
Slide 22 : 「行動レベル」と「知覚・認知レベル」
さて、今日お話しする最後の話題になりますが、今日、前半にお話ししたような心理学の知識を、実際の療育のときにどんな風に活かしていくのか、あるいは、いかがわしい療育法にだまされないためにはどうすればいいのか、そういったことをお話しします。
一言でいえば、「科学的な療育とはどんなものだろうか」という話題です。
ところで、前半のお話で、自閉症というのは、環境とかかわった「経験」を将来に役立つ「知恵」に変えていくことが難しくなる障害だ、といったお話をしました。
もう少し簡単にいえば、「環境とかかわって、学んでいく力が弱い」のが自閉症だ、と考えられるわけです。
でもここで、自分が聞いたことのある自閉症の定義とぜんぜん違う、という疑問が生じる方も多いと思います。
ふつう一般に「自閉症の定義」といわれるのは、自閉症の診断基準のことですね。
これは「自閉症の三つ組の障害」とも呼ばれますが、ひとつは社会性の異常、例えば「他人とうまく関われない」「目が合わない、場の空気が読めない」、そして2つめがことばの異常、「ことばが出るのが遅かったり発話がない」「ことばの使いまわしがおかしい」「オウム返しをする」といったこと、そして最後が興味の限定、「特定のものに対するこだわり」「常同行動と呼ばれる、単調な行動の繰り返し」「変化や切り替えがむずかしい」などです。
これは診断基準ですから、誰が診断しても同じ結果が出せるように、行動レベル、つまり目で見て観察できるような症状によって定義されているのがわかります。
でも、こういった症状が、社会性とことばと興味、それぞれ脳の別の場所が3か所、ぽつんぽつんぽつんとやられているから出るんだ、とは考えにくいですね。
そうじゃなくて、これらに共通する、なにか1つの大きな障害、困難があると考えたほうが自然です。
それが、前半でお話したような、環境とかかわって学んでいくための情報処理のしくみ、一般化という処理のしくみがうまくはたらかないことだ、と考えられるわけです。
情報処理のしくみ、というのは目に見えませんから、「行動レベル」ではありません。
これは、行動レベルよりも一段上に位置づけられる「知覚・認知レベル」の障害を考えていることになるわけです。
つまり、私が今日の前半でお話した自閉症のしくみと、一般にいわれる自閉症の症状・定義というのは、議論のレベルが違っている、ということになるわけです。
(次回に続きます。)