家庭と地域でできる自閉症とアスペルガー症候群の子どもへの視覚的支援
著:ジェニファー・L. サブナー、ブレンダ・スミス マイルズ
訳:門 眞一郎
明石書店
目から学ぶ
視覚的支援とは何ですか
なぜ視覚的支援をしなければならないのですか
どんな視覚的支援が使えるのですか
視覚的支援のやり方
うちの子どもの視覚的支援はどうすればいいのですか
視覚的支援の効果は、どうしたらわかりますか
視覚的支援はいつやめるのですか
いい本だと思います。
自閉症と言えばまずは「視覚的支援」と言ってもいいくらいで、自閉症児の日々の生活をラクにして適応力を向上させる(それがひいては親にとっても療育の負担を軽減し、子どもの発達を促すことができる)ための基本として、私たちは視覚的支援について学ぶ必要があります。
そして本書は、「じゃあ、視覚的支援というのは具体的にどんなことを考えればいいのか?」という疑問に答えてくれる入門書です。
過去に紹介した、同様の方向性を持った本としては、「自閉症児のための絵で見る構造化 パート2」や「発達障害のある子とお母さん・先生のための思いっきり支援ツール」がありますが、これらの本がどちらかというと実践例集になっていて、実例としては豊富だけれども体系的になっていないのに対し、本書は「自閉症児への視覚的支援」というただ一点に的を絞って、なぜ視覚的支援の必要があるのか、具体的な視覚的支援のアイデアとしてはどのようなものがあるのか、それぞれのアイデアの実例はどんなものなのか、といったポイントが豊富な写真やイラストとともに紹介されています。
また、タイトルにもあるとおり、対象読者が明確に家庭の親御さんになっていて(過去に紹介した上記2冊の本は、どちらかというとプロの療育者が主たる想定読者になっています)、家で具体的にどんなことをすればいいのかがよく分かるという点も優れていると思います。
なお、本書はPECSについてはまったく触れられておらず、スケジュール、情報の共有、手順書、社会的ルールに対する「視覚的支援」について書かれています。
これらはPECSで教える基本的なコミュニケーションスキルよりやや高度なものだと考えられますので、PECSによるコミュニケーションの視覚的支援がある程度軌道に乗り、さらなる「視覚的支援」をどのように導入すればよいかを考えるときのテキストになると思います。
本書の最大の特徴でもあり、同時に注意すべき点でもあるのが、ボリュームの少なさでしょう。
サイズはB5とやや大きめですが、ページ数は40ページあまりしかありません。目次や参考文献やあとがきなどのページを除くと、療育のための情報が掲載されているページは全部で33ページ分しかないのです。
しかも、先に書いたとおり「写真やイラスト豊富」ですので、文字の量はさらに少なく、読み始めたら確実にその日のうちに読み終わります。
↑本書のレイアウトのイメージとして、冒頭の導入ページを転載しておきます。
これは、多くの方にとってはメリットでしょう。
毎日の子育てに追われている親御さんにとって、「素晴らしい内容がみっちりとかかれている400ページの本」は、もしかすると全部読み終わるまでに子育ての大事な期間が終わってしまうものになってしまうかもしれません。
だとすれば、本書のように、「有意義な内容が手短にまとめられた40ページの本」というのは、1日で読めてすぐ実践できるという意味でメリットが大きいと思います。
ただ、その一方で、私のように自閉症に対する理解を可能な限り深めていきたい、視覚的支援なら視覚的支援で、その内容について「極めたい」と考える読者にとっては、このボリュームでは物足りないと感じてしまうのも事実だと思います。
量的にも、内容の深さ的にも、イメージとしては2時間程度の「大学の公開講座」で語られるくらいのものだと思っていただければいいと思います。
1200円という定価は、海外の自閉症著作の翻訳本としては安いほうだと思いますが、ボリュームを考えると少し割高な印象ですね。
それでも内容はよくまとまっていて、「よく自閉症児には『視覚的支援』が有効だ、というけど具体的にはどんなことをすればいいの?」という疑問にうまく答えてくれていると思います。
「視覚的支援」に関する本をまだ持っていなくて、視覚的支援について手早く知りたい、という方におすすめできます。
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