2006年12月11日

幼児期の療育を考える(20)

自閉症の療育技法の中で、検討する価値のあるものを順に紹介しています。

e.ソーシャルストーリーとRDI

ここで紹介する2つの療育法は、基本的な生活スキルやことばに比較的問題の少ない、知的能力の高い自閉症児(アスペルガー症候群のお子さんなど)に対して、最後まで残るとされる大きな困難である「社会性の障害」に対して強く働きかけようとする療育法です。

ソーシャルストーリーというのは、自閉症児がうまく対応できない対人場面などに対して、マンガの一こまのような吹きだしつきのイラストを作ったり、電話応対のマニュアルのような会話例(スクリプト)を作ったりして、「この場面はどんな意味を持っていて、そういう場面に出くわしたらどんな風にふるまえばいいのか」を教える療育法です。
自閉症児が苦手な、目に見えない社会のルールや適切な話し方を、イラストやスクリプトの形で視覚化することで子どもに理解と気づきを与え、あわせて事前のロールプレイなどによってその対応を「練習」しようとする方法だと言えるでしょう。

一方「RDI」では、目に見えない社会的手がかり(言ってみれば「場の空気」)が刻々と変化する状況を理解し、適切に行動できることが社会性の確立のためには決定的に重要だと考えます。そして、子どもの社会性の発達モデルを仮定し、その段階を追って複雑な社会性・対人コミュニケーションを健常児と同じように理解・実践できるように働きかけます。具体的な技法としては、各発達段階ごとに設定されている社会性スキルを発揮しなければうまく達成できないように工夫された遊びを比較的長時間行なうことが中心となります。療育時間だけを見ると、RDIは一種の「集中介入療育」であるとも言えるでしょう。

この2つの療育法は、社会性の改善について、ほぼ正反対と言えるアプローチを取っています。

ソーシャルストーリーのほうが、自閉症児の社会性の障害をある種の生得的な困難として受け止め、そのままでは自閉症児にとって非常に分かりにくい社会のルールを、分かりやすい別のもの(シナリオ、スクリプト)に変換して教えようというアプローチであるのに対して、RDIでは、複雑で流動的な社会のルールを、丸ごとその複雑さのままで(シナリオとかスクリプトのように硬直的なものに「置き換える」ことなしに)理解できなければ、真の意味での社会性は育たないと考え、健常児と同等の情緒的な対人関係を構築することを目指します。

このような対立構図は、どこかで見たことがありますね。
そうです、TEACCH的立場(自閉症児の困難を受け止め、大人の側が歩み寄る)と反TEACCH的立場(複雑な社会に自閉症児の側が適応できるように訓練する)の対比の構図が、ここにも現われているのです。
ですから、単純化すれば、ソーシャルストーリーはTEACCH的であり、RDIは反TEACCH的だといえます。(RDIも場面の構造化など、TEACCHの表面的な技法は導入していますが、療育思想がTEACCHとはまったく異なるわけです。)

導入が容易であり、個別の問題に対処でき、すぐに効果が現われるのがソーシャルストーリーであることは間違いないでしょう。もしもお子さんに「現に困っている場面」があるのであれば、まずはそういった具体的な問題に対し、ソーシャルストーリーによる説明をしてあげるのがお子さんのためにもなると思います。
一方、社会性という名前で教えようとしていることが、まさに型にはめられない複雑で流動的な「場の空気」のようなものであることに注目すると、RDIが強調する「ソーシャルストーリーをいくら積み重ねていっても、真の社会性には到達しえない」という批判も的外れだとは言えません。

いずれの療育法も開発されてからまだ日が浅く、確定的な評価は難しいと言えますが、短期的な問題解決のためにソーシャルストーリーを、長期的な社会性発達を促すためにRDIを使うといった折衷案が(RDIは反対していますが)もっとも現実的なのではないかと思います。
少なくとも、先に書いたとおり「自閉症児の持つ困難の『根っこ』は一生続く」という事実を考えると、RDIは複雑な社会性を取り扱っているから、それを単純化してしまっているソーシャルストーリーよりも「優れている」ということには必ずしもならない、ということは指摘しておきたいと思います。

(次回に続きます。)
posted by そらパパ at 23:11| Comment(0) | TrackBack(0) | そらまめ式 | 更新情報をチェックする
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