これまでも何度か書いてきているとおり、ABA(応用行動分析・行動療法)的観点から問題行動をやめさせようとする場合の一番基本的な考え方は、
・その問題行動がどのように強化・維持されているか分析する(ABC分析)
・問題行動が強化されないようにする(消去)
・問題行動によって得られていたものを得られるより適切な行動を教える(代替行動の強化)
の3つをセットにして行なうことです。
要求表現のパニックなどであれば、大体はこのやり方でうまくいくのですが、子どもが問題行動をすること自体を面白がっているときは、消去の部分がうまくいきません。
このようなケースの実例として、私が娘に対してつい最近実際に取り組んだのが、鏡の前でよだれをたらすという問題行動への対処でした。
我が家では、「鏡の療育」をいまでも続けていますので、リビングのドアに大きめの鏡が取り付けてあります。
娘もすっかりこの鏡が気に入っていて、よく覗き込んで変な表情をしたりして遊んでいるのですが、ここへきて、よだれをたらすという遊びを「発見」してしまったらしく、鏡に向かってはよだれをダラーっとたらして、それが鏡に映って落ちていくのを見て喜ぶようになってしまいました。
私は、これをやめさせるにはどうしたらいいだろうかと考えました。
やっているのを発見したら罰を与える、というやり方は、おそらく効果的ではないだろう、と思いました。
第一に、よだれをたらしてから私たちが発見するまでに時間がかかる場合があり、そういった場合は罰を与えても効果がないということがあります。
第二に、罰を与えた場合は、おそらく「隠れてよだれをたらす」という行動を学習させてしまうだけなので、それも望ましくありません。
よだれをたらすのをすぐに発見した場合にも、多少時間があいてしまった場合にもどちらにも使えて、それでいてちゃんとこの問題行動の抑制に効果がある方法はないだろうか、と考えて、今まで試したことのなかった方法が1つあることを思い出しました。
それが、「過剰修正法」と呼ばれる問題行動のコントロール法です。
これは、問題行動を起こしたとき、その問題行動よりも長い時間、身体的な努力を要する行動をさせるというもので、どんな「行動」をやらせるかによって、大きく2つのやり方に分かれます。
・積極的練習法
問題行動に対応する「正しい行動」を何度も(過剰に)練習させる方法です。
例えば、オネショをするたびに、ベッドから起きてトイレに歩いていく、という「正しい行動」を10回させるというやり方がこれに当たります。
・原状回復法
問題行動によってもたらされた環境の変化を、問題行動の前よりも良好な状態にまで修復させる方法です。
例えば、壁に落書きをした場合、落書きをした壁だけでなく、さらに広い範囲の壁の清掃をさせるというやり方がこれに当たります。
もちろん、今回の件で採用したのは「原状回復法」のほうです。
娘がよだれをたらしたのを発見すると、すぐに娘にウェットティッシュを渡し、「はい、おそうじ」と言って、よだれをたらした部分の床だけでなく、その周囲半畳分くらいをふき掃除させます(もちろん娘は一人ではできないので、プロンプトしながらですが)。さらにその上から乾いたぞうきんかティッシュで空ぶきをさせて、ティッシュのごみをゴミ箱に捨てる、そこまでやってやっと娘は解放されます。
実は、療育センターでも一時「よだれたらし」をやっていたので、妻のほうから療育の先生にお願いして、療育でも同じように原状回復法で指導してもらうようにお願いもしました。
その結果、娘の「よだれたらし」は半月ほどで消えました。
私としては、この行動がもう少し長い期間続いたとしても、それならそれで「ふき掃除」のスキルがつくかもしれないので悪くないな、と思っていたのですが、意外にも早く消えてしまいました。
これが私たちの「過剰修正法」のおかげかどうかは断言できませんが、少なくとも今回のケースでは、結果的には効果的に問題行動を解消することができました。
この「過剰修正法」は、適当な代替行動がないような問題行動をやめさせたい、というときに効果的だと考えられます。
過剰修正法のポイントの1つは、「叱りながらやらせないこと」です。
過剰修正法でさせていることは「適切な行動」ですから、その行動をしているときに「罰」を与えたら、その行動をやるべきなのかやらないべきなのか混乱してしまいます。
あくまで淡々と行動をさせます。そして、その行動自体が「正しいけどメンドクサイ」→「だから問題行動をしたくなくなる」というつながりとして学習されるように仕向けるのが、過剰修正法だと私は理解しています。
なお、過剰修正法について詳しく知りたい方は、「行動変容法入門」の318~320ページを参照してください。