章 どうしたら問題行動を少なくできるか
1「ほめる」ことと「しかる」こと
2問題行動の見方
3問題行動にどう対処したらよいか
Ⅱ自閉児と共に
第4章 母親面接からの提言
1治療を始める前に
2母親面接の手続きと主な話題
3補助治療者の留意点
4親子関係と治療教育
第5章 学校教育の中の自閉児
1担任の経験から
2担任の役割
3集団教育の中で
4心障教育と学校教育
5担任の精神衛生
Ⅲ自閉児の治療と私たちの立場
第6章 治療と教育の間で
第7章 自閉児研究の動向
1これまでの流れ
2自閉児の診断、病因および臨床像について
3治療教育の方法をめぐって
4治療と教育の今後
私はときどきヤフーオークションで「自閉症」というキーワードで検索して、何か面白いものが出品されていないかチェックしています。この本も、その検索に引っかかってきて試しに落札してみたものですが、落札した時点では、実はあまり期待はしていませんでした。
というのも、本書の発行年は1981年、佐々木先生が日本にTEACCHを導入するよりもさらに前で、まだまだ遊戯療法や受容を中心とする精神分析的な自閉症療育が全盛だった時代の書籍だといえます。書名に「行動療法」とあっても、現代の目で見たら古くさくて使えない本かもしれないなあ・・・と思って届いた本を読んでみて、そのクオリティの高さに愕然としました。
上記に掲げた目次をみても分かるとおり、本書は行動療法による自閉症児への療育法を具体的に示した本なのですが、その内容は驚くほど微に入り細にわたっており、私がこれまでにみたどんな自閉症児むけ療育本よりも具体的なトレーニングプログラムが明確に示されています。
例えば、第2章にある「排泄習慣を身につける」では、排泄の記録のつけ方、トイレで排泄するきっかけの作り方、子どもが自主的にトイレに行けるように誘導するプロンプトの行ないかたとフェイディングの進め方、トイレに連れて行こうとするだけでパニックを起こすような子どもへの導入法、母親と一緒にしかトイレにいけない子どもへの訓練法、おねしょへの対処法、排便トレーニング、トイレットペーパーを使う練習といったことが非常に具体的に紹介されています。
また、より行動療法らしい「動作模倣」の進め方についても、単純な動作→連続動作→微細運動の連続動作→左右非対称の動作→記憶による動作、という順番で難易度を高めていく一方、動作模倣を音声模倣につなげていくための導入訓練として、指先で顔のいろいろな部分を指差す模倣→指をくわえる模倣→舌を動かす模倣→口形・発音模倣という模倣訓練の流れも紹介されています。
特にこの後者の動作模倣・音声模倣の詳細な進め方については、私がこれまでに見た市販されている本のなかではなかなか分からなかった部分だったので、非常に参考になりました。
少なくとも、「現在市販されている自閉症ABA本」として有名な「自閉症へのABA入門―親と教師のためのガイド」よりは、はるかに(恐らく100倍とか1000倍くらい違います)こちらの本のほうが有益です。
ところで、本書の編者である梅津耕作氏の名前はどこかで聞いたことがある、と思ったら、久野先生のブログで何度も登場していました。日本に行動療法を導入した先生なんですね。なるほど、それならこのクオリティの高さも納得。
現在は中古でしか買えないようですが、まったくプレミアのつかない「古本価格」で買えるので、これは相当にお買い得でしょう。
自閉症児へのABAを検討されている方、ぜひ中古を探して手に入れてみてください。探す苦労以上の価値はきっとあると思います。おすすめです。
※その他のブックレビューはこちら。
私がこの記事をアップした時点ではまだ4冊、値段も500円以下で売られていたのですが・・・。
私も久野先生のブログは毎日欠かさず読ませていただいていますので、今回の梅津先生の名前にはピンときました。
そんなにクオリティが高いなんて・・
私も手に入れたいものです。
本当に、このレビューを書いた時点ではけっこうたくさんAmazonに在庫があったので、興味をもたれた方は買える状態にあると思っていたんですが・・・気が付いたら、売り切れてしまっていました。
この本なんかも、復刊.comでリクエストしてもいいのかもしれませんね。
なので、折を見て、借りてみようかと思います。
ただね、その方が言うには、「行動療法は昔やってたけど、今はやらないの」って言ってたので^^;
療育の現場が厳しすぎた時期もあったようですね。最近ではほどほどにして子どもが楽しめたという気持ちで自宅に帰ることを大切にしているようです。
しかし、そんな素晴らしい本が絶版とは惜しいことですね。
「現場が厳しかった」というよりは、カルチャーとして育たなかった、あるいは親や周囲の理解や協力が得られなかったという側面が強いのかもしれませんね。久野先生のブログを見ていると、そんな風に感じます。
行動療法は、ただ療育の場面だけで実行していても効果はなく、親を筆頭として周囲の人間がみな同じ意識と対応をとる必要があります。
その辺りがうまくいかない中で、「旧勢力」あるいは「穏健派」が勢力を増して、今のような穏健というか、あまり強い介入をしないような「療育の現場」ができあがったのかなあ、と想像します。
コメントありがとうございます。
本書を読むと、自閉児むけの行動療法というのはロヴァース式が登場してから花開いたのではなくて(私はばくぜんとそんな風に理解していました)、それ以前からあるべき場所には非常にクオリティの高いものがあったのだということがよく理解できました。
皮肉なことに、この記事で紹介したことによって?入手困難な本になってしまったようですので、大切に活用したいと思います。
なにがロヴァースですか!何がカナーですか!理論の深さといい、技術の高さといい、国際的に見てもいまだに梅津先生を越える成果は得られていないのです。同じ梅津でも梅津先生とは理論において、技術において雲泥の差があるのです。
コメントありがとうございます。
ロヴァースのくだりについては、失礼しました。気分を害されたのであればお詫びします。
行動療法については(それだけではないですが)まだまだ知らないことだらけで、一生懸命勉強しつつ、同時に目の前にいる娘の療育にどんどん活用していかなければならないと考えています。
小林重雄先生といい、わたしといい、梅津先生よりは多少ともずるさをこころえていますので、弟子の育て方は多少ともたくみであったかもしれません。小林重雄を先生を筆頭にその下で育てられた人たちが今後はどんどんわが国の行動療育に貢献していかれることを信じています。どうか俗物に惑わされることなく、確りとした慧眼の下に本物の臨床家を皆さんの力で育てて行って頂くことを切望いたします。