2006年11月29日

幼児期の療育を考える(12)

さらに、「避けるべき療育法」の続きです。

e.観念的で具体的な理論の裏付けのないもの

かつて、自閉症というのは原因もわからず、どう対処していいかも分からない障害でした。
そういった時代に生まれた療育法は、自閉症の原因を親の愛情不足や子どもの心的葛藤などに求め、無条件の愛情を与えることや、子どもの「心の傷」を癒すこと、子どもに「共感すること」、ひたすら語りかけることなどによって子どもの情緒改善を目指すものが多かったのです。

現在では、自閉症の原因は何らかの脳の器質的障害に起因するということがほぼ確実になっており、TEACCHやABAといった科学的裏付けと実績をあわせ持った効果的な療育法も生まれてきています。

しかしながら、こういった最新の自閉症研究には背を向け、あえてかつての「古い」療育法にこだわり続ける臨床家の先生もいらっしゃいます。
長く続いている療育法にはそれなりの実績の裏打ちがあるから続いているのだ、という考え方もあるでしょう。
しかし、自閉症児療育に関する限り、残念ながら「古い」療育法には価値がない、と言い切ってしまって構わないのではないかと私は思います。

では、なぜ一部の「古い」療育法が生き残っているのでしょうか?

そのキーワードは「愛情」だと私は考えています。
自閉症児は対人反応性に乏しく、自閉症児の親は子どもの行動から自分への愛情を感じることがあまりありません。
一方で、最近の「効果がある」と言われている自閉症児に対する療育は、具体的なプログラムをてきぱきとこなしていくようなスタイルのものが多いため、一見したところ、機械的な「訓練」ばかりで子どもへの愛情が与えられていない、という印象を持つ親御さんもいらっしゃるのではないかと思います。

つまり、現在一般的な「効果がある」とされる自閉症児療育に取り組もうとした場合、親御さんによっては、「子→親」「親→子」のどちらの方向についても、「愛情が感じられない」「モノを相手にしているようだ」と感じるケースもあるのではないかと思うのです。

これに対し、「古い」タイプの療育法のうち現在でも生き残っているものは、ほぼ例外なく「愛情をどんどん注ぐことが子どもを落ち着かせ、伸ばすのだ」という考え方を持っています
つまりここには「愛情」という考え方が登場し、しかも療育の中の最重要ファクターの1つとなっているのです。
機械的な「訓練」ではなく、「愛情」に満ちあふれた療育をしたい、というニーズに、これらの「古い」療育法が応えているからこそ、これらは生き残っているのではないでしょうか。

しかし・・・です。
「愛情を注ぐ」というのは、具体的には何をすることでしょうか?
しっかり抱っこして離さないこと? 問題行動も含めてどんな行動もそのまま受け入れること? それとも、おもちゃで自由に遊ばせてそれを観察したり、自閉症児の無秩序な遊びをひたすら真似することで、「自閉症児の心」に迫ることでしょうか?

間違いなく言えることは、こういった療育法では、現実に自閉症児が直面している生活面、対人面、言語面での困難に対する有効な介入にはならないだろう、ということです。それは言い換えれば、子どもの将来の人生を幸せにするために今できる働きかけとして適切ではないのではないか、ということなのです。

親が心の中で念じる「愛情」が四次元空間を伝わって子どもの「精神」に注入され、その超自然的エネルギーによって子どもが良くなる、なんて言ったら、誰もがオカルトだと笑うでしょう。ここで言っていることは、要は「何もしていない」のとまったく同じだ、ということも分かっていただけると思います。
でも、「愛情を注ぐのが療育です」と言って、具体的・実践的なプログラムを実施する代わりに「愛情いっぱいで子どもを見守る」ことしかせず、それで子どもが良くなると考えることは、実は上記のオカルト的な考え方と何も変わらないのです。

真の愛情とは、効果的でストレスのない介入を積極的に行ない、子どもの認知能力・社会適応力を高めることであり、「愛情」を持って見守る、あるいは「愛情を注入する」というだけでは、子どもにとって本当に愛のある行動にはなっていないのではないでしょうか。愛とは、具体的行動で示されるべきものです

(次回に続きます。)
posted by そらパパ at 22:53| Comment(0) | TrackBack(0) | そらまめ式 | 更新情報をチェックする
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