問題行動を起こす子どもは、それによって得られる「ごほうび」を求めていて、それを手に入れるためにその問題行動を起こしている、とABAでは考えます。
ですから、その「ごほうび」を与えなくするだけでは不十分で、問題行動とは別の、より適切な行動で、しかも同じ「ごほうび」が手に入る方法を提示してあげる必要があるのです。そうしなければ、子どもはどうやっても「ごほうび」が手に入らないことになり、強いストレスを与えてしまうことになります。
例えば、課題が難しすぎるときにパニックを起こしてその場を逃げようとする子どもには、パニックをしても課題からは逃げられないと教える(課題から逃げられるという「ごほうび」を与えない=消去)のと同時に、例えば手をあげたり絵カードを提示したりすることで「この課題は難しい」という意思表示ができるように訓練します。そうすれば、子どもはパニックという問題行動を起こさなくても、より適切な方法で「難しいから助けて欲しい」という意思表示ができるようになり、それによって休憩したり別の課題に替えてもらったりといった、子どもが必要とする適切なサポート=「ごほうび」が手に入るようになります。
消去と代替行動の強化をセットで行なうことが、問題行動をやめさせるためのABAの基本になります。
※自己刺激行動などは行動そのものが「ごほうび」になっている場合もあり、ここで紹介したような「消去と代替行動のセット」が使えない場合もあります。そのような場合で、かつ本当にその問題行動をやめさせなければならないケースでは、やむを得ず「罰と代替行動のセット」を使う場合もあるでしょう。この場合も、できるだけスムーズに問題行動を代替行動のほうに誘導していくことが大切です。
ABAの基本的な原理はこれで終わりです。
ABAの考え方がそれほど難しいものではなく、むしろ私たちが困っている問題に対して、とても具体的で効果のあるやり方をシンプルに教えてくれるものだということが理解いただけたのではないかと思います。
ここからは、ABAのもう少し発展的な内容についてかいつまんで書いていきたいと思います。
最初に、ABAで新しい行動を教えるときの2つのテクニックについても簡単に解説しましょう。
e. プロンプトとフェイディング
f. バックチェイニング
例えば、先ほど例にあげた「いすに座る」という行動を初めて教えるときのことを考えてみましょう。
もっとも原始的な方法は、いすを用意して、子どもが偶然いすに座るのをずっと待っている(そして運よく座ったら「ごほうび」をあげる)というやり方です。でも、こんなやり方ではやっていられませんね。
ですから、まずは子どもの体を誘導して、いすに座ることを「手助け」します。そして手助けによっていすに座ることができたら、即座に「ごほうび」を与えます。
この「手助け」のことを「プロンプト」と呼びます。プロンプトには、物理的に相手の体を動かすことや、身振りやことばで指示を与えること、見本を見せることなどが含まれます。
山本五十六の有名な言葉に、「やってみせ 言って聞かせて させてみて ほめてやらねば 人は動かじ」というのがありますが、この最初の3つがすべてプロンプト、最後の「ほめてやらねば」が強化だと言えますから、まさに山本五十六はABA的リーダーシップでもって部下の指導管理を行なっていたと言えるかも知れませんね。
プロンプトに関する重要なポイントは、できるだけ早くやめなければならない、ということです。そうしないと、望ましい行動を自発的にすることではなく、「プロンプトされたらやる」という受身的な行動が学習されてしまいます。つまり、プロンプトが本来の手助けではなく、行動を始める必要条件に変質してしまうわけです。ですから、プロンプトによって目的の行動が出てくるようになったら、すぐにプロンプトをやめることを検討し始めなければなりません。
とはいえ、プロンプトをいきなり完全にやめてしまうと、子どもは困惑してしまいますし、成立しかけた学習が壊れてしまいます。ですから、プロンプトは少しずつ減らしていくことが必要です。例えば、いすに座らせるためのプロンプトであれば、最初はいすにしっかり座るところまで手助けしていても、やがていすの前に移動して腰をおろし始める手前で手助けをやめ、次にいすの前に移動するところで手助けをやめ、だんだんいすからの距離を離していって、最後にはまったく手助けせずに子どもがいすに座れるようにします。
物理的に体を動かすプロンプトから、ことばによるプロンプト(指示)に切り替えていくようなやり方もあります。この場合は、最初は体を動かしながらことばかけも同時に行ない、体を動かすプロンプトだけを減らしていきながら、最終的にはことばの指示だけで子どもが行動できるように働きかけていくことになります。このやり方は、こちらの指示を聞くことが目的であるような行動に特に効果的です。
これらのように、一度与えたプロンプトを徐々に減らしていくことを「フェイディング」または「プロンプト・フェイディング」と呼びます。
次回は、バックチェイニングについて解説します。
(次回に続きます。)
お久しぶりです。
区切りの良いところで一度コメントしおうと思っていたのですが、中々きっかけがつかめませんでした(笑)。どんどん掘り下がって行く物ですから(笑)。
プロンプトは私たちは4段階の物を使います。
言葉を教える課題と動作を伴う内容の課題でプロンプトは異なるのですが、基本的には、プロンプトのレベル1は手取り足取り、つまり「体の誘導」など、レベル2はそれを部分的に行う、レベル3は身振りなど答えをジェスチャーで教える、レベル4はプロンプト無しで行う、つまりプロンプトをフェイドアウトしたものです。
そうやって、仰られているように徐々に消去していくわけです。
私たちはこれを仕事として行っているので、もう少し細かい事まで行いますが、理論は同じです。
また、罰についても仰られている通りです。
とは言ってもやはりある程度メリハリは大事ということで、タイムアウトは使います。タイムアウトというと訴えられるので、休憩(ブレイク)と呼びますが、子どもがパニックしたり、課題を拒否したり、なんらかの行動をおこすと、そのまま放っておくのではなく、それはいけない事なんだ、ということを休憩させる、つまり休憩専門の部屋まで連れて行かれるもしくは休憩の椅子に座らせられることで学ばせて行く訳です。結局罰と余り変わらないのですが、手を出す訳でもなく、怒る訳でもなく、その行動についてはほぼ言及せず、体で学ばせているような感じです。
でも、このタイムアウトの使い方、使うかどうかなどはコンサルタントによって本当にまちまちです。
更に訴訟大国のアメリカだからか、どの子どもにいつどうやって休憩をとらせるのか、またはその子どもは休憩がそもそも有効なのかということ、その反対に、いつ何処で何をどうやって褒めるのか(椅子に座っていられたら30秒置きに褒める、お菓子を与えて褒める、もしくは背中をさすって褒めるなど)を、Behavior Plan としてコンサルタントが書き、保護者の方の承認を得ます。そして、30秒おきに褒めることが承認されれば、私たちは本当に子どもを30秒置きに褒めます。かなり大変な作業ですが、私も、同僚も常に誰かしら一日中褒め続けています。
長くなり、申し訳ありません。
それでは良いお年をお迎えくださいませ。
来年も宜しくお願いいたします。
詳しいコメントありがとうございます。とても参考になります。
ABAは、「仕事として」やるっていうのは大変なことだろうな、と思います。訴訟大国であるアメリカでは特にそうでしょうね。(アメリカというのは国の文化そのものが相当に「行動主義」であるように思います。)
私が個人的に目指したいのは、「アマチュアのABA」というか、ABAとして正しくて、かつ誰でも実行できるように枠組みとしてはできるだけゆるやかなものを作る、という方向性ですね。
とにかく自閉症に関してはプロの療育サポートが絶対的に不足しています。だから、忙しいアマチュアでもできて、しかも効果的な療育法を模索したいと思っています。それはこのブログの当初からのチャレンジです。(ですので、ブログトップのショートコメントにもそういった趣旨が入っています。)
塩田さん、今年もよろしくお願いします。
塩田玲子です。
明けましておめでとうございます。
ボストンも日本から14時間遅れて、やっと年が明けました。毎年日本との時差を一番感じる日が,私にとっては新年です。
アマチュアでもできるABA、
まさにそうですね。私も今月から通信としてサポートを始めましたが、どうやって皆さんにわかりやすく、そして実践しやすく、このがっちりと枠組み出来上がってしまっているABAをアレンジするのか、正に試行錯誤しております。特に、プロンプトの消去をどうわかりやすくお教えするか、が私にとってはチャレンジです。どうしても私が4段階でプロンプトの消去を行うことにこだわってしまって、難しいです。
アマチュアでもできるABA、本当にそうだなぁ、と何度も言ってしまいますが、同感しました。私の今年の目標は、頑張ってくださいという療育ではなく、楽しんでください、と言える療育の提供です。
それでは、また。
追伸:奥様のブログも拝見しています。娘さんも着々と成長されていらっしゃいますね。子どもの成長は本当に嬉しいですね。