2006年10月28日

格闘探偵団 走れ!タッ君(まんがレビュー)

こんなところに自閉症まんがが。


格闘探偵団 第4巻・第5巻 走れ!タッ君
小林まこと
講談社 イブニングKC

まったくノーマークだったんですが、たまたま、この2冊が自閉症の話題を盛り込んだまんがで、しかもアクションギャグマンガでもあるということを知り、いったいどんな作品なんだろうと気になってAmazonで注文してしまいました。

この作品は、「What's Michael」「1・2の三四郎」などで有名な小林まことが2005年あたりに週刊イブニングで連載していた作品のようです。
そして、単行本の全5巻のうち、第4巻・第5巻が「走れ!タッ君」という副題のついた一連の事件を扱っていて、ここに「タッ君」という自閉症児が登場します

ストーリーのあるまんがですので、ネタバレしないようにあらすじだけ追うことにしますが、主人公である「元プロレスラーの探偵」、東三四郎がある誘拐事件に巻き込まれます。そして、そこで誘拐され人質になったのが、最重度のA1判定の愛の手帳を持つ自閉症児、「タッ君」だったのです。

格闘探偵団
↑愛の手帳を発見することで、タッ君が知的障害児であることに気づくシーン。

誘拐犯と間違えられた三四郎は、やむを得ずタッ君、タッ君の誘拐犯の3人で逃避行を始めますが、予想もつかないタッ君の行動に振り回されっぱなしになります。

格闘探偵団
↑いかにもありそうな、店から勝手にものをとってきてしまうシーン。

そして、自閉症児とかかわったことはもちろん、育児の経験もない主人公と誘拐犯が、さまざまな意味で、「自閉症児の子育て」を疑似体験していくことになります。

格闘探偵団
↑人質であるはずのタッ君の行動で、肩身の狭い思いをする誘拐犯。

格闘探偵団
↑それでも、彼らを「家族」だと思って優しい声をかけてくれる人もいます。

この、タッ君とのかかわりの過程の中で、自暴自棄だった誘拐犯の心境に微妙な変化が生まれてきます。

そしてストーリーはクライマックスへ。
最後はいかにも男性誌らしい「北斗の拳」ばりのアクションものになりますが、ここでも「タッ君」は脇へ追いやられることなく、重要な存在として登場します。

この作品を読んでいて驚きだったのは、普通に楽しくあっという間に読めてしまったこと。
これには2つの重要な要素があって、1つはアクションギャグまんがとして破綻なく面白く仕上がっていて、自閉症という特異なテーマを盛り込んだことによる不自然さや無理さがまったくないということです。「タッ君」の存在は、茶化されることも、逆に過度に深刻に扱われることもなく、ただ自然にそこに描かれます。

そしてもう1つは、自閉症児であるタッ君の描写が、自閉症児の親の視点でみても、違和感がほとんどない、ということです。なのでストーリーに集中できます。
「自閉症児がそばにいる」、ただそれだけのことで、片時も目が離せず気が休まらない、電車に乗ったり食堂に入ったりする「当たり前のこと」がとても困難なチャレンジになる、でもそんな苦労の中にも、あるいは苦労があるからこそ、つきあっていく中で「いとおしい」と思えてくる、そういったエモーショナルな部分の描写は、「光とともに・・・」あたりよりも上かもしれません。
それは、「タッ君」が当初は赤の他人(それどころか誘拐した人質)で、かつ相手をするのが育児も経験したことのない男2人だという設定の勝利かもしれません。「タッ君」との心のきずなは、まんがのストーリーの中で、最初はゼロのところから、しかも「親子の愛情」といった規定されたものとは違う形で、徐々に形成されていくのです。この辺りの描写は絶妙だと思います。

こういうごく一般的なコミックで、自閉症が、親子というある種「閉じられた」関係以外の文脈で取り上げられるというのは、素晴らしいことだと思いますね。
自閉症の難しい本も読みたくない、「光とともに・・・」のような子育てまんがにも抵抗がある、という人でも、これなら楽しく読めると思います。(ただ、大したことはありませんが、男性コミックのため多少のお色気要素がありますので、小さい子どもに読ませる場合はご注意を。)

もちろん、このまんがを読んで自閉症が「理解」できるわけではなく、あくまで自閉症を知るきっかけになるくらいだとは思いますが、それでも自閉症コミックの隠れた佳作として評価したいと思います。

※その他のブックレビューはこちら


posted by そらパパ at 18:01| Comment(11) | TrackBack(0) | 雑記 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
これ、読みました。
けしておしつけることなく、さらっと、愛情深く描かれていると思いました。
きっと、タッ君のモデルとなったお子さんがいらして、その子との出会いは作者にとって大切なものなのであったのだろうと、想像させます。
Posted by a at 2006年11月07日 23:04
aさん、はじめまして。

コメントありがとうございます。

そうですね。
作者が自閉症のことをちゃんと理解していて、かつそこに「暖かい『目』」のようなものさえ感じるところからすると、きっと作者にとって意義深い「出会い」があったのだと思います。

他に類をみない、ユニークな作品に仕上がっていると思いますね。(^^)
Posted by そらパパ at 2006年11月07日 23:45
そらパパさん
すてきなブログいつも読ませていただいてます。感謝!

このコミック、大好きなんです。
いろんな方々に紹介し、
爆笑と感動を与えている作品。

つい先日も、息子の支援アドバイザーさんに
読んでいただきました。
「おもしろくて、感動しました。」
というありがたいお言葉を頂戴いたしました。
この作品のよさは、まさしく、そらパパさんのおっしゃるとおりで、私ごときがコメントを挟む余地はありません。

我が家は、息子と、どんどん外に出るタイプ。たっくん同様、毎日マラソンしてますよ。

私なら、殿堂入りにしちゃうかも・・・・

そらパパさん、いろいろありますが、
楽しみましょう。
生きてるってことは、素晴らしいことです。
バランスのとれた見識に、
疲れた時や何かなぁ~ちょっと休みたくなった時など、ここに来て、元気をもらっていくんです。
これからも、よろしくお願いしますね。
Posted by ひろ君のママ at 2010年05月15日 20:39
イブニングに連載中の
小林まことの「水掛時次郎」にもASD?の男の子が出てきてますよ。
Posted by ヒゲ達磨 at 2010年05月16日 09:39
ひろ君のママさん、ヒゲ達磨さん、

コメントありがとうございます。

このレビューはけっこう前に書いたものですが、これ以降も、「療育・子育てまんが」という枠組み以外で、自閉症が扱われているまんがはほとんど見ないですね。

ヒゲ達磨さんがおっしゃっているまんがはまだ読んだことがないのですが、そうだとすると、こういったタイプのまんがを描くのは、この小林まことっていうまんが家さんだけという状態に近いのかもしれませんね。

また、応援コメント、ありがとうございます。
私も、皆さんからのコメントから元気をもらっています。
これからもよろしくお願いします。
Posted by そらパパ at 2010年05月16日 12:44
前記の「沓掛時次郎」最終回掲載のイブニング巻末に作者・小林まこと先生のコメントがありました
『~太郎吉を発達障害の子供としたことに対して、いろいろと間違った情報が飛びかっているようですので、書かざるをえません。自閉症児について綿密に取材したわけでもなんでもなく、モデルとなったのは、私の息子であります(現在15歳)ただの親バカなのでありました』
Posted by りんご at 2010年10月28日 16:58
りんごさん、

コメントありがとうございます。

そうでしたか、やはりこのまんがの「自閉児を見る目」がほんとうに温かくて、しかも描写がリアルだな、と感じていたのですが、お子さんが自閉症だったのですね。(現在15歳ということは、中学3年か高校1年生でしょうか。)

情報ありがとうございました!
Posted by そらパパ at 2010年10月28日 17:11
初めまして。失礼致します。
小林まことの検索でこのページにたどり着きました。
小林まことは画力も有り話しもしっかりしていて大好きな漫画家です。

「沓掛時次郎」はお読みになりましたか?
時代劇ですが登場する子供はタッくんです。
(読まれていたら申し訳ありません)
しっかり軸になっていましたよ。
小林まことという漫画家は「スターシステム」で描く事が多いので
(手塚治虫がヒゲオヤジを色んな漫画に登場させるアレです)
またどこかの作品でタッくんが登場するかも知れませんね。
Posted by Rimmer at 2012年07月04日 23:37
Rimmerさん、

コメントありがとうございます。

「沓掛時次郎」、さっそくチェックしてみました。

こちらの作品ですね。

http://www.amazon.co.jp/gp/product/4063523365/ref=as_li_ss_tl?ie=UTF8&tag=soramame-shiki-22

レビューなどを見ると、たしかに自閉症の子どもが出てくるという記述もありますし、そもそも表紙にタッくんがいます(笑)。

というわけで、購入してみました。
またレビュー書くかもしれません。

貴重な情報、ありがとうございました!

Posted by そらパパ at 2012年07月08日 21:37
たっくんは小林先生のお子さんがモデルなんだそうです

だから描写がリアルなんだと思われます
Posted by こんばやし at 2012年11月08日 18:22
こんばやしさん、

コメントありがとうございます。

「タッ君」のモデルが小林先生のお子さんだという話題は、このコメントツリーの真ん中くらいにも出てきていますね。

2年前に15歳、ということだそうなので、現在は17歳くらいなのでしょうか。
Posted by そらパパ at 2012年11月11日 22:42
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