2006年10月14日

ツレがうつになりまして。(ブックレビュー)

ある意味、必読書。


ツレがうつになりまして。
著:細川 貂々
幻冬舎

自閉症児の子育てに日々頑張っている親御さん本人とその周囲の方にぜひ知っておいてもらいたいのが、「うつ」に関する知識です

「必読書」と書きましたが、必ずしもこの本でなければ、ということではなく、うつに関する分かりやすく正しい知識を提供してくれる本なら、本当はどれでもいいのです。
ただ、文字だけの新書などを読んでも、身近にうつに接したことのない方は、今ひとつうつがどんなものかが「実感として」理解できないのではないかと思います。
そういう意味では、本書のようにリアルなうつの症状をまんがで見て実感できる本が最初に読む本としては向いているんじゃないかと思い、この本を取り上げました。

うつは、誰でもかかりうる心の病です。
本書でも、明るく前向きで楽天的だった夫が、ある時「死にたい」とつぶやき、別人のようになるところから物語が始まります。

しかも、かかる確率は決して低くありません。
それまでまったく心身ともに健康だった人が、何らかのきっかけによってそのバランスを崩し、ある一線を越えたとき、急速に「うつ状態」に入っていきます。

「きっかけ」は主に、強いストレスを受けることですが、これは必ずしも「辛い経験」だけでなく、転職や異動・引越し・出産など、中立的、あるいはむしろ喜ばしいものであっても、「環境に大きな変化を及ぼすイベント」はうつのきっかけになりえます。

そして不幸なことに、多くの場合は、うつ状態に入っていく途中ではなかなか本人も周囲も気づくことができず、本書にもあるとおり、自殺を口にしたり何もできなくなるなどの明らかなうつ症状が出てきて初めて気づく、ということが非常に多いのです。
そして、そこから元気を取り戻し通常の生活に戻るためには、長い治療期間が必要になります。

実は私も、あと少しでうつ病という寸前のところまでいった経験があります。

数年前になりますが、私は風邪をこじらせてぜんそくを発症してしまいました。ただ、大人になって急に発症したものですから、しばらくの間、これが風邪ではなくぜんそくだということは分かりませんでした。
自分の病気が何かわからないまま、とにかく発作は激烈で、毎晩2度も3度も目がさめて、激しい咳で気管がふさがって呼吸困難になりました。それはもう苦しくて、30秒から1分くらいほとんど息を吸うことも吐くこともできなくなるので、毎回、このまま呼吸が戻らずに死んでしまうのではないかと恐怖を感じました。

それが何日も続き、「眠るとまた発作が起こってしまう」というのが怖くて、だんだん眠れなくなってきました。
また、発作は夜中にしか起こらないので、昼間に病院に行っても原因がよく分からず、風邪薬とか咳止めばかり処方されて(ぜんそくでは咳止めは原則として禁忌です)症状はまったく改善せず、急速に気持ちが沈んでいきました。

そして、「こんな状態では期待されているクオリティの仕事ができない」「これではサラリーマンとして失格だ」「いっそのこと今の仕事をやめてしまおうか」「こんなに毎晩辛い思いをするなら死んだほうがましだ」といった思いに強くとらわれるようになり、食事ものどを通らなくなってきました。
多分この辺りが、「普通に落ち込んでいる状態」から「うつ状態」に切り替わりつつある、まさにそのタイミングだったのだと思います。
ここまでで、最初に発作が出てから2週間ほど経過していました。

恐らく、このままあと数日この状態が続いていたら、私はうつ病になっていたでしょう。私を救ってくれたのは、たまたま自分の病気の原因を調べようとして医療関係のホームページを見ていたときに飛び込んできた、「うつ病の症状」のページでした。
それがどこのページだったかもう忘れましたが、私はそれを読んで、はっと気づきました。自分が、明らかにうつ病の状態に近づきつつあることを

私を救ったもう1つの要素は、私が心理学を学んでいて、うつ病についての多少の知識を持っていたことでしょう。
私は、まだ何とか残されていた「理性」の部分で、自分が今感じているさまざまな感情は、「普段の私」が合理的に感じているものではなく、「うつ状態にある私」の歪んだ考え方で感じているものなんだ、だから本当は、こんなにいろいろなことをネガティブに考える必要はないはずだ、と自分に語りかけました。
そしてその瞬間に、すーっと肩の荷がおりるように、気持ちが楽になっていくのをありありと感じたのです。そしてそれは、自分の肩にこんなにも重たいものがのしかかっていたのだということに、初めて気づいた瞬間でもありました。

その後、私は、2日ほど「ぜいたくに」有給休暇をとって自分をリラックスさせ、また自分の本当の病気がぜんそくだという診断もようやくついて、効き目のある薬が処方されて夜中の呼吸困難も解消していくにつれて、元の元気な自分に戻ることができました。

私にとって、この「崖っぷちを見てきた」体験は、本当に貴重なものでした。
間違いなくいえることは、まさにいまうつ状態に入りつつある人自身が、そのことに気づくことは、どんなに理性的な人であっても極めて難しいということです。(私の例は奇跡に近いんじゃないかと思います)
そしてもう一点は、それでも、もしうつ状態に「なりかけ」のときに、正しい知識と対処法でもって対応できれば、そこから回復して長く尾を引かずに元の状態に戻れる可能性がある、ということです。

ただし、うつ状態に突入しつつある、あるいはなってしまった後では、まんがも含めて本なんて絶対に読めないことも知っておく必要があります。
ですから、「事前に勉強しておく」ことが絶対に必要なのです。

言うまでもありませんが、自分の子どもが自閉症だということを受け止めること、毎日のハードな子育て・療育、場合によっては周囲の無理解に耐えること、こういったことは非常に強力なストレス要因ですから、自閉症児の親は、常にうつになる高い危険にさらされていると言っても過言ではないでしょう。

うつを予防する第一歩は、うつを知ることです。
その上で、最も身近な配偶者が、うつの「サイン」にできるだけ早く気づくことが大切です。

本書などを活用して、夫婦で、うつについて勉強し、話し合ってください。うつをタブー視したり、自分とは無関係なことだと思うのは本当に危険です。
そして、配偶者の様子を、いつも見守っていてください。
特に、「不眠」「食欲不振」「イライラする」などは、配偶者だからこそ気づくことのできる、うつの重要な初期症状です。

そして、不幸にもうつを発症してしまったときは、躊躇せずに心療内科などを受診しましょう。今はよく効く薬があります。

そんなことを考える、知るきっかけとして、本書をおすすめしたいと思います。

参考:朝日新聞書評

※その他のブックレビューはこちら
posted by そらパパ at 15:28| Comment(23) | TrackBack(1) | 雑記 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
久しぶりにHP拝見しました。いつも新しいニュースが一杯でそらパパのパワーには脱帽です。

”うつ病”あるいは”うつ病予備軍”は自閉症児の親の避けて通れない道のような気が個人的にはいたします。

私も、自覚なく”うつ病”らしきものを体験いたしました。
眠れない、理由なく不安感に駆られる、無気力になるなど。

今考えるとあれは”うつ状態”だったなと。
子供が2-4歳くらいの時期(大体、自閉症の診断がつく時期の前後から1年半くらいの間)は親にとって相当危ない時期なのではないでしょうか。
この時期は日々の子育ての疲れが募り、診断から来る将来に対する不安感も伴って、精神的には本当に厳しくなりますよね。
疎外感、孤立感を強く感じるのもこの時期だと思います。
もちろん、この時期を過ぎても、常に肩に重いものを背負って歩いていくのがわれわれ親の使命のようですから、何か起こったときの心の振れが普通の親よりも大きくなりがち、状況によっては一気に”不安症””うつ状態”に入っていく危険性があるという自覚を持つことが必要のように思います。

そうならないためにも、肩の重荷を時々はずす(そらパパのおっしゃるような生活の質改善努力、同じ悩みを抱えるほかの親御さんたちとのいい意味での交流、子供と物理的に離れ、自分の時間を短くとも持つなど)必要がありますね。
私はフランス在住ですが、週1で子供がグループセラピーを受けている間、親たちは雑談を心理療法士と看護婦を交えて、します。
親のグループは私を含め3人ですが、開始から10ヶ月を経て、やっとそれぞれの親が本音を言い始めました。
参加されている男性の奥さん(双子の重度障害児の母でご主人によるとほとんど家に閉じこもりきりで双子の面倒も見ないそうです。)は、どうやら自覚のないうつ状態のようです。奥さんが何もされないため、この男性の負担が大きくなり、何とかしないと共倒れになる可能性もありそうで、心配しています。
もう一人の参加者の女性も前回あまりの自由時間のなさに、突然泣き出されました。
ご主人は夜中まで仕事で、彼女の母親も障害のある孫の面倒を見たがらないのだそうです。
彼女もこのまま行くと危ないでしょう。

本人が自覚を持つことも大切ですが、(渦中にいる場合はとても難しい)回り、特に自分の連れ合いについては、つい後回しになりがちですが、定期的に話し合う、物理的な援護を考えるなど、一人の人間がすべてを抱え込まないようにする、孤立化させないようにすることが大切なように思います。(ウチの主人にも是非、努力して欲しいと思いますが(笑))

Posted by Gabrielle at 2006年10月14日 19:50
そらぱぱさん、Gabrielleさん、(おひさしぶり?笑)こんばんは。

Gabrielleさんは私のブログにもきてくださるんですよ。フランス在住のコメントでGabrielleさんかと思ったら、そうでしたね。
私も鬱だったんですよ~。そらぱぱさんが書いてある通り。なった頃は、医者が鬱ですと言っても、信じられなかったですけど。
きっかけは新居への引越しと出産がかさなっていることなんです。義母からはこんなに喜ばしいことばかり続いているのに、おかしくなるなんておかしいって言われましたね。
しかも、なってしまうとテレビや本、インターネットなんて絶対にできなくなります。本当にそれどころではないのです。疲れてしまって横になりたい、食事は食べたくない、外に行きたくない・・・テレビや雑誌は拒否。心の中が’ある不安‘でいっぱいで他の情報は受け入れられない状態でした。また体も疲れやすいのです。
やっぱり鬱だったんですねぇ・・^^;

親の育て方も鬱になりやすい気質を作り出すかもしれないですね。
たとえば、とても前向きな親に育てられたり、あまり裕福ではなかった場合、その人はとても逆境に強いでしょうし、ものごとのとらえ方が、極端ではなく平均的な考えが出来る人は多分鬱にはなりにくいかなと
思います。
私はその点で大変、極端のようです。とても荒い部分もあれば、妙にこうでなければならないというような部分があるので、いってみればそこが落とし穴なんでしょうか・・・・

最近、また鬱になりそうです。笑
なにせ長距離走なんですもの。疲れています。
Posted by marine at 2006年10月14日 22:27
Gabrielleさん、

まったく同感です。 実際、自閉症児の親御さんの多くは、うつになるかならないかの危ない綱渡りをしている(そして多くの人がそれに気づいていない)んじゃないかと心配しています。

本人が気づくのは、普通はムリだと思います。(ただ、非常に軽いとき、例えば不眠傾向が始まったりしたときに気をつけるというのはできますが)
やはり、夫婦でうつについて勉強して、話し合って、お互いがお互いを見守るというのが必要なんじゃないかと思います。

私が、親だけで早期集中介入のようなハードな療育に取り組むことにあまり賛成できないのも、親のQOLの維持にこだわるのも、「親が心に余裕を持ってハッピーでなければ、長い目で見て子どもが心に余裕をもってハッピーになることなんて絶対にできない!」という信念があるからです。

そのためには、うつで倒れないことを心がけることはとても大切なことでしょう。 自閉症の療育について語るときに、親のメンタルへルスを考えることは非常に重要なことなのに、あまりそれについて強調されていないように思います。

marineさん、

やっぱりそうですよね。
ストレス学(?)では、環境の大きな変化はいいことも悪いこともすべてストレスだと考えます。
これは私がいまのめり込んでいる脳科学、コネクショニズムでも言われることですが、「これまで慣れ親しんできた環境が変化したために、新しい環境に再適応しなければならない」ときには、脳には非常に大きな負担がかかるんですね。その負担に脳が耐えられなくなって出てくる症状の1つが、うつだと言えると思います。

marineさんも書かれているとおり、うつになってしまうと、本人がそれに対して能動的に対処するのは極めて難しいです。
ですから、やはり身近にいる人が早めに気づいたり、うつを発症してしまった場合にはサポートしたりといったことが重要になると思います。

これはもしかすると、このブログのテーマである「自閉症児のお父さんができること」の中のもっとも重要なことの一つだといえるかもしれませんね。

というわけで、自閉症児をもつ世のお父さんにエール?を送ります。

この本などを読んでうつの勉強をしましょう。そして、夫婦で話し合いましょう。奥さんが不眠や食欲不振や疲労感に悩んでいたら、うつの徴候である可能性も考えて、しっかりと見守り、状況によっては適切な対応を取りましょう。万一、自分にそういう症状があらわれたら、まずは奥さんに率直に話してください。うつを日常的に話し合える家庭の雰囲気を作りましょう。これは、普段療育に十分に関われないお父さんができる、最高のサポートの1つになることは間違いありません。(^^)
Posted by そらパパ at 2006年10月14日 22:50
ご無沙汰しています。
うつ・・・私の父がそうです。
自営業で長年、頑張っていますが、いろいろとトラブルもあるらしく、落ち込むことが多いようです。
孫の顔を見ると、癒されるようなので、なるべく実家に帰るようにはしているんですけどね。

私も、「このままじゃ、鬱になる」と思うことは、よくありますよ。
うちは、旦那が忙しく、夜中に帰宅することが多いですし、休日出勤も当たり前です。
しかも、自閉症に理解がない人ですし、育児には非協力的です。
土曜日に運動会があったんですけど、もちろん仕事で出られず、しかも、「運動会、どうだった?」とも聞いてきません。
今日は、もう火曜日なのに・・・ねぇ。

旦那の実家が近いんですが、預かると大変だと分かったようで、最近は預かってくれませんね。

このままでは、鬱になりそうですよねぇ。
そうなる前に、ヘルパーさんを頼み、外出の介護をしてもらうことにしました。
明日からスタートなんですが、上手くいくといいなぁ~と思っています。

奥様のブログも拝見しましたが、幼稚園のことで悩みも多いんでしょうね。
やっぱり、加配のことが決まるまでは、不安もありますよね。
早く、落ち着ける日が来るといいですね。

Posted by まお at 2006年10月17日 21:37
まおさん、こんにちは。

うつというのは決して珍しい病ではないですね。まだまだ「隠される病」なので表に出てくることが少ないですが、実際には相当に多くの人が経験している病だと思います。
大切なことは、自分で「うつになりそう」と気づく余裕がまだあるうちに、うまく折り合いをつけてガス抜きをすることだと思います。

我が家の件ですが、幼稚園のほうは、思ったよりも加配を希望している人が多くて(なんと入園予定児の約20%が希望しているのだそうです)、それを聞いてからというもの、「うちの子に本当に加配がちゃんとつくんだろうか?」とずっと悩んでしまっているようです。

次の面談が来月末で、それまでは何の進展もなく、最終的な決定はさらに先になりそうなので、この件で悩み始めるとまさに無限ループに入ったまま何ヶ月も出て来れないことになってしまいます。

私は、なるようにしかならないと開き直っていますが(それに、面談で見る限り、うちの娘よりも知的に重度の子どもがいるとは思えなかったので)、妻はこういうことになると「絶対安心」になるまでひたすら悩んでしまう傾向があるので、こういう宙ぶらりんの状態が2ヶ月、3ヶ月と続く現状はかなりヤバいなあ、と心配しています。

ともあれ、できるだけのサポートはしようと思っています。
Posted by そらパパ at 2006年10月17日 22:55
はじめまして。ひげぞうと申します。
7歳の自閉くんの母です。
私自身がうつの経験ありです。普段はボーっとした性格なので自分には無縁のものと思っておりました。
病院への通院(投薬)、仕事を休職 でなんとか復活できました。
人ごとではない内容にウンウンうなずいていました。
今は随分前向きな気持ちで取り組んでいます。
Posted by ひげぞう at 2006年11月02日 23:13
ひげぞうさん、はじめまして。

コメントありがとうございます。

私も、周囲の知人でうつになった人を何人か知っているので、本当に「誰にでも起こること」だと実感しています。

少しでも多くの方にうつの知識を持っていただいて、家族でぜひ話し合って欲しいと願っています。
Posted by そらパパ at 2006年11月03日 00:03
TBさせていただきました。

うつ病闘病の大変さと家族の支えの重要さを実感しました。
Posted by タウム at 2007年06月20日 08:55
タウムさん、

トラックバックありがとうございます。
うつは誰もがなりうるということを理解して、家族が一丸となってサポートする体制を作ることがとても大切だと思っています。
Posted by そらパパ at 2007年06月21日 23:07
自閉症との診断を受けたお子様をおもちのうつのお母様のお世話したことがあります。
 我が国の医師は自閉症との診断をとても気軽にする傾向があるようですが、診断を告げられた時の母親のショックについてほとんど配慮がないようですね。小児科、あるいは児童精神科の医師は子供さんだけを診て母親を診ないのですかねえ。これは医学教育の欠陥だと思うのですが、自分の子供が自閉症だと診断されたときの母親のショックについての配慮が出来る医師は極めて少ないようです。癌の告知の場合は医師はかなり慎重であり、告知したからにはこれからとる治療計画について極めて克明に告げるのが普通です。ところが精神科の医師の多くは子供さんの病名をつげてもその後の治療計画についてはほとんど話さない人がおおいのです。親としては自閉症だと告げられた以上、家庭での子供さんの扱い方、それからの治療方針を知りたいはずなのに、ほとんど方針を告げることなく、3ヶ月後に来てくださいとか半年後に来てくださいとかおっしゃるだけです。これではまるで実験神経症の形成実験そのもので、うつでなくともうつになりかねないのです。
 あるとき依頼されたのはうつとの診断を受けたお母様の方で、子供さんは広汎性とはうけとれてもどうみても典型的な自閉症児ではないのです。うつで、あるクリニックに通っておられたお母様が児童相談所に子供さんの相談に行かれたところ、そこに嘱託で来ている児童精神科医が自閉症児だとの診断をしたのだそうです。医者でなくともみるからに暗い感じの母親にそのお子さんが自閉症だとの診断名を告げることが如何に過酷なことであるかわかるはずなのに、いったいその医者は子供さんを診るときに母親を診ることはしないのでしょうか?
 わたしはクリニックの医師からは母親への行動療法を依頼されたのですが、並行してこどもさんの療育を進めていく中で結果としてお母様のうつの改善をみた症例をもっています。
 このお母様の場合はかなり重篤なうつだったのですが、われわれが扱っているこどもさんの親の多くは子供さんが自閉症だと診断された直後には少なくとも神経症的うつ状態に陥っておられる方が多いのです。イギリスには児童相談所というのはなく、親子相談書なのだそうですがこどもさんの相談に応じるときにはお母様の相談にも応じることが必要であり、お母様の相談に応じるときにはお子様の状態を配慮することは常識だとおもいます。
 臨床家であるわたしにとっては子供さんの命の重みもおかあさまの命の重みも全く等価なものなのです。どうかおかあさまがたも子供さんだけでなく、自分自身の精神健康を保持することにも十分心がけていただきたくおもいます。
Posted by don at 2007年07月03日 21:14
donさん、

熱のこもったコメントありがとうございます。

私も、娘が自閉症だとわかって、娘のこともさることながら、まず心配したのは妻の精神的な健康でした。
家族が楽しく生きられなければ、結局、子ども自身も楽しく生きることはできないわけですから、「狭い内向きの世界」にこもりがちになる「母子関係」にしっかりしたサポートを提供することは、父親としてできる最も大きな貢献なのではないかと思っています。

それは、このブログの主旨そのものでもありますから、この「家族(特に母親)のうつ」というのは、当ブログで扱っているテーマのなかでも特に重要なものの1つだと考えています。
Posted by そらパパ at 2007年07月03日 23:08
40年近く前に異常行動研究会(現行動科学学会)で行動療法ではうつを扱うべきではない。なぜなら行動療法は学習心理学を基礎におくもので、40年前の学習心理学の水準ではうつは認知や動因そのものとのつながりが濃厚で、その発症の原因が明確でない領域には行動療法家は手を出すべきではないとの主張でした。現在でも基本的には問題は解決されていないのですが、臨床家としてはうつ状態にあるお母様がたを捨て置くことはできないのです。ただ当時とは薬理学のレベルが数段に上がり、多くのうつ状態を薬剤で制御できる可能性がでてきました。
おかあさまがたにいっておきたいことはまず投薬を受けることです。くれぐれも精神分析の系統の医師にかからぬこと、精神分析家でうつを罹患して自殺に追い込まれる人が非常におおいのです。
 実証の乏しさからわたしはロジャース派のカウンセリングを批判しつづけてきたのですが、効も乏しく害も乏しくはあっても気持ちの慰みにはなるという意味で、投薬を受けたうえでカウンセリングにかかられることには賛成です。
 幸いなことに私自身は40年の臨床歴の中で一人のクライエントにもその家族にも自殺者を出さずにきたのですが、子どもさんの経過が順調なので、他の臨床家に任せて2,3年後にその子の母親が自殺されたとの情報を新聞で知った苦い経験があります。自閉症との告知を受けたその直後も心配ですが、見通しがある程度ついた段階にも命の危険性は増加する可能性があることに留意ください。
Posted by don at 2007年07月12日 10:49
donさん、

うつに対して、行動療法は「手を出すべきではない」というスタンスをとっているのですね。それはとても誠実な態度だと思います。

実際、薬物療法が劇的にうつの症状を軽減することが分かってから、それまで主流だった精神分析的療法がいかに効果がなかったかということが浮き彫りになったと聞いています。

個人的には、うつは、端的に「体としての『脳』の病気」であって、言語のレベルで介入して効果があがるものではなかったのだ、ということなのではないかと考えています。

ともあれ、障害をもつ子どもの親にとって、うつは非常に「身近な」問題であることは間違いありません。
donさんもご指摘のとおり、発達診断で「障害の恐れあり」といった情報を伝えるときには、子どもの療育とあわせて親御さんの精神面でのケアもとても重要だと痛感します。

Posted by そらパパ at 2007年07月16日 00:04
現在、うつ進行中です。
医者ではない自分が、診断をしてはいけないのですが、この一週間で不眠・下痢・血圧の上昇(平常+30)という状態になっており、10年前に職場関係のストレスで「抑うつ状態」との診断結果を受けた自分としては、経験的にこれはヤバイという自覚を持っています。

原因となるストレスは今はいかんともしがたいので、睡眠導入剤と血圧降下剤の処方をお願いするしかないかな・・・と思っています。
Posted by はじめ at 2007年11月28日 04:39
はじめさん、

もし本当にそういう経過をたどりつつあるのなら、すぐに専門のお医者さんに行かれたほうがいいと思います。

ちなみに、本書の続編が出ました。短いですがレビューを書きましたので、よろしければご覧下さい。

http://soramame-shiki.seesaa.net/article/69836046.html
Posted by そらパパ at 2007年11月28日 23:57
そらパパさま

早速心療内科に行ってきましたが、処方されたのは整腸剤のみでした。
一週間前に子供の診断をもらったことを告げましたが、先生曰く「人間は、ショックなことがあっても、大抵はそれに対応できる。今の状態も一時的なものとなる可能性が高い。継続するようなら、うつの薬を出す」ということでした。
これで良いのか?とも思う反面、話を聞いてもらったことで少し気が楽になりました。
Posted by はじめ at 2007年11月29日 06:18
はじめさん、

確かに、うつというのは継続的な状態を指すようですので、ストレッサーが現れて1週間では診断はされないのかもしれませんね。

いずれにせよ、うつは薬で治せる時代ですので、医師の診断に従って、早め早めに手を打たれるのが良いと思います。
Posted by そらパパ at 2007年11月29日 23:20
はじめまして。
何から書いたらいいのかわからないほどです。
小学2年 自閉症 軽度?の娘がいます。
どう育ててよいかわからなくなり、PCで検索中そら豆パパさんにたどり着きました。
どこにも理解させずどうしたらいいかわからず・・・
とうとう自傷他傷が酷くなった娘を止める方法が見つかりません。
主人は、私と娘の事を上司に話して仕事を休んでくれました。
こんな状況を知った親戚のおじさんに、おじさんはもっと辛い思いをした!めそめそ泣いてないで強くなれ!と言われました(´`)
療育手帳再判定を申し込み、児童相談所の方にも、IQは高いし理解してるから、きちんとした療育をすればわかる子だからと言われ・・・療育手帳はCのままみたいです。
お姉ちゃんは、妹なんかいらない!と妹にたたかれながら号泣の日々です。
私の父は、悪質なサプリメント集団に孫(私の娘)の自閉症をいいことに騙されてしまい・・・
3年ほど悩んでましたが、パパがそら豆パパさんのブログを見て感動して頑張ってます。
私は、頭がよくないので娘の役に立たず、主人におんぶにだっこ状態で情けないです。
ただの愚痴になってしまいました。
そら豆パパ・ママさんのようには出来ないけど、何かいい道がひらけるといいなあ。
おじゃましました。

ここまで頑張って書いているそらパパさんのブログを見せて頂ける事に感謝しております。ありがとうございます。
Posted by ちゅらら at 2010年03月12日 01:48
ちゅららさん、

コメントありがとうございます。

とても大変な状況にいらっしゃると思料しますが、何が問題で何が重要なのか、それだけでも少しずつ見えてくれば、それは前進していると言えると思います。

サプリメントやキレーション療法で自閉症が良くなった、治ったという科学的事実はありません。
同じお金を使うなら、例えば児童精神科医に相談してみることをおすすめします。
自傷・他傷に脳神経系の不調が関係しているのであれば、対症療法として精神状態を安定させる薬が処方されることもあります。(たとえば、うちの娘にはリスパダールが処方されています)
そういった外部からの支援を得ながら、見通しを持ちやすくしたり、分かりやすいコミュニケーションを心がけるなど、家庭でできることを少しずつ実践していくのがいいと思います。

療育は、単に子どもを訓練するということではなくて、家族全員の幸せを実現するために行なうものだと思います。
当ブログがそのお役に立てるかどうか分かりませんが、少しでも何かヒントになったりすることがあれば、嬉しく思います。

Posted by そらパパ at 2010年03月12日 21:43
そらパパさま

はじめまして。
子どもが高機能自閉と児相で診断され、自分も小学校就学時検診で特学を勧められた経緯があり、当事者かもと疑っております。

家内がうつ病の手前程度になっているのですが、その原因が自分の人格障害にあるのではとの疑いを持っております。(もちろん子どもの障害は、大きな原因の一つですが)

家内は私が自己愛性人格障害であり、モラルハラスメントを受けていると言います。また、発達障害の児童が成長して、自己愛性人格障害などの人格障害を持つと主張する精神科医の講演を家内は聞いてきました。

家内のうつに関してのかかりつけの心療内科医は、私の人格障害に対して、結果的にはモラルハラスメントとなるとしても、自己愛性人格障害ではないと私に言います。自己愛性人格障害者は高度なソーシャルスキルを備えていて、意図的にハラスメントを行うのに対し、私は未熟なソーシャルスキルが結果的にハラスメントに近い状態になるのであって、意図的に行うのと根本的に異なると説明します。

そらパパさまにお願いなのですが、発達障害が長じて、自己愛性人格障害などの人格障害になっていくのかどうか、何らかのご意見なり、知っていらっしゃる知識を載せていただけないものでしょうか。

子どもが長じて、意図せず配偶者などの家族を苦しめていくとしたら、悲しいので、事前にうてる手はないかと考えております。

長文、申し訳ございません。
Posted by あすけ at 2010年07月09日 12:40
あすけさん、

コメントありがとうございます。

ご相談の件、大変苦しんでいらっしゃるようですが、申し訳ありませんが私は精神医学については素人で、ご質問にお答えできるような知識を持ち合わせておりません。

お力になれず、すみません。
Posted by そらパパ at 2010年07月09日 22:22
そらパパさん、余計なこと、そらパパさんの意に反するかもしれませんが。

あすけさん、はじめまして。初老の当事者です。

>当事者かもと疑っております。
まず、この点を貴方の思い込みなのか、医師など第三者から見ても妥当な「疑い」なのか、はっきりさせることをおすすめします。支援センターなどで、医療機関を当たってみてはいかがですか?

私の他の当事者との交流では、未自覚な当事者が配偶者など極めて身近な他者に、自己愛性人格障害の様に振る舞うことを散見しています。自己愛性人格障害の様な振る舞いは、当事者が陥りやすい落とし穴の一つだと思っています。

この落とし穴から抜け出るためには、まず、自分が当事者であるとの自覚が必要です。穴からの抜け出方は、様々ですが、自覚無しには出来ません。

>子どもが長じて、意図せず配偶者などの家族を苦しめていく

貴方が当事者なら、現状は「あすけが長じて、意図せず配偶者などの家族を苦しめている」です。
この現状からの脱却が、なによりも、お子さんへの生きたお手本ではないでしょうか?

ご参考までに

沖縄の後藤健治(精神科医)さんのHP

http://www7.ocn.ne.jp/~k-goto/

には、以下の項目があります。
人格障害と呼ぶ前に
自己愛性人格障害について
Posted by ヒゲ達磨 at 2010年07月10日 14:38
そらパパさま、返信ありがとうございます。

将来、発達障害と人格障害の関係が解明されて、二次障害にせよ万が一、発達障害児が人格障
害となるならば、親子連動の発達障害と、そこからくる人格障害により、我が子の発達障害と、配
偶者の人格障害で、うつ病などのリスクが大きくなる保護者のメンタルヘルスを守る方法が提示さ
れていくことを願います。

ヒゲ達磨さま、レス感謝します。

私は地方在住で、幼児の発達障害の診断さえままならない現状の地域におります。成人診断は
地域では望むべくもなく、首都圏に出向いてと考えても、持ち合わせが少ない中、当てがない状
況ではままならないところです。
実際に支援センターなどで相談してみて、強く実感した次第です。

沖縄の後藤健治(精神科医)さんのHPをお知らせ下さいましてありがとうございました。

参考にさせていただきます。
Posted by あすけ at 2010年07月12日 12:30
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家族がうつ病になったら・・・ 細川貂々著 「ツレがうつになりまして。」
Excerpt: 前からうつ病についての本を読もうと思っていたんです。 そしたら、ちょうどいいのがありましたよ。 漫画ですけどね。 朝のNHKの番組で今日、紹介されてもいました。 細川貂々著 ..
Weblog: 本読め 東雲(しののめ) 読書の日々
Tracked: 2007-06-20 09:01
子どもが自閉症かもしれない!どうしよう!という親御さんへのアドバイスはこちら
孫が自閉症らしい、どうしたら?という祖父母の方へのアドバイスはこちら

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花風社・浅見淳子社長との経緯についてはこちらでまとめています。