ここで言っている社会性とは、社会の複雑なルールを理解するといったものではなく、外出先でおとなしくしているとか、親以外の大人と留守番ができるとか、子どもたちの集団の中で迷惑をかけずに遊んでいられる(必ずしもグループで遊ぶという意味ではなく)といった、社会での適応力を高めていくことを指しています。それが、短期的には学校などでの集団生活に、長い目でみると社会での生活のために必要な基礎力になります。
社会性獲得のための第一歩は、問題行動をうまくコントロールするところからです。
親が「問題行動」と受け止める行動には大きく分けて2種類あります。
1つはパニックや自傷・他傷といった、周囲の人や環境に対して具体的かつ深刻な影響があり、やめさせることが確実に本人にとってもメリットがある行動です。そしてもう1つは、指しゃぶりやぴょんぴょん飛び跳ねるといった常同行動、奇声をあげるといった自己刺激系の行動やクレーン現象のように、必ずしも周囲に深刻な問題を与えるものではないが、見ていて「みっともない・恥ずかしい」と感じるような行動です。
前者のタイプの問題行動は、既にご説明したABC分析、消去と代替行動への誘導といったABAのテクニックをフル活用して、問題行動を社会的に受け入れられるような代替行動に切り替えていくことで、子どもも親もストレスを感じないような形で問題を解決することができるでしょう。
具体的な例でいえば、何かを要求するパニックは絵カードなどを使った意味のあるコミュニケーションに切り替えていく、自傷は同じような動き・体への(無害な)刺激をもった別の遊びに切り替えていく、他傷も同様に他人への有意味なコミュニケーションや感情の表現へと切り替えていく、不衛生な遊びは衛生的で同様の刺激が得られる遊びに切り替える、無節操な水遊びは時間と場所を決めたり「水まわりの掃除」のような意味のある行動へ切り替えていく、といった方法が考えられます。
このタイプの問題行動には、必ずその行動をする「理由」があると考えましょう。その理由と解決方法を発見するためのツールが「ABC分析」です。やみくもに禁止しようとしても、その「理由」が解消されない限り、子どもは問題行動を繰り返しますし、やがては「親の目の届かないところでやる」「脱走して、やる」ということを学習してしまいます。
一方、後者のタイプの問題行動(自己刺激行動その他の「奇異な言動」)については、それをやめさせようとする前に、「本当にその行動はやめさせなければならないだろうか?」と自問する必要があります。
自閉症児は、脳の障害のためにうまくこの環境を知覚し、関わることができないでいます。そのために、普通の子どもとは大きく違った形で環境に適応する方法を身につけていると考えられます。
例えばあなたが、自分の手が自分の手だという実感が得られず、「いつかこの『よそ者の手』が自分を襲ってくるかもしれない」という不安にとらわれているとします。そして、その手を大きく振り回したときだけ、ほんのしばらくの間、それが自分の手だという実感がわき、その不安が解消されるとしたらどうでしょうか。あなたはきっと、不安に駆られるたびに手を振り回し、「ひとときの安心感」を得ようとするに違いありません。ところが、その行動を「みっともないから」という理由だけで禁止されたとしたらどうでしょう。恐らく、不安を解消する方法を奪われたあなたは、強い不安のために精神的に不安定になり、普段の社会適応にまで支障が出てしまうに違いありません。
自閉症児の自己刺激行動は、この例えのような「精神安定」「自閉症児なりの社会適応」という機能を持っている場合が少なくありません。
親から見て「みっともない、恥ずかしい」と感じる行動であったとしても、それをやめさせることが本当に子どもにとって幸せなことなのか、少し冷静になって改めて自問する必要があると思うのです。
このタイプの問題行動は、「代替行動」と呼べるものがなかなか見つからないという特徴ももっています。ピョンピョン跳ねる自閉症児は、やはりどう見ても「ピョンピョン跳ねたいから」跳ねているように見えますし、それによって得られる「ごほうび」も、「ピョンピョン跳ねることができたこと」そのものであるように見えます。
このような場合、代替行動として選択できるのは「別の場所でやる」、あるいは「より控えめにやる」といったことになります。例えばピョンピョン跳ねるのは外に出たときだけ認めるとか、奇声をあげたときには音量を下げるように指導するといったやり方です。ここでも「単に禁止する」というやり方は非常に成功率が低いことを覚悟しましょう。
さて、問題行動のコントロール以外の、より一般的な意味での「社会性スキル」を一義的に学べる場所は、行政サービスまたは病院その他から提供される集団での療育においてでしょう。もちろん、それに加えて、親の実家での「お泊り」や外出・外食、旅行など、子どもがいまできることを見極めて、少しずつ世界を広げていく努力が必要になります。また、食事の後片付けやカーテンの開閉、ふとんの上げ下ろしなど、子どもにできる家事の手伝いについても、積極的にさせるようにしましょう。
なお、自閉症児の幼児期に関しては、発達水準が上がり認知スキルが向上することによって、社会性とのアンバランスからむしろ社会適応が一時的に悪くなる場合があります。そういった場合は、今までできていた社会的活動(旅行や外出など)の一部が制限されることもありますが、そういったときは無理をせず、アンバランスが生じた問題を解決することを考えましょう。長い目でみれば、子どもの社会性は着実に発達していきます。
(次回に続きます。)