Slide 25 : 療育を支える「科学の目」(続き)
このような「科学の目」を通して療育を進めていくことは、単に療育をうまくやっていく、ということだけじゃなくて、内面を語ってくれないことが多い、自閉症の子どもが生きる世界を理解するためにも役に立つはずです。
子どもが不可解な行動をする瞬間というのは、「子どもの世界」と「私たちの世界」とのズレが表面化した瞬間でもあるわけです。
ですから逆説的な言い方になりますけども、子どもの「理解できない行動」はそのまま、子どもの世界を「理解する大きなヒント」にもなるわけですね
そのヒントから仮説を導き、検証していくことで、私たちにも、子どもが生きている世界を少しずつ理解できるようになっていくはずです。
もう一つ、科学の目をもつことのメリットは、たくさんある療育の本や専門家の主張のなかから、まともなものとそうでないものを見分けることができるようになるということです。
いくら専門家といっても、結局持っている武器は「科学の目」だけなんですね。
魔法のように自閉症のことが分かる人なんていうのはいません。
ところが、専門家のなかにも、科学の目を使わずに、想像と解釈だけで自閉症を語るようなケースが少なくないのです。
まあ、具体的にどれがというのはここでは言わないことにしますが、科学の目をもっていれば、そういうものを見極めることができるようになるわけです。
ちょっと厳しい話になってしまいますけど、例えば「ナントカ療法は科学的に開発されたものだから絶対に正しい」とか「権威あるナントカ先生の説だから正しい」と盲信してしまうことは、一見科学的な立場に見えて、実は「科学の目」からはもっとも外れたものの考え方です。
そういった名のとおった説であってもいったんは「仮説」としてとらえて、我が子への実践を通じて検証していくことが、自閉症療育では必要なんですね。
端的な例として、自分の仮説に合う事例だけを並べるという「エピソード主義」という手法があります。
よくありますよね、この方法でこんなによくなりました、という体験談をたくさん並べているやつです。
これ、一見信憑性があるように見えますが、実は仮説を検証する力は基本的にありません。
例えば「日曜日に生まれた子どもは自閉症になる」という主張に合う事例を100件並べても、それでは検証になっていないわけです。
(次回に続きます。)