療育の最初の目標である、「こちらからの働きかけに最小限の反応がある」、具体的にいうと、何かを欲しがったり、嫌がったり、愛着行動を示したり、鏡に対して自発的な働きかけのようなものが出てきたりといった行動が出てきたら、これまでの最も初歩的な療育を継続しつつ、少しずつ、より本格的な療育プログラムを導入していくことを考えます。
遅くともこの段階で、どうしても知っておきたいのが、ABA(応用行動分析、行動療法)の考え方、テクニックと、TEACCHで活用される「構造化」の考え方です。
1) ABAの考え方
ABAというのは、科学的に確認されたヒトの行動に関する知見を応用し、子どもの行動に適切に働きかける(介入する)ことで、子どもの行動を変えたり、新しいことを学習させたりする療育のテクニックです。
これからABAのテクニックを見ていきたいと思いますが、その内容の中には、普段の私たちの子育てとほとんど変わらない「当たり前」のように見えることと、常識とは少し違う、「意外なこと」の両方があるのではないかと思います。
例えば、「ほめて伸ばす」というABAの基本中の基本は「当たり前」に見えるかもしれませんが、その裏返しである「罰を極力使わない」というポイントは、もしかするとちょっと「意外なこと」に思えるかもしれません。
まずは、これらABAの大原則を、次の3つの基本ルールで表現してみたいと思います。
[ABA子育ての3大基本ルール]
a. 望ましい行動の直後に「ごほうび」を与えることで、その行動を起こりやすくする。(強化)
b. 望ましくない行動の直後に「ごほうび」を与えないことで、その行動を減らしていく。(消去)
c. 望ましくない行動に代わる望ましい行動を提示し、「ごほうび」を与えることで、望ましくない行動を望ましい行動に切り替えていく。(代替行動)
ABAでは「行動随伴性」という概念が登場します。
一見難しそうですが、「ある行動に対してどのような『結果』がついてくるか」という関係(に注目すること)を指しています。ですから、子どものいろいろな行動について、「その行動の結果、どんなごほうびやいやなことがが起こるか」ということを考え、その関係を積極的に変えていく(介入する)ということにつながるわけです。
例えば、子どもにいすに座ることを教えたければ、子どもがいすに座ったら(望ましい行動)子どもの好きなお菓子を与える(ごほうび)、ということを繰り返せばいいわけです。これを「強化」といいます。
ここで重要なことは、ごほうびは、望ましい行動の直後に与えなければならないということです。「いすに座る」という行動を「強化」したければ、いすに座った瞬間にごほうびをあげなければなりません。逆に、「いすに座り続ける」ことを訓練したい場合は、いすに座っている一定時間ごとにごほうびをあげます。しばらくいすに座らせて、子どもが飽きて立ち上がったときに「よくがんばったね」と言ってごほうびをあげてしまうと、ごほうびの直前の行動、つまり「飽きていすから立ち上がる」ことを強化してしまうので注意しましょう。
望ましくない行動をやめさせるときは、「罰」を与えてやめさせようとしてはいけません。罰(行動の直後にいやなことを与えて行動を減らそうとすること)は効果的ではないのです。
罰によって一時的に行動は抑えられるかもしれませんが、罰をやめればまた行動は復活してしまいますし、親の目の届かないところでその望ましくない行動を起こすようになります。罰によって抑えることができるのは、「問題行動をすること」ではなく、「親の前で」問題行動をすること、でしかないのです。
ここでABAのルールを1つ追加しておきましょう。
d. 望ましくない行動を抑えるために、罰を与えることはできるだけ避ける。
(補足になりますが、私たちはなぜついつい罰を使ってしまうのでしょうか? それは、罰の直後に問題行動がおさまる、という「ごほうび」が与えられるために、私たち自身が罰を使うことを「強化」されてしまっているからです。長期的には効果の薄い応急処置でしかない「罰」が広く使われる理由はここにあります。このように、自分自身の行動もABA的に行動随伴性で考えることは、けっこう役に立ちます。)
では、罰を与えずにどうすればいいかというと、ルールのb.とc.にあるように「消去と代替行動」を使うのが原則です。
消去というのは、行動を強化していた「ごほうび」を与えないようにすることで、その行動を徐々に起こりにくくしていくことです。
ABAでは、どんな問題行動も「ごほうび」が与えられているから続いているのだ、と考えます。
たとえば自閉症児のパニックを考えてみましょう。親としては、パニックに「ごほうび」を与えているとは考えたくありませんが、冷静に考えてみると、それによって欲しいものが手に入ったり、嫌な課題を避けられたり、嫌いな場所を脱出できたりといった「ごほうび」が存在することに気づくはずです。
問題行動をやめさせるためには、まずは何が「ごほうび」になっているのかをはっきりさせることです。そして、問題行動を起こしても、その「ごほうび」が手に入らないように私たちの行動や環境を変えます。これによって問題行動を「消去」するのが、とても大切な第一歩です。
そして、消去と同じくらい大切なのが「代替行動」です。
(次回に続きます。)