2006年11月25日

幼児期の療育を考える(10)

ちなみに、この「避けるべき療育法」のカテゴリ(「自閉症『治療』」を目的とする薬物療法・外科手術・サプリメント療法)に属する典型的な療育法としては、キレート療法三角頭蓋手術があげられるでしょう。

キレート療法(キレーション、水銀排泄療法、重金属排泄療法、デトックス療法)とは、自閉症の原因を脳に蓄積した重金属(水銀など)にあるとし、それを体外に排泄するためにキレート剤と呼ばれるサプリメントを飲む、あるいは点滴するという療育法です。自閉症の原因が重金属にあるという証拠はなく、キレート剤によってさまざまな必須ミネラルも排泄されてしまうため、体内のミネラルバランスが致命的に悪化し、生命の危険に至るリスクを抱えています(死亡例も出ているようです)。
運良く?生命に別条がなくても、心身へのインパクトの大きいサプリメントを飲むことで、気づかないうちに脳や体にダメージを与え、飲まなければもっと改善したはずのお子さんの心身の状態を悪化させている可能性もあると思われます。

(軽度)三角頭蓋手術とは、自閉症の原因を頭蓋骨の奇形による脳発達の阻害、脳内圧の上昇にあるとし、それを改善するために開頭手術を行なうという療法です。純粋にこの奇形による知能障害が存在する可能性はありますが、手術施行病院自体がこの手術は自閉症の手術ではないと明言しており、ここに「軽度」といった曖昧な概念を導入してまで自閉症の療法として捉えようとするのは現時点では不適切だと言わざるを得ないでしょう。
そして、言うまでもありませんが、小さな子どもに脳外科手術を施すことには少なからぬリスクがあります。

これら以外にも、さまざまな「医療ないし医療もどき療法」が存在します。
繰り返しになりますが、自閉症の原因は医学的にも科学的にもまだ解明されていませんし、臨床的に「これは効く」といった薬も手術もサプリメントも存在しません。地道な療育によってしか、自閉症の症状を改善することはできないのです

なお、これらのアドバイスは、個別の行動問題や症状に対して小児科医・児童精神科医などから対処的に処方される薬・サプリメントを否定するものではまったくありません。これらの薬は、治験により安全性が確保された薬剤を医師が慎重に処方するものであり、かつ「自閉症を治す」といったあいまいな目的ではなく、特定の行動・情動面での問題に対処するために出されるものです。


b.罰や「がまん」を指導の中心に据えた療育法

これはシンプルに言えば、古いタイプの「スパルタ教育」による療育法です。

現在、自閉症児の療育技法の主流となっているのは、ABA(行動療法・応用行動分析)と呼ばれる方法です。
これは、望ましいことをした場合には誉めたりごほうびを与えたりし、望ましくない行為にはそういったごほうびを与えず、望ましい行為に誘導していくことによって、望ましい行為を増やして望ましくない行為を減らしていくやり方です。
この領域では科学的な研究が進んでいて、1つ非常に重要な法則が明らかになっています。
それは、「望ましくない行為に罰を与えて抑える」という指導方法は有効ではなく、むしろ自閉症児にはデメリットが多く社会不適応を助長する、ということです。

どんなにその指導法に歴史があっても、その学校なり指導施設が有名であっても、罰を中心として「厳しく」指導することを指導法の中心に据えた療育法は避けるべきです。
第一に、そのような「指導哲学」は明らかに間違っていますし、第二に、これだけ療育の研究が進んでいる中で、そのような誤った考えを捨てずにいる療育法は、それ以外についても誤りが多いだろうと推測できるからです。

なお、「罰すること」を中心に据えた「スパルタ教育」ではなく、「ほめること」を中心に据え、てきぱきと大量の課題をこなすことを求めるような「スパルタ教育」は、ここでいう「避けるべき療育法」ではありません
量をたくさんこなすことがお子さんの過重な負担にならないかという問題に配慮する必要はありますが、指導法が適切で子どもが楽しく取り組めるのなら、子どもがより多くの課題に取り組むことには意味があるでしょう。

ただし、一見「ほめること」が療育の中心になっているように見えて、その実、「やらないと叱られるからガマンしてやっている」というのが実態だということもあります。「教室にいる間・療育中しかできない・やらない」「家に帰るとパニックなどの問題行動を起こす」といった現象が見られる場合は要注意です。
また、見学中に自閉症児がパニックを起こしたり離席して課題を回避しようとした場合の対応でも判断がつきます。パニックや離席を強く叱責する傾向が強い場合は「がまん」がベースになっていると判断できます。一方、それらの反応を淡々と受け止めて席に戻し、何もなかったように再開する場合は、「ほめる」療育に近いと言えるでしょう。さらに優れたABA療育では、パニックや離席の原因を分析し、例えば休憩や手助けを求める手段(手上げなど)を教えたり、いくつか課題をこなしたらごほうびとして休憩できる(トークンエコノミー)といったテクニックを活用し、より子どもにとって「楽しくスキルアップできる」環境が提供されます。こういった工夫のある療育法であれば、十分に信頼に足るものだと評価できるでしょう。

(次回に続きます。)
posted by そらパパ at 23:34| Comment(2) | TrackBack(0) | そらまめ式 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
そらパパさん、はじめまして。時々このHPをのぞかせていただいて学んでいます。ありがとうございます。
明日11月29日に、札幌でセミナーが開催されます。「自閉症スペクトラム 根治治療の紹介」というタイトルで、オーソレモレキュラー医学会の人が講師のようです。
札幌市教育委員会が後援していることもあり、地元ラジオでの宣伝もここ数日すごいんです。どんなものか調べてみましたが、どうやらデトックス療法のようで、やっぱり危ないなあと感じ、そらパパのHPで学びなおしたところです。
でも、こんなセミナーを教育委員会が後援するなんて、困ったものです。
道内各学校にもチラシが送られてきており、変な情報に惑わされる人がたくさんでそうで心配です。
Posted by ぺんぎん at 2009年11月28日 11:58
ぺんぎんさん、

コメントありがとうございます。

ご紹介いただいたセミナーの話題については、こちらの記事で取り扱っています。
ぜひそちらも参照ください。

http://soramame-shiki.seesaa.net/article/133997858.html
Posted by そらパパ at 2009年11月29日 23:19
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