特にここで触れておくべきだと思われるのは、ABAに基づく療育法の中でも、週20~40時間、2年間以上という極めて高密度な介入を2~3歳という幼児期に行なう「早期集中介入」とか「高密度介入」などと呼ばれる手法です。
この手法は、今から20年あまり前に、アメリカUCLAのロヴァース博士によって開発された手法であり、その名をとって「ロヴァース式」「ロヴァース法(メソッド)」などと呼ばれたりもします。
現在ではいくつか派生系の療育法も存在しますが、どれも、3歳以下の自閉症児を主な対象として週20時間以上という長時間のABA療育を行なうという共通点を持っています。さらには、これらの療育法には熱狂的な「ファン」がいて、他の療育法に対して極めて否定的・排他的な傾向が強いということも特徴だと言っていいかもしれません。
このタイプのABAはTEACCHに対して明確に否定的な立場をとり、「普通の環境」の中で、子どもをできる限り「普通」にするという、TEACCHとはまったく逆の目標を設定するのが一般的です。
この療育法に効果があるのかないのかと聞かれれば、恐らく効果があるだろう、とは言えるでしょう。科学的に効果の実証されたABAを採用して長時間取り組むわけですから、効果がゼロということは考えられません。
問題は、週20~40時間という途方もない長時間の療育のコストに見合うだけの「劇的な」効果があるのか、それだけ長時間の療育プランを誰が組み立てるのか(小中学校の数年分の指導要綱に匹敵するボリュームですから、率直に言って素人に組めるとは考えにくいです)、さらには子どもの側のストレス、そして療育する親の側の心身・金銭面での負担と挫折のリスクなどについてどう考えるか、といったことでしょう。
実は、早期集中介入が、一般的なせいぜい週数時間から10数時間程度の療育に比べて、明確に優れているということは必ずしも確認されていません。
「毎日1時間より毎日5時間のほうが効果があるだろう」という相対的な量の効果を超えて、早期集中介入の支持者が主張しているような「集中的な療育によって、初めて療育効果に『質的』な違いが生まれ、自閉的な症状がほとんど消える場合がある」といった素晴らしい効果については、ロヴァース本人の研究以外ではほとんど確認されていないのが現状です。
また、ロヴァース式の早期集中介入で一般的に行なわれる「ことばのトレーニング」として、動作模倣から始まり、音声模倣、音声によるマッチングなどを順に訓練し、最終的に「欲しいものをことばで要求する」という行動ができるように進めていくやり方が知られています。ただ、このやり方は、後で紹介するPECSなどと比べると、ことばのコミュニケーションとしての機能への配慮が不十分で、やり方として稚拙だと言わざるを得ません。そういう意味では、ロヴァース式ABAで用意されている「療育メニュー」は、20年の時を経て少しずつ古臭いものになってきている事実も否定できないでしょう。(ただし、この辺りのやり方を改善しているABAの流派も存在します。)
これらの問題と現状をふまえると、「早期集中介入」は、少なくとも誰にでもすすめられるものではなく、親御さんの熱意が非常に高く、長時間の療育をこなしてくれるスタッフが確保できて(金銭面も含めて)、療育効果がせいぜい通常の療育の数割増しといった「量的なもの」に留まってもやむを得ないという心の準備ができていて、トータル数千時間の療育プランを立てられるようなABAのプロのサポートが受けられて、かつ子どもが超ハードなABAのトレーニングを楽しく受け入れてくれるような状態が認められた場合に限り検討すべきものだと考えられます。
また、いくつかの研究からは、このような早期集中介入は、どちらかというと知的な遅れの小さい、一般に「高機能」と呼ばれるような自閉症児に対してより効果的である可能性が指摘されています。この辺りもあわせて考慮すべきでしょう。
これらの条件をすべて満たすケースは、実際には極めてまれではないでしょうか。
現実的な選択としては、「早期集中介入」というアイデアのうち、「『早期』介入」には意味があると認めたうえで、週20時間、40時間といった時間(「集中」介入)には必ずしもこだわらず、親も子どももストレスなく実施できる量の療育を継続的に続けていくことを考えるべきなのではないかと思います。
いわゆる「ロヴァース派」からは、長時間やらないABAは無意味だと主張されていますが、これは恐らく、TEACCH的な構造化など、ABAによる介入以外の工夫をまったく考慮しない状態での比較でしょうから、一般原則とまでは言えません。
そして、学習に関する一般論からいえば、どんな量のABAであれ、やらないよりはやったほうが効果があることは間違いありません。
(次回に続きます。)