自閉症
編:中根 晃
日本評論社
自閉症、その科学的理解
神経生理学でわかってきたこと
生化学でわかってきたこと
自閉症と「心の理論」
アスペルガー症候群をめぐって
初期症状―乳幼児期の徴候
幼児期・学童期の行動特徴
青年期・成人期の自閉症
学校での能力開発プログラム
TEACCHプログラムとは何か
自閉症児の行動療法
薬物療法はどこまで進んだか
自閉症と家族
自閉症児に学ぶ
自閉症児を育てて
目次を見ていただければ分かるとおり、内容はかなり盛りだくさんです。
ジャンルとしては「自閉症の入門書」だと言えると思いますが、他の本には見られないユニークな内容がいろいろ盛り込まれています。
本書は、雑誌「こころの科学」の特別企画として編まれたものを加筆再編して単行本として発行されたもので、編者は元都立梅ヶ丘病院長の中根晃氏。中根氏に関しては、以前当ブログでも「自閉症児の保育・子育て入門」という著書を肯定的に紹介したこともあります。
本書を読むにあたってまず注意したいのが、本書は意外に古い本である、ということです。本書の発行は1999年となっていますが、実はもともとの原稿は1991年頃に書かれたものであり、新たに加えられた編以外についてはおおよそ15年くらい前の内容になっているのです。
この「古さ」は、章によってはけっこう致命的です。
例えば、第2章の「神経生理学でわかってきたこと」で扱っているのは、CTやfMRIなどではなく、なんと「脳波」です。自閉症者の脳波を見て、てんかんのような異常波が見られるといった話題を取り扱っているのですが、この章に関しては率直にいって古くさすぎてまったく役に立たないという印象です。
第3章の生化学的研究や、第12章の薬物療法の話題も同様でしょう。このような医学・生理学的な研究については、何より「鮮度」が重要で、15年あまり前の情報というのはさすがに古すぎるというのが正直なところです。
ただ、これらの章も、そういった「古さ」があることを踏まえたうえで読めばなかなかユニークな内容だと思いますし、それ以外の章については、杉山登志郎、小林重雄、内山登紀夫、谷晋二といったそうそうたる顔ぶれが並び、扱っている話題も心の理論、TEACCH、行動療法など、特に臨床面にフォーカスを当てた読み応えのあるものになっています。
特に、11章の「自閉症児の行動療法」については、あえて総花的なものにせず、「問題行動の抑制」というただ一点にテーマをしぼることによってかなり踏み込んだ内容になっており、参考になります。10章のTEACCHに関する章も、短いながらもTEACCHのエッセンスがうまくまとめられており、TEACCHの全体像をコンパクトに知ることができるでしょう。
ただ、「内容が盛りだくさん」というのは、逆にいうと全体としてとりとめのない「寄せ集め」になっている印象は否めませんし、本書の中ほどにある自閉症児の年代別の理解と療育に関するいくつかの章は、精神医学的な「解釈」にもとづく記述が多く、内容の厚みと説得力という観点からは不満を感じます。
これだけいろいろな話題が盛り込まれているのに、「自閉症の歴史」に関する章が存在しないのも、「自閉症の入門書」として本書をおすすめしにくい原因になっています。
全体としていえば、発刊当初であればまだしも、2006年の今となっては「古さ」が目立ち、わざわざ新品を定価で買ってまで読む価値はなくなりつつある本だと言わざるを得ないのではないでしょうか。
ただ、TEACCHや行動療法に関する内容には見るべきものがあるので、図書館に置いてあったり、古本屋で手ごろな値段で手に入るのであれば、読んでみてもいいのではないでしょうか。
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