※前回の記事が、既に約2年前になってしまいました(^^;)。過去の記事は、左のタブの「ライブ・自閉症の認知システム」からご覧になれますので、ぜひそちらもあわせてご覧ください。
Slide 17 : プロジェクトとしての家庭療育
さて、時間ももうあまりありませんが、残りの時間を使って、心理学の話からは一旦離れて、家庭での療育について、思うところをお話ししたいと思います。
絵カードの作りかたといった具体的な療育法についてお話ししようかとも思ったのですが、限られた時間のなかで、私だからお話しできることを優先したほうがいいと思いましたので、今日は、そういったことではないお話をしようと思います。
自閉症のお子さんをお持ちのご家族にとって、家庭での療育というのは、家族全員を巻き込んで、さらには家庭の時間をまるごと巻き込んで、しかも何十年と続いていくような、非常に密度が濃くて息の長い取り組みになります。
やることはいっぱいありますね。
最終ゴール、目標は、子どもと家族の幸せ、人生の幸せを実現することです。
もちろん、これとは違う目標をイメージされる親御さん、ご家族もいらっしゃると思います。どんな目標でもいいと思いますが、家族の中の誰かが犠牲を払うとか、重い負担に耐えるとか、そういった内容は「最終」ゴールにはならないはずですよね。
仮に途中のプロセスでそういう苦しい時期があったとしても、最終的には家族全員にとってハッピーな状況を目指す、そういったものが「最終ゴール」になるんじゃないかと思います。
ともあれ、その「最終ゴール」にたどりつくためには、家族みんながチームとしてうまく分業して、戦略的にいろいろなことに取り組んでいかなければなりません。
また、学校とか療育機関だとか地域のコミュニティといったところとうまくコミュニケーションをとって、子どもにとって生活しやすい、能力を伸ばしていきやすい環境を作っていくことも必要になってきます。
さらにいえば、家族の誰かが精神的に参ってしまったりしないよう、メンタルヘルスに気を配りながら、常に楽しい企画を組んで家族を盛り立てていくようなことも必要になりますね。
こういったことを総合的に考えると、自閉症の療育というのは、「家族の一大プロジェクト」だ、といってもいいと思います。
そして、こういう大きなプロジェクトを成功させるためには、プロジェクト全体を総合的に見て、判断し、取り仕切る「リーダー」の存在が欠かせません。
私が書かせていただいている本「自閉症の子どもと家族の幸せプロジェクト」では、仕事で忙しくて、なかなか子育てに参加できないお父さんには、この「プロジェクトのリーダー」という役割を担ってもらったらいいんじゃないでしょうか、という提案をさせていただいています。
ふだん、仕事で忙しくてなかなか療育に参加できないお父さんであっても、あいている時間を最大限に活用してリーダーとしていろいろな工夫をこらしていくことはできるはずです。もしそれによって毎日の療育の負担を軽くすることができれば、それは療育を分担しているのと同じかそれ以上に、家族の毎日の生活に貢献できるわけです。
この後、リーダーの役割についてお話しすることになりますが、療育の負担を軽くすること、言い換えると、療育ないし子育ての「効率」を高めていくことは、その「役割」のなかでも、もっとも大切なものの一つだと言っていいだろうと思います。
ただ、誤解していただきたくないんですが、ここでいっている「リーダー」というのは、単に家族に命令だけをしてふんぞり返っているような、古めかしい管理職的なリーダーのことではありません。
そうではなく、小さなチームを自ら汗をかいて切り盛りする「プレイング・マネージャー」、つまり、リーダーとして全体を統括し、うまく取り仕切っていく仕事に力を入れつつも、実際の現場の仕事もやる、そういう小回りの利くプロジェクト・リーダーになることを提案しているわけです。
かつて、ヤクルトで古田敦也さんが「監督兼選手」というのをやっていたことがありましたが、まさにああいうイメージですね。
現場で実際の仕事を担当して、実際に汗を流すリーダー、それが、家庭での療育というプロジェクトに求められるリーダー像です。
(次回に続きます。)