ABAでは記録をとることを非常に重視します。
もちろん、私たちは「療育」をしたいのであって、必ずしも厳密に「ABA」をやらなければならないということではないので、普段の生活においてはあらゆることを記録しなければならない、と考える必要はないと思います。
ただ、問題行動や難しい課題などに直面したときは、ABAが持っている記録に関するテクニックが役立つ場面があると思いますので、簡単に説明しておきたいと思います。
①ABC分析
ABC分析とは、ある行動によって何がどう変わるかを表形式で分かりやすく整理する方法です。
紙に3つのマス目を横に並べて書き、マスの上に左から順に「A」「B」「C」と記入してください。
A . | B . | C . |
この表の「A」「B」「C」はそれぞれ、「先行条件」「行動」「結果事象」という意味で、ABAの基本概念である「行動随伴性」をシンプルな図で表現したものです。
もう少しかみくだいて表現すると、「行動を起こすきっかけ」「具体的な行動」「その行動によって起こったこと」がそれぞれA、B、Cのマスに入ります。
欲しいものを手に入れるためにパニックを起こす子どもをABC分析すると、こうなるでしょう。
A | B | C |
おなかがすいた (でも食べ物がない) | パニックする | 食べ物が登場 |
ここでは、子どもの「おなかがすいたが食べ物がない」という状態が先行条件(パニックをおこすきっかけ)、パニックが分析の対象となる行動、「食べ物が出てくる」というのが結果事象(パニックによって起こったこと)になります。
おなかがすいたときの食べ物は強化子として機能しますから、このABC分析によって「おなかがすいたらパニックする」という行動は「食事が出てくる」ことで強化され、定着・維持されていることが分かります。
次に、このパニックを「やめさせたい」と考えた場合、同様にABC分析で「望ましい形」を表現します。
A | B | C |
おなかがすいた (でも食べ物がない) | パニックする | 食べ物は出てこない |
こうすれば、パニックは食べ物によって強化されなくなるので、パニックは消えるはずです。
・・・が、おそらくそう簡単にはいきません。なぜなら、「おなかがすいた」という状態は必ず起こるので、このままでは子どもは食べ物を手に入れることができません。結果として、さらにパニックが激しくなり、親が根負けして食べ物を与え、かえって「激しいパニック」が強化されてしまう事態を招いてしまいます。
ここでは、単に問題行動をやめさせるだけでなく、子どもの側にある「問題(おなかがすいた)」を解決するための別のやり方(代替行動)を強化する必要があるのです。
A | B | C |
おなかがすいた (でも食べ物がない) | パニックする | 食べ物は出てこない |
絵カードを交換 | 食べ物が登場 |
このように整理すると、この問題に対する今後の介入方針は、(a)パニックしても食事を与えないようにして消去すると同時に、(b)絵カードによる要求を教えて食事の要求ができるようにする、となることが分かります。
ABC分析は、このように「現状の分析」と「解決法の模索」の両方を科学的に行なうために使います。
②ABデザイン
ABC分析によって現状の分析と解決案ができた場合、そのアイデアが本当に効果があるのかを調べるための方法が、この「ABデザイン」です。(他にもいろいろやり方がありますが、ここでは一番シンプルなものだけを紹介します)
これも、名前ほど大げさなものではなくて、「介入前」と「介入後」の子どもの行動の変化を、同じ基準で計量して比較するというやり方のことをいいます。
例えば、先ほどの「パニックをやめさせて絵カード交換を教える」(こういうABAに基づく働きかけを「介入」と呼びます)であれば、パニックを起こした回数と絵カードで要求した回数を毎日カウントします。当然、介入前はパニックがたくさんで絵カードはゼロのはずです。次に、介入を始めた後も、毎日同様にカウントします。結果として、パニックの回数が減り、絵カード交換の回数が増えてくるようであれば、介入は成功していると評価できます。
よくやってしまう失敗は、介入「後」だけを記録して、「何となく成功しているみたい」といった評価しかできないというパターンです。ポイントは、介入「前」も記録をとっておく、というところです。
(次回に続きます。)