f.親や子に著しく過大な負担を強いるもの
これは、特に「親の負担」という点については異論があるかもしれません。
多くの親御さんは、「自分が苦労して子どもが何とかなるなら、何だってやる」と考えているのではないでしょうか。もちろんその真摯な親心は正当なものであり、否定されるものではありえません。
ただ指摘しておかなければならないのは、どんなに大変な療育法であっても、それによって確実に子どもが劇的に良くなるという保証はないということです。
私の実感としては、親の苦労を2倍、3倍と増やしていったとしても、平均的な子どもの「伸び」は、せいぜい1割、2割といったペースでしか改善していきません(平均ですので、もっと伸びることもあれば、ものすごく苦労したのにほとんど成果が上がらない場合もあるでしょう)。それだけでなく、負担の大きさに負けて途中で療育に挫折した場合、通常の療育をマイペースで続けていた場合に比べてもより悪い状態へリバウンドする可能性も小さくありません。
そして、ここで見逃してはいけないことは、親の苦労を2倍、3倍にしていくということは、親だけでなく子ども自身の負担も2倍、3倍と上がっていくということです。思ったように課題ができないというストレスまで考えると、子どもの辛さはもしかするとそれ以上かもしれません。親が挫折する可能性もさることながら、子どもが「挫折」してしまう可能性についても考えなければなりません。
また、つい陥りがちな落とし穴として、「忙しいことに満足してしまう」というリスクがあります。実際には「忙しく療育していること」と「子どもに合った効果的な療育ができていること」はイコールではないのですが、自分がヘトヘトになるくらい忙しく療育をしていることで、「これで十分だ」というある種の安心感、満足感のようなものを感じてしまうことがあるのです。これは避けなければなりません。
療育で大切なことは、量の大小よりも一貫性と継続性です。
ハードな療育を1か月やって挫折して・させてしまうよりも、継続可能な療育を一貫して5年間続けることのほうが間違いなく効果がありますし、実はずっと大変なことでもあります。
ダイエットを考えてみれば分かりますね。ダイエットと療育が違うことは、ダイエットは挫折しても個人の小さな失敗ですみますが、療育の挫折は子どもにとって致命的な影響をもつ、ということです。
年単位の長期的な視野を持ち、挫折しないで済むムリのない療育プランを持つこと、これは実はとても大切なことです。
なお、私がここで述べたような、「圧倒的な療育量」を必ずしも最重要視しない考え方に対して、まったく反対の立場をとる(つまり、非常に負担の大きい療育が必要だと主張する)考え方として、自閉症児の幼児期の数年間、極めて高密度な(週20時間以上)集中介入を行なう、「早期集中介入」あるいは「高密度介入」などと呼ばれる手法があります。
これは主としてアメリカで盛んに実施されており、日本でも熱心な親御さんが同様の療育にチャレンジしています。(この療育法については、後で改めてとりあげます。)
こういった療育法を真っ向から否定するつもりはありませんし、本当に質の高い高密度な療育を長期にわたって続けることに成功できれば、効果も期待できるでしょう。
しかし、親の都合による療育の挫折は絶対に避けなければならないということと、子どもの側が重い負担に耐えられない可能性もあるということを肝に銘じ、十分な覚悟を持って慎重に取り組む必要があるでしょう。
(次回に続きます。)