今回は、障害者論の金字塔とも言える「すごい本」をご紹介します。
障害者の経済学(増補改訂版)(レビュー記事)
この本は、2007年ごろに一度読んで、それで「すごい本だなあ」と思って当ブログでレビューを書き、殿堂入りさせた本です。
その後、去年(2011年)の秋ごろに増補改訂版となり、同時に電子書籍がリリースされたようです。(上記リンクも「増補改訂版」へのリンクになっています)
私は先日、ソニーの電子書籍リーダー、「Sony Reader」を購入し、ストアで面白そうな本を物色していたところ、この「増補改訂版」を発見し、さっそく購入、ダウンロードして改めて読みました。
Sony Reader
(左の2つはコンパクトで読書特化型の5インチモデル。右の1つは多機能でWifiダウンロードやSDカードも使える6インチモデル。私は5インチモデルを買いました。)
増補前の本と、増補改訂版とを比較すると、冒頭「はしがき」と第9章「障害者就労の現状と課題」が新設されています。
目次
はしがき
序章 なぜ『障害者の経済学』なのか
第1章 障害者問題がわかりにくい理由
第2章 「転ばぬ先の杖」というルール
第3章 親は唯一の理解者か
第4章 障害者差別を考える
第5章 施設は解体すべきか
第6章 養護学校はどこへ行く
第7章 障害者は働くべきか
第8章 障害者の暮らしを考える
第9章 障害者就労の現状と課題
終章 障害者は社会を映す鏡
それに加えて、既存の章についても加筆修正があるようです。
著者自身が「はしがき」で触れていますが、当初の版が出てから増補改訂版が出るまでの間に、障害者自立支援法の施行、その後の混乱という大きな状況の変化があったことを考えると、本書が増補改訂されたことは、本書が今後も長く読まれ続けるためにとても意義あることだったと思われます。
本書に対する印象は、当初のレビューから大きく変わっていません。
今読んでも新鮮な気持ちで読めますし、「転ばぬ先の杖」型社会から「案ずるより産むがやすし」型社会への転換を目指し、障害ある人の人生の選択肢を増やし「自ら人生を選べる」ことを目指すことこそが、「自立」なんだ、というメッセージの存在感は圧倒的です。
そんなわけで、今回は増補改訂版で新設された「第9章」について触れたいと思います。
著者は、「障害ある人にとっても、『施設の内側』ではなく、『開かれた社会』こそが人生を生きる場であり、人生の選択肢を増やす場である(はずである)」という立場から、障害者自立支援法が目指す方向性、そして実態としての障害者雇用の拡大に肯定的です。
そして、経済学における大発見といわれるリカードの「比較優位の原則」から、健常者よりも能力が劣る障害者であっても、適切な仕事の割り振りがなされた「働く場」が与えられれば、社会の生産性向上に貢献し、世の中の役に立てる可能性を明確に示します。
比較優位の原則については、本書の中でも触れられていますが、例えばこちらなどが分かりやすいです。
簡単にいうと、「仮に、Aさんが何をやってもBさんよりも生産性が劣っている(絶対劣位)としても、その中で比較的得意なこと(比較優位)だけに特化して仕事をしてBさんにはそれ以外の仕事をやってもらうようにすると、AさんBさん双方の生産性があがる」という、ある意味とても不思議な(でも、簡単な計算によって明確に示せる)原則です。
これは逆にいうと、「得意なことに特化した仕事がうまく与えられないと、絶対劣位だけが前面に出て、比較優位が活かせない」ということでもあります。
本書では、そういう視点から、いくつかの特例子会社の成功例を「比較優位の原則をうまく活用している事例」として紹介していきます。
そのうえで、「比較優位が活きるよう、どう仕事を『切り出す』べきか」という、まさに経済学ならではの明快な視点から、障害者就労を考え、障害ある人を真の戦力として活かしていくための方向性を提示していきます。
さらには、障害ある人のための「配慮」は単なるわがまま・社会の負担か、「理にかなった」ものなのか、その配慮がなされないのは「差別」なのか「資源配分上やむをえないこと」なのか、といった問題にまで切り込んでいきます。
うーん、やっぱりこの本はすごい。
分かりにくくて、答えが出しにくい、本当に難しい問題について、中途半端に問題を切り捨てることなく(こういうテーマでそれをやってしまうと、たいてい「切り捨ててこぼれたほう」に問題の本質が入ってしまいがち)、でもぎりぎりまで分かりやすく明快な答えを出してくれています。
初版が出てから5年以上たった今でも、障害について考えるときには欠かすことができない「必読書」だと思います。
(次回に続きます。)
こんな本があったんだ、と感動しました。
著書があとがきで書かれているような「当事者感覚からの脱却」がない人には、少し受け入れがたいところもあるかもしれませんが、障害者に何らかの形で関わる人にはぜひぜひ読んでほしい本だな、と思いました
ここで紹介されてなかったら、知らなかった本だと思います。ありがとうございました。
コメントありがとうございます。
私も、読後感としては同じく「感動」に近いものを感じました。
感動させよう、させようという本ではない「障害についての本」を読んで、結果として感動する、という経験は私もそれほどないので、その分衝撃的でしたね(^^)。
確かにおっしゃるとおり、自分自身の「当事者の家族性」を客観的にとらえられているかどうかで、この本の評価も変わってくるように思います。
レビューがお役に立って嬉しく思います。
これからもよろしくお願いします。