2006年11月17日

幼児期の療育を考える(4)

前回は、一歳半から試すことができる自閉症のセルフチェックとして、M-CHATとCHATという2つのテストをご紹介しました。

(M-CHATテスト項目の抜粋-質問の全項目については前回の記事を参照してください)

<特に重要だとされる6つの症状>
 他の子どもに興味を示さない。
 何か興味があるものを人さし指で指差して伝えない。
 あなた(親)に何かを見せるために、物を持ってこない。
 真似をしない(顔で表情の真似など)
 名前を呼ばれても反応しない。
 離れたところにあるおもちゃを指差しても、その方を見ない。


ところで、親御さんが、M-CHATのような列記型の「症状リスト」を見るときには注意しなければならないことがあります。それは、リストの中に当てはまらない項目があることを過大評価して、安心してしまいがちだということです。

M-CHATによると、上記の「特に重要だとされる6項目」で2項目以上、もしくはそれを含みすべてのリストの中で3項目以上該当する子どもは、自閉症の可能性が高いと診断されます。
つまり言い換えれば、M-CHATの23にのぼる症状リストのうち、20の症状がまったく見られなくても自閉症と診断されうる、ということです。
自分の子どもの状態と「症状リスト」を照らし合わせるとき、私たちはどうしても「子どもが自閉症ではありませんように」という願望を持ちながらその比較を行なってしまうため、該当する症状があるかどうかよりも、「該当しない症状」があるかどうかに目が行きがちです。そうすると、該当しない項目がいくつもあることに満足して、「きっと大丈夫だろう」という誤った判断をしてしまうかもしれません。

また、このリストでは、ことばに関する質問が少ないことにも注目してください。
一般に、医師や専門家による自閉症の確定診断は3歳以降になされることが多く、その時点での診断においてはことばの遅れは1つの重要な診断要素になりますが、一歳半段階での早期診断では、発話の有無よりもむしろ、その前段階である「非言語コミュニケーション」の発達のほうが重要なのです。具体的に言えば、アイコンタクトがある、指差しをする、他人の注意を引こうとする、模倣する、呼びかけや簡単な指示に反応する、といった行動です。

こういった行動がすべて正常に発達していて、発話だけがまだないというお子さんは、少なくとも自閉症である可能性はかなり低く、多くの場合はやがてことばが出て追いついてくると思いますし、そうでない場合であっても自閉症以外の障害である可能性のほうが高いと考えられます。

逆に、これらの非言語コミュニケーションに遅れが目立つ中で、発話は始まっているというお子さんの場合、ことばの遅れが目立たない自閉症スペクトラムの一形態である「アスペルガー症候群」であったり、一旦出た発話がやがて消えていってしまう「折れ線現象」をたどる自閉症である可能性も残されています。
ことばは、コミュニケーションの道具として活用されなければ定着しないので、コミュニケーションの発達が遅れてことばだけが出ている、という状況は、ことばによるコミュニケーションの発達、あるいは自閉症の可能性ということでは黄信号だと言えると思います。

どちらにせよ、ことばが遅れているだけでは自閉症だとは言えず、ことばが出ているからといって自閉症でないと断定できるものでもありません。あくまでも、M-CHATで見ているような「ヒトや環境へのかかわりかたの全体」として考える必要があるのです。

※ちなみに、この「ことばを重視しすぎない」というのは、早期診断だけに限らず、自閉症療育において常に意識する必要があるポイントです。
 これは後でも出てきますが、「ことばが出ない」ということの背後には、実は上記のような「非言語コミュニケーションが未発達である」という問題があり、それらを発達させることなく、例えば単語の音声模倣をさせようとしても、うまくいかないのです。
 「ことばを育てること」とは、「ヒトや環境とのかかわりスキルの全体を育てること」だとしっかりと心にとどめ、発話の有無という表面的な事象より高い視点を持つことがとても大切です。

(次回に続きます。)
posted by そらパパ at 23:07| Comment(5) | TrackBack(0) | そらまめ式 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
先日はコメントに丁寧なお返事いただきありがとうございます。

うちの息子の場合
・慣れない他の子供を怖がる
・しばしば名前を呼ばれても反応しない

にあてはまります。一方,それ以外は全くあてはまりません。

療育の話から少しずれますが,最近,軽度の自閉的傾向は成長と共に消える事がしばしばあるのではないかと考えています。それは,意識せずになされた療育の効果なのか,脳の成長によるものなのか。私はそれらだけでなく,脳に働きかける何らかのホルモンのバランスの影響があるのではないかと感じています。

私自身,子供の頃はアイコンタクトができず,母に何度も注意を受けました。状況判断能力も弱かったようです。一方,幼少期の記憶は今でも映像としてきれいに思い出せます。でも,自閉的な傾向が薄まるにつれ視覚記憶能力も後退してしまったようで,小学校高学年あたり以降の記憶はあまり映像として残っていません。今現在は対人関係は良好で,社会性に困難を感じることはありません。

私の姪も幼少期は些細なことでキレてばかりで,就学時には不登校を繰り返していましたが,今では多くの友人に囲まれ,友達思いで人望があります。

その一方で,私の母は更年期後,人が変ったように思いやりにかける発言が目立つようになり,対人関係のトラブルが増加しました。

列挙したのは女性ばかりですが,親族を見渡すと,男性にも自閉的傾向をもっているらしき人もいますが,ライフステージによって,社会性が大きく変化しているようには思えません。

社会性を司る脳の部分と女性ホルモンは密接な関係があるのではないかと最近感じています。そらパパさんはどう思われるでしょうか。
Posted by のんたんママ at 2006年11月18日 00:14
のんたんママさん、こんにちは。

いろいろとご心配されていることが多いようですね。
ただ、どうでしょう、4歳の時点であげられている2つの点のみが該当するというのは、逆にいえば3歳でおよそ確定する自閉症スペクトラムの症状はほとんど発現していないということにもなりますね。
M-CHATは1歳半~2歳程度の子どもに適用する尺度ですので、このくらいですと、私自身がイメージしている「少しあやしい」という水準というよりは、むしろ正常範囲で多少弱みがあるという捕らえ方のほうが適当なような気もします。
もちろん、そうであっても「ユニバーサルデザインの子育て」を志向すること自体はいいことだとは思います。

それと、ホルモンの話題ですが、真面目にお答えさせていただくと、自閉症はおそらくホルモンのバランスで良くなったり悪くなったりする性質のものではないと思っています。
それに、自閉症と関連するような「ホルモン」あるいは「社会性を司る脳(の部位)」といった概念については、現時点では特に何か具体的に分かっているとは言えないのではないかと思います。
Posted by そらパパ at 2006年11月20日 00:49
いつも丁寧なコメントありがとうございます。

私自身も毎日,「少しあやしい」と「正常範囲で多少弱みがある」の間で揺れています。

息子は最初の診察時は,苦手な知らない子の多い小児科の待合で長時間待った事もあり,診察室内の物をことごとく投げ飛ばし,診察室を出たり入ったり走り回るという多動振りを発揮し,ADHDだと思われたようです。2歳位の時期はかなり多動で,外に出れば逃げ隠れていましたが,現在多動と思われる兆候はほとんどない旨を医師に伝えました。広汎性発達障害だろうというのが医師の診断です。

その後,そらパパさんのブログや本を何冊か読んで,アスペルガーと健常の間くらいにいるのではないかと思っています。病院付属の療育機関においても,現状把握能力が少し弱いと言われています。心理テストの結果はDQが98でしたが,初対面の心理士さんがテストしたので,慣れた人がすればもう少し高い数値がでるだろうとのことでした。親の目からみても知能は高いようです。

自閉症の人の自伝を数冊読みましたが,息子の現状とは少し違う気がしました。息子は,知っている人とはかなり社会性のいるやり取りをきちんとこなし,園でも複数の友達とおにごっこをしている姿をみると,問題を抱えているようにはみえません。

それなのに,知らない子が多い場所へ行くとチックがでたり,場合によっては失神したかのように倒れこんでぐったりしてしまうのです。このことだけは,母親としてとても心配で,倒れこむほどおびえる原因は自閉的傾向にあるのだと思っています。医師にも他の障害の可能性を問うてみましたが,あてはまるものはないとのことです。

息子は視覚認知能力はかなり高いようです。自閉症児によくあるようにパズルが大好きですが,形を認識しているようではなく,全体像の画像がインプットされていて,パズルのパーツが位置情報と共に認識されているようです。似た絵の複数のパズルを混ぜても,瞬時に見分ける事ができます。私には見分けられません。また,慣れたパズルをはめるスピードははやく,私が戸惑っていると,正しい向き,場所を適格に教えてくれます。普通の人がするような枠から作成するというやり方はしません。ちなみに,これも自閉症児によくあるように画像を反転させることが多く,パズルも上下逆さまにしていたりします。

自閉症は奥が深いですね。これからも色々勉強したいと思っています。息子が実際に該当するかどうかはわかりませんが,療育的な働きかけを始めてから,良い変化がみられるようになりました。最近は自発的に相手の目をみてニコっと挨拶をするようになりました。下をむいておどおどしていた頃から大きな変化です。ただ,知らない大人にも挨拶してますが(^_^;)。
Posted by のんたんママ at 2006年11月22日 00:01
のんたんママさん、

コメントありがとうございます。
働きかけそのものはうまくいっているようですから、あとはあまり神経をすり減らさずに、そのまま前向きに取り組んでいけばいいと思います。

それと、一つだけ書いておきたいことがあります。
確かに自閉症も千差万別ですが、「健常」というのも、それと同等かそれ以上に千差万別な状態の総称です。
「健常」というのを高いところにある「点」のように考えて、そこに近づこうとするのではなく、その子にとって最もラクに生きられて社会適応できるような場所を模索するのがいいんじゃないかと思います。
何もかもが問題なしっていうのは、大人だってそうじゃないわけですからね。(^^)
Posted by そらパパ at 2006年11月22日 22:54
色々アドバイスありがとうございました。

そらパパさんの一般化障害仮説で今までどうしても理解できなかった健常と自閉に境界がないことも理解できましたし,うちの息子のようにできない訳でなくちょっぴり苦手という状況の説明もこの仮説ならぴったりくるなあと思いました。

得意不得意は誰にでもあることですし,不得意な事を社会生活に困らない程度に克服するのは,誰でもしている事ですよね。

今後もそらパパさんの情報発信楽しみにしています。
Posted by のんたんママ at 2006年11月23日 22:50
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