沓掛時次郎 (劇画・長谷川 伸シリーズ)
著:小林 まこと、原作:長谷川 伸
講談社 イブニングKC
当ブログの以前のエントリにいただいたコメントでこの本を知り、さっそくAmazonで買ってみました。
それにしても、こういう新刊じゃないコミックを買ったりするときは、Amazon最強ですね。廃版になったものもマーケットプレイスで安く買える場合が多いし、ヤフオク以上に入手性が高いと思います。
届いた本は、コミックとしては相当な厚み。サイズも大判ですし、かなりの迫力です。
↑大判400ページの大ボリューム。
表紙には、中央に大きくタッ君(らしき着物の少年)が描かれており、物語のなかでも重要な役割を演じてくるであろうことが期待されます。
表紙を見て分からなかったのが、下の方にものすごくたくさんの名前が並んでいることで、最初は、このまんが1冊にこんなにたくさんの人が制作に関わっているの?と思ったのですが、そうではなくて、このまんががいわゆる「スターシステム」をとっていることを端的に示したものでした。
つまり、このまんがに出てくる登場人物のほとんどは、作者である小林まこと氏が過去のいろいろなまんがに登場させたキャラクターを意図的に「使い回して」いる、ということです。
同様の手法というと、手塚治虫がいろいろなまんがにチョイ役でヒゲオヤジやブラックジャックを出したりするのが有名ですが、主要な登場人物をすべて使い回している「沓掛時次郎」のほうがはるかに本格的ですね。
その「スターシステム」採用のおかげで、「タッ君」もふたたび登場することができた、とも言えるかもしれません。
さて、肝心のストーリーですが、この「沓掛時次郎」というのは「股旅物」と呼ばれるジャンルの有名な戯曲のようで、1928年に発表されてから、8回も映画化され、テレビドラマになったりもしているそうです。
ちなみに、このまんがを読み終わってから、映画作品のあらすじなんかもネットで見てみたのですが、さすがに全然別物ですね。
「本来、仇であるはずの男と子連れの女が旅を供にし、許されがたい恋が芽生える」みたいな話の骨格を除いて、ストーリーは大幅に脚色されているようです。
そしてこのまんがにおける「脚色」の最たるものが、重度知的障害を伴った自閉症の少年である「タッ君」を、ヒロインである「おきぬ」の息子として登場させている、ということになるでしょう。
さらに驚くべきことは、この「タッ君」が社会のなかに役割をみつけ、大人になっていく「成長のプロセス」が、ストーリーの一角を占めているということです。
特に、エンディングがあんな感じに展開したのには、かなりびっくりしました。
↑ネタバレになってしまうのでぼかしを入れましたが、「大人になったタッ君(太郎吉)」が登場するワンシーンです。
ネタバレになってしまうとつまらないので、あえて細かいことは書きませんが、このまんがは、自閉症児であるタッ君をメインキャラクターの一人に入れたことによって、言い方は悪いですが「ちょっと古くさい時代物」であったであろう原作に対して、一気に現代的な要素、問題提起の色彩を帯びさせることに成功しているように思われます。
まあ、率直なところをいえば、タッ君みたいなこどもが本当にこのまんがのような斬った張ったのヤクザなこの時代の環境におかれて、こんな風に無事でいられる可能性は低いだろうな・・・とは思いますが、時次郎がそんなタッ君(この話のなかでは「太郎吉」)を文字通り命を賭けて守る姿には感動させられます。
当然ですが、この本を読んで療育がどうこう、というまんがではまったくありませんが、作者・小林まこと氏の、障害ある子への暖かい視線が感じられる、読んでいて心が暖かくなるまんがでした。
「療育に関係ない」と書きましたが、実は、タッ君が「役割を見つける」プロセスには、自閉症児ならではのこだわりのなかにその「役割の芽」をみつけ、長い目でじっくりとそれを育てていく(短期的な視点でむやみに禁止したりしない)という、療育のヒントにつながるような要素も描かれていて、そこもちょっとびっくりするところだったりします。
(ちなみに、もちろん今回も小林氏の「自閉症児の描写」は完璧で、実にリアルです。なんか娘をみているよう(笑))
まあ、ストーリー自体は基本的には悲げ・・・ゴホンゴホンこれ以上はネタバレなのでやめておきます(笑)。
純粋に時代劇まんがとして楽しめる作品でもあるので、まんがが好きな方は試しに読んでみてもいいのではないでしょうか。
※その他のブックレビューはこちら。
ご無沙汰しています。
久しぶりのコメントありがとうございました(^^)。
この作品、原作は戦前に作られた戯曲ですから、コテコテの古い作品のはずですけど、大幅に脚色されて、新しくて「リアル」な作品に生まれ変わっていると思います。
仕事仲間の皆さんの感想が聞けたら、ぜひまた教えてください!(^^)