構造化というのは、TEACCHで採用されている療育の枠組み作りのやり方で、自閉症児が理解しやすいように、家庭を含めた「療育の環境」を改変することをいいます。
自閉症児がもっとも苦しんでいるのは、いま自分がどういう状況にいて、何を求められていて、あとどのくらい続けなければいけないのか、といった情報を環境から手に入れることです。「情報を環境から手に入れる」というのは、人から手助けを受けずに、自分ひとりで必要な情報を見つけて理解し、それに従うことをいいます。
例えば、自分がいま療育センターに来ていて、隣の教室に移動してひも通しの課題を始めなければいけない、そしてその課題を10分くらいやったらおやつが食べられる、といったことがよく理解できません。理解できないから、「おやつが食べたい」という短絡的な欲求のためにパニックしたり、なぜ移動させられるか分からなくて混乱したり、いつまで課題をしなければいけないか分からなくて逃げ出したりするのです。
こういった問題は、自閉症児がなまけていたり、言うことをちゃんと聞いていないから起こるのではなくて、まさに自閉症児が持っている脳の障害からくる避けられない困難さから起こっています。ですから、「何度も言って聞かせる」とか「子どもにもっと頑張ってもらう」とか「ビシビシ叱って鍛える」といったやり方では効果がないどころか自閉症児にストレスを与えて状況を悪化させてしまいます。
ここで必要になってくるのが、「構造化」という考え方です。
自閉症児にとって、私たちが普通に生活している環境はあまりに複雑すぎるため、その中から「必要な、意味のある情報を取り出す」ことがとても難しいのです。だとすれば、私たちが環境に働きかけて、自閉症児にとって分かりやすい=必要な情報を取り出しやすい環境を作ってあげる必要があります。それがうまくいけば、自閉症児も自分で何をすべきかが分かり、時間の見通しも持てるようになるので、持っている能力を最大限に発揮できるようになります。
このように、私たちが環境の側にまで働きかけることによって、自閉症児の能力を最大限に発揮できる状況を整えてあげることを、構造化と呼んでいるわけです。
構造化の具体的なアイデアには、次のようなものがあります。
構造化については具体例をいくつも見ることで実感がわく側面が大きいと思いますので、詳細については、そういった具体例が豊富に掲載されたTEACCH関連書を参照ください。
①空間の構造化
②時間の構造化
③作業の構造化
④手順の構造化
⑤視覚化
「空間の構造化」とは、教室や生活空間を物理的に仕切って色分けしたり、1つの場所を1つの目的にしか使わないようにして、「どの場所は何をするところか」を分かりやすくすることです。
家庭の療育でも、「遊ぶ場所」「食事する場所」「課題をする場所」といったものをできる限り区分けし、課題をやるときにテレビがついていたりおもちゃが目に入ったりしないようにするなどの「空間の構造化」が可能です。簡単にいえば「雑然とした環境で何かをさせる」ということができるだけ少なくなるように工夫しなければなりません。
「時間の構造化」とは、スケジュールを事前に提示し、現在どの位置にいるのかが常に分かるようにする、あるいはタイマーなどを組み合わせて、現在の作業がどのくらい続き、次にどんなことがあって、「終わり」はいつ来るのかといった「時間に対する見通し」を分かりやすくすることです。
「作業の構造化」とは、いわゆるワークシステムと呼ばれているもので、作業課題を行なう際に、どんな作業をどのくらいやって、終わったら何ができるかといった情報を分かりやすく提示することで、作業に自発的に取り組める環境を作ることです。また、作業自体を分かりやすく構成することも含まれます。
例えばいくつかの課題をやらせようと考えたとき、課題を「いつもの場所」から持ってきて、課題が終わるごとに別の場所にしまい、持ってきた課題が全部なくなれば終了、といったように、「作業を順当に進めていけばちゃんと終わる」ように手順を工夫することが「作業の構造化」です。
「手順の構造化」とは、1つ1つの作業の進め方や複数の作業の「流れ」を、例えば左から右に、上から下に、道具を出して作業をして道具をしまう、といったように、同じパターンで繰り返し覚えられるような分かりやすい順序にすることです。
そして、「視覚化」とは、耳で聞くよりも目で見るほうが分かりやすい(視覚優位)という自閉症児の特性をふまえ、あらゆる情報を目で見て分かるようにすることを指します。例えば、スケジュールを図示する、作業の流れを絵で上から下に表示する、話しことばではなく絵カードによるコミュニケーションを教えるといったことです。
(次回に続きます。)