
Slide 24 : 療育を支える「科学の目」
いま出てきた、「仮説検証」を中心とした療育スタイルのことを、私は「科学の目」をもった療育、と呼んでいます。
「科学の目」といっても、物理や化学などの知識のことを言っているのではありません。
そうではなくて、科学の世界で一般に使われている、「ものごとの考えかたや議論のすすめかた」のことを、科学の目と呼んでいます。
具体的には、ここにあるように、「先入観にとらわれない自由な思考」「仮説・検証プロセスを大切にすること」「限られたヒントから正しく推理する力をつけること」、この3つです。
自閉症児はしばしば、私たちにとって理解のむずかしい行動をとります。
理解が難しいというのは、私たちの常識が通用しにくいということとあわせて、コミュニケーションに困難があるために、子ども自身が自分の行動の理由をうまく語ってくれないということもあります。この2つが同時に現れるために、「理解がむずかしい」わけです。
では、理解できないと感じたとき、私たちはどうするでしょうか。
おそらく、本やネットで調べたり、専門家などに相談したりするでしょう。
そうすると、「これが理由なんじゃないか」というヒントが手に入ります。
でも、それはまだ「答え」ではないんですね。
こういう場合、私たちは、すぐに「正解」が手に入ると思ってはいけません。
これが答えかな、と思ったものは、実はその時点では「仮説」にすぎないわけです。
その仮説が正しいかどうかを調べるためには、実際に子どもや環境に働きかけて「検証」しなければいけません。
それが、先ほどから言っている、「仮説・検証」のプロセス、ということになります。
たとえば、子どもが夜起きてしまう、寝付かないといった睡眠障害があったとします。
それに対して、もしかすると原因は「部屋の薄明かり」にあるんじゃないか、と考えると、これが「仮説」になります。
そうすると次は実践を通じた「検証」をやります。
例えば寝るときにサッシを閉めたり常夜灯を消したりして、部屋を真っ暗にしてみるのを1週間くらいやってみればいいわけです。
より確実に検証するためには、何時に寝付いたといったことを記録していくことも有効でしょう。
これで実際に睡眠障害が改善すれば仮説は一応支持されたことになりますし、もしうまくいかない場合は、今度は別の仮説、たとえば「音がうるさいんじゃないだろうか」といったことを検証し直していくことになります。
科学っていうのは、こういった「仮説→実践→記録→検証」というプロセスの繰り返しそのものです。
そして、着実に前進していくのです。
「科学の目」をもつというのは、この仮説・検証のプロセスを大切にして、いつも実践することに他なりません。
これは、TEACCHにしてもABAにしても、どんな療育技法を取り入れる場合であっても同じです。
(次回に続きます。)