2006年12月12日

幼児期の療育を考える(21)

3)本を読むときに注意したいこと

医療の場においても、心理の場においても、自閉症児の療育の専門家の数は極めて限られており、需要と供給のバランスは非常に悪いものになっています。どの専門施設も専門医も予約でいっぱいで、数か月待ちはザラです。
ですので、療育について専門家の先生にかっちり付いてもらって、家庭での療育メニューまで含めた詳細なアドバイスを継続的に受けられるという恵まれた状況はほとんど期待できません。

必然的に、家庭での療育の多くの部分について、親御さんは本などによる独学で学び、応用していくことが求められます
幸い、現在では多くの優れた自閉症児のための療育入門書が手に入りますので、本を読むことで家庭での療育を進めていける程度の知識を身に付けることは十分に可能です。
ただし、こういった本を読むことは推理小説や雑誌を読むこととは少し意味が違います。私たちは療育の素人ですが、療育に関する本を読むときは、あたかも療育の専門家であるかのような態度(つまり、一歩引いて書いてあることの妥当性を吟味する態度)をとらなければならないのです。

ここでは、療育についての本を読むときに求められる基本的態度について、簡単にまとめておきたいと思います。

まず、知っておかなければならないことは、「書いてあること=正しいこと」ではない、ということです。

私たちは、博士や教授といった肩書きを持った人が書き、本という体裁で書店に並び、お金を払って買う本には、正しいことが書いてあるはずだという期待をどうしても持ってしまいがちですが、それは事実ではありません。

むしろこういった本には、「正しいこと」ではなく、「著者が信じていること」が書いてある、と考えるべきなのです。そして私たちは、その著者の信じるやり方を、批判的態度で読み解いていかなければならないのです。

「批判的」と書くと、ネガティブに感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、そうではありません。批判的に読む、というのは、頭から正しいとか間違っているとか決め付けずに、書かれている内容を正しく理解し、その内容に妥当性があるかを十分に吟味して評価していく、という読み方のことをいいます。

療育に関する本を「批判的に読む」ためには、およそ次のような点に注意して読むことが求められます。


a) 論旨に一貫性があるか。

著者の主張が本全体を通じて一貫していて、矛盾がないことを指します。
例えば、前半に療育理論があり、後半で実践法が紹介されているような本の場合、前半の理論で言っていることと後半の実践法で目指していることとの間に無理のないつながりがあり、矛盾がないかどうかを確認することができます。
これは、その本を読むだけで分かります。


b) 観念論や同語反復になっていないか。

著者の主張を形成するキーワードが、例えば「愛情」や「安心」、「信頼感」や「トラウマ」といった、目に見えない観念的なものばかりでないか。こういったキーワードばかりで語られる「療育論」は、一見意味があるように見えて、実は何も語っていないことがしばしばあります。
また、落ち着きなく動き回っていることを「多動傾向」といい、「多動傾向」の説明として「落ち着きなく動き回っていること」と定義したりすることを、説明しているようで何も説明していない「同語反復(トートロジー)」と呼びます。
観念論的な療育論はしばしばこのような同語反復に陥ります。同語反復が繰り返された療育書は、読んでいる間は何となく納得した気分になっても、いざ実践しようとすると、何ら具体的なアクションがとれないことに気づいて愕然としたりします。
これらも、その本を読むだけで分かります。


c) エピソード主義でないか。

療育の効果が、数例の個別のエピソードだけで示されていないか。
エピソードを紹介すること自体は問題ありませんし、そもそもエピソードを紹介することそれ自体が目的の本もありますが、エピソードをいくつか紹介することでその療育法に効果があると結論付けるような議論の進め方は、「エピソード主義」として排除されるべきものです
なぜなら、このやり方を使えば、例えばその療育を行なった100例の自閉症児のうち、うまくいかなかった95例を除外し、残った5例を「成功例」として紹介して、あたかも全体に効果があるかのように見せることができるからです。これは、サイコロを100個振って、1が出たものだけを集めて「私はサイコロで必ず1が出せます」と言っているのと同じです。
療育の効果を示すことが目的であるなら、少なくとも無作為に選んだサンプル全体に対して、効果があったのが何件あったかという「全体に対する成功率」を示す必要があります。
いわゆる「まがいもの」の療育法には、ほぼ必ずといっていいほど、エピソード主義に基づく「絶大な効果」が誇示されています

(次回に続きます。)
posted by そらパパ at 23:08| Comment(0) | TrackBack(0) | そらまめ式 | 更新情報をチェックする
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