発達の遅れが気になる子どものためのムーブメントプログラム177
学研 ヒューマンケアブックス
著・監修:小林 芳文
著・編集:横浜国立大学附属特別支援学校
巻頭カラー
子どもの笑顔があふれるムーブメント教育
活動別ムーブメント教具カタログ
第1章 ムーブメント教育がめざすもの
ムーブメント教育って何だろう
ムーブメント教育ではこんな子どもの力をのばします
プログラムをじょうずにすすめるために
第2章 活動別ムーブメント
からだ
あるく
はしる
とぶ
はう・くぐる
まわす、ころがす
なげる・とる
ひっぱる・おす
のばす・ちぢめる
バランス
あたま
あつめる・わける
ならべる
かさねる・つむ
ひろげる・たたむ
みたてる
おおい・すくない
おおきい・ちいさい
ながい・みじかい
たかい・ひくい
はやい・おそい
こころ
力を合わせて
ものと合わせて
わたす・もらう
順番に
まねする
ルールを守る
やさしく
工夫する
発表する
チャレンジする
第3章 教具別ムーブメント
バランスボール
キャスターボード
タイヤ
大型パイプ
スクエアボード
フラフープ
カラータオル
ボールロープ
伸縮ロープ
カラースティック
プレイバンド
ビーンズバッグ
ミニボール
ムーブメント形板
形板
カラーパイプ
カラーロープ
ハンプ
カラー積み木
カラーボックス
ジョイントパイプ
絵カード
文字カード
カラーバケツ
クリアパイプ
スカーフ
ハットフリスビー
ユランコ
パラシュート
本書は「ムーブメント(療法)」と呼ばれる療育法の実践について書かれた本です。
ムーブメント(療法)とは、↑このようなさまざまな道具を使った療育法なのですが、本書の内容に入る前に、この療育法と関連のある、「感覚統合」という療育理論・療育法について少しだけ触れたいと思います。
感覚統合というのは、いわゆる作業療法の領域で特に盛んな療育技法で、自閉症のお子さんへの支援としても幅広く実施されています。バランスボールやマット、吊り下げロープなどを使う感覚統合のアクティビティをご覧になったことのある方も多いでしょう。
私は、感覚統合療法の実践を療育ポートフォリオに取り入れる(療育の一部として実践する)ことは悪くない選択だと考えており、以前のシリーズ記事、あるいは2冊の拙著のいずれでも感覚統合について肯定的に触れています。
その一方で、感覚統合の「理論」の部分については、古い脳科学の知見からの連想で構築されたエビデンスに乏しいものであり、トートロジーに近いものであると考えています(感覚の異常を説明するために作った「理論」で、そのまま感覚の異常を説明しているわけですから、トートロジー=同語反復になってしまうわけです)。
この辺りについては、先にご紹介した過去のエントリに加えて、以前Twitterで議論したときの記録が残っています。
http://togetter.com/li/84129
感覚統合療法あれこれ
ということで、私が感覚統合に対して持ってきた問題意識をまとめると、
・実践内容には子どもとのかかわりのヒントが詰まっており肯定的にとらえられる。
・一方で「理論」には問題が多い。できればこの「理論」を捨てて実践の部分だけ再構成できないものか。
・実践内容が本格的な大道具が必要なものに偏っていて、家庭向きではない側面がある。
・また、実践内容が感覚領域(皮膚、バランス、重力等)に集中しており、そこからより高次な、道具を活用した「認知」の療育実践につなげていく道筋が必ずしも明確でない。
といったところになります。
要は、「変な理論がなく素直な、家庭でもできる、さまざまな道具を使った、感覚のみならず認知とか学習の領域にまで広がった、子どもとのかかわり遊び・かかわり療育の実践を集大成したような療育があったらいいなあ」と考えていたわけです。
その後、この本で紹介されている「ムーブメント(療法)」というのが、上記の私のイメージに近い療育技法であることが分かりました。
具体的には、
・ムーブメント、つまり「運動」をキーワードにした療育体系です。
・道具を使ったさまざまなかかわり支援のアイデアが満載です。
・専用の部屋がなくてもできるような、扱いやすい道具を使った支援法がたくさんあります。家庭でも教室でもできそうです。
・変な理論がくっついてきません。
・感覚・運動遊びにとどまらず、そこから支援の領域を広げていって、道具を使った「認知」課題への取り組みまでが守備範囲になっています。
↑例えば、ムーブメント教具の1つ「クリアパイプ」を使ったムーブメントの活用例については、こんな感じで掲載されています。
「理論」の部分について若干補足です。
この「ムーブメント」にももちろん理論的な枠組みがあり、「からだ=運動・感覚」「あたま=言語」「こころ=社会性」という3領域の発達プロセスが想定されています。
そして、その各領域の発達段階をMEPA-Rというテストでアセスメントし、その結果に基づいて「推奨ムーブメント」を選んでいく、という流れが本来の姿であるようです。
とはいえ、これら「理論」は常識的な発達心理学の枠組みに基づいた、「いろいろなことができるようになる順序」、つまり「この行動ができればこの発達段階」といったものです。言い換えると、行動のさらに背後に、特殊なメカニズム(例えば脳の活動とか)を想定して構成されてはいません。
当然、そこから導かれる「実践」も、「この行動ができない発達段階のお子さんには、その行動につながる活動をさせよう」という、これまたシンプルな対応をもっています。
本書を読んでいても、個々の実践を紹介する際に、いちいち「理論」が前面に出てくることはありません。あくまでも「特定の行動ができるようにする支援の枠組み」なわけです。このあたりの印象は、感覚統合よりもむしろTEACCHのほうにずっと近いですね。
さて、そんなわけで、本書は発達障害のお子さんのための「ムーブメント療法」の実践方法が満載の「実践プログラム本」です。
かなり基本的な発達課題から始まっているので、知的な遅れのあるお子さんまで含んだ幅広い対応が可能でしょう。
特に「からだ」の領域の実践は、バランスボールとかを使ったからだ作り、運動遊びが多くて感覚統合とかぶっている部分も大きいですが、「部屋に備え付けの専用器具」みたいなものを使うシーンは少なく、家庭でも実践しやすいようなハンディな道具を活用したアイデアがむしろ中心になっています。
知的な遅れの大きなお子さんの場合、(我が家もそうでしたが)療育開始前の「反応性」が非常に弱いことも多く、親として療育をやるといっても具体的にどうかかわってあげればいいのか見当もつかない、というのが率直なところだと思います。
ですから、そういったお子さんとの「かかわり」を作っていけるような、体をつかった「療育アクティビティ」の本って、需要はすごくあるだろうと思います。
私も何年か前、そういう本を求めて本屋に通いました。
その頃、本屋で普通に売っている本でそういうニーズに応える療育法は、感覚統合しかなかったと思います。
その後知った「RDI」という療育法にもさまざまな「アクティビティ」があることを知りましたが、こちらは知的な遅れのないまたは小さいお子さん用の活動集で、「重い子」向きの内容ではありませんでした。
そんななか、
※2012年1月31日追記:コメントにていただいた指摘に基づき、一部表現を修正しました。
すべてのプログラムが「運動」につながっている点からも、お子さんも楽しんで実践でき、また支援する側も身体的な誘導で療育にもっていけることから実践の難易度も低いと思われます。
TEACCH的な療育を実践していこうと考える方にとっても、療育のバリエーションを考える際のサブテキストとして役立つ内容ではないでしょうか。
家庭でもすぐに実践につなげていける、素晴らしい内容です。文句なしの殿堂入りです!
おわりに:
実践内容の類似性もあって、ムーブメント療法と感覚統合療法をあわせて実践されている支援者、支援施設も多いようですし、両療育法は相互へのリスペクトもあるようです。このエントリは、そういった実践スタイルを否定するものではありません。あくまでも、感覚統合にはいいところもあるが批判的に受け止めざるを得ない部分もあり、ムーブメント療法はその問題について解決を与えうる療育法であり、家庭でも実践しやすく望ましいと個人的に考えている、という趣旨です。
また、本書で紹介されているような、運動・遊び的な活動を中心とした療育は、学校活動での「体育」「図工」などと同様で、それ自体非常に重要で、特に初期・導入期には必須ともいえる療育だといえますが、「これだけで全部まかなえる」といったものではなく、よりディスクリート(課題的・訓練的)なABA等の療育とうまく組み合わせて、まさに「療育ポートフォリオ」として活用していくことが重要だと思います。
※その他のブックレビューはこちら。
いつも有意義な記事をありがとうございます。
ただ、ムーブメント教育・療法をTEACCHの枠組みに位置づけるのは「少し」ではなく「かなり」強引過ぎるのではないでしょうか。
歴史的に見ても「比較的新しい療育技法」ではなく、40年以上の積み重ねのある技法ですし、独立して開発、研究されてきたものですので。
他の療法を紹介なさるときも、TEACCHと同様、もう少しニュートラルな視点で語っていただけると助かります。
コメントありがとうございます。
ご指摘の文章については、もちろんムーブメントがTEACCHと同じ系統のものだという趣旨ではなく、使っている道具は感覚統合療法と共通するものも多いけれど、自閉症(ないし発達障害)の人の「感覚→認知」に対するとらえかた=枠組みは、感覚統合よりもTEACCHにずっと近い療育法だ、という私個人の印象を書いたものです。
実際にムーブメント療法にたずさわっている方からみて、乱暴なたとえに見えてしまっているとすれば申し訳なく思いますので、あくまでも私の印象だということが分かるように表現を少し修正しようと思います。
また、ムーブメント療法が比較的「新しい」と書いたのは、自閉症・発達障害のお子さんを明確に療育対象とした一般向け書籍を、私が見かけるようになったのがかなり最近になってからだということからそう書きましたが、創始の時期をみると、確かに感覚統合と変わらないくらいに始まっている療法なんですね。
というわけで、今回ご指摘いただいた2点については、エントリの文章を修正させていただきました。
ムーブメント療法は、反応性の弱い自閉症のお子さんが、身体を通じて「世界」と主体的にかかわっていくきっかけ作りに、とても有効な療法なのではないかと感じていますので、これからも勉強していきたいと思います。
これからもよろしくお願いいたします。
初めての投稿ですが内容が沿わない場合は、聞き流してください。
ムーブメントセラピーが 道具や音楽を使う方法に対して
道具や音楽を使わない シェルボーンムーブメントというものがあります。あまり 書籍があったり 日本での実践においては数が少ないのですが、お金を掛けず 出来る 家庭の関わりでも取り組める。そんな ムーブメントがあります。
小林先生のムーブメント 国際シェルボーン協会が主催する研修どちらも受けましたが、手段は違えど理論は同じで 私にはどちらもとっても楽しい 関わり方です。
よかったら 参考までに。
コメントありがとうございます。
ムーブメントといってもいろいろあるようですね。
もちろん、道具を使うということは、それ自体が目的なのではなくて「かかわる」ための手段なので、いろいろなやり方があっていいと思います。
(そもそも、このエントリでも書いているとおり、この辺りの療育法には、私は特に「かかわりにくい子どもとうまくかかわるヒント」を求めているところがあります。)
これからもよろしくお願いします!