以上が、私の考える、自閉症本を読むときに求められる、「批判的な読み方」です。
分かりにくいかもしれませんので、最後に具体的な例を示しておこうと思います。
例えば私が、「○○メーカー製の消しゴムには自閉症の有効成分が入っている」と主張して、その消しゴムを自閉症児の額に当てて1時間呪文をとなえる、という療育法を編み出したとしましょう(もちろん、こんなものはデタラメに決まってます)。
そして、その療育法を100人に実施したら、1年後に半数もの子どもの発達指数が向上したとします(実は、半数が向上して半数が下がるのは当たり前)。
私は、この療育法を実施した親御さんにアンケートはがきを送り、療育の効果を確認しました。
すると30人から返事があり、うち「良くなった」という反応はなんと25人にのぼりました。(こういうアンケートは「良くなった」と思う人しか返してこないものです)
そこで私は本を出し、「追跡調査に成功した30人中、なんと25人が良くなりました! なんと83%もの成功率です!」と書いたとします(「追跡調査」の詳細は明かすわけがありません)。
さらに私は調子に乗って、「自閉症児に効くのはこの『消しゴム療法』だけであり、この素晴らしい効果に比べれば、ABAもTEACCHも何の役にも立たないのです」と書いたとします。(これは反証にはまったくなっていませんが)
そして、この消しゴムに特別な名前をつけて、1個1万円で販売することにします。私が「業者」なら、ついでに有効成分の効き目が半年で弱まることにして、半年に一度買いなおしてもらうことにしたり、定期的に「さらに強力な新製品登場!」とか宣伝して別の消しゴムを少しずつ値上げして売りつけたいですね。
・・・どうでしょう?
この例では、明らかに怪しげな「消しゴム療法」だからちょっと読んだだけでおかしいと感じるかもしれませんが、これが「○○式教育法」とか「○○サプリメント」とか「スパルタ式○○療育」とか「○○手術」とかだったらどうでしょうか。
ポイントは、このような論法は表面的な文章を追っていただけではインチキだと分からないように巧妙に構成されており、一段高い「批判的読み方」を努力して行なわなければ、ややもするとだまされてしまう、ということです。
私たちは、こういうトリック論法に負けないよう、知識武装しなければならないのです。
そのための、一つの簡単な(そして多少安易な?)やり方としては、信頼のおける人の書く、あるいは薦める本を読むことです。
いわゆる「いかがわしい」本は、著者も、推薦者も、ネットなどで書評を書いてすすめる人も、揃って「いかがわしい」場合がほとんどです。
仮に立派な肩書きがついていたとしても、よくよく調べてみるとディプロマミル(博士号をお金で買える大学)の肩書きだったり、自分で勝手に作った任意団体の「会長」などと名乗っているだけだったりします。
また、芸能人や非常にお年を召された(失礼ですが)事情をよく分かっていないと思われる「名誉教授」のような先生を担ぎ出して、「広告塔」として大々的に掲載するやりかたもよく見られますから、注意が必要です。
ただ、これとは別に、ほとんど効果のない療育法をまったくの善意で信じこみ、推進している研究者・専門家もいますから難しいのですが・・・。
ちなみに、当ブログでおすすめしている本は、基本的には私自身の「批判的読み方」を通して「評価に値する本」と判断したものを取り上げています。私の「目」が正しいかどうかは、私ではなく皆さんの判断いただくほかありませんが、私自身としては、特に「殿堂入り」させている本については、自信を持って薦められる本だと考えています。
4)親の側のメンタルヘルス
この章の最後に、子どもの側ではなく、親の側の心身の健康についての問題について触れておきたいと思います。
自閉症児の親御さんは、どうしても強いストレスにさらされる傾向が強くなります。子どもが一生続く障害を持っているということを受け入れ、頭と体を使って療育に励み、ときには周囲の無理解や差別とも闘わなければなりません。
ストレス、というのは、嫌なことにくよくよ悩むときにだけ生じるものではありません。環境が大きく変わり、新しいことに対応し、慣れていかなければならないとき、期待していたことと異なることがひんぱんに発生するときなどには、気づかないうちに心は強いストレスにさらされています。
人は、強いストレスを受け続けると、「うつ」状態になるリスクが高くなります。一旦うつになってしまうと自分のことだけで精一杯で、仕事や子育て、療育などを続けることは極めて難しくなります。
それを避けるためには、まずは自分自身を追い込むようなハードすぎる療育を「しなければならない」とは思わないこと、「もっとハードな療育ができるのではないか」という罪悪感にとらわれないことです。ここでもあくまでも「継続こそが力」なのです。
そして、夫婦、できれば親や知人も巻き込んだ「サポートの輪」を広げること。さらには、「うつ」について学び、夫婦でしっかり話し合って常にお互いを見守ること、さらには毎日の忙しい療育、子育ての中にも「楽しみ」を見つけ、ストレスを解消できる方法を手放さないことが大切でしょう。
参考リンク:ツレがうつになりまして。(ブックレビュー)
(次回に続きます。)