2006年11月05日

新しい認知心理学から自閉症を考える(18)

それではまずは、カナー型に近いと思われる「弱い一般化処理」のモデルを持つ自閉症児に対する療育について考えてみましょう。

「弱い一般化処理」の自閉症児への介入法

このモデルにおいて、阻害されている「フィードバックループ」を回すために最も大切なことは、左下の「環境からの入力」の部分です。
この入力を意図的に操作することで、「抽象化処理」によって作り出される情報の量と質をコントロールし、弱い「一般化処理」でも情報が適切に処理され、オーバーフローを起こさない状態を作り出し、先に「精神遅滞のモデル」で示したような「小さなサイクルが健全に回る状態」を作り出すことです。
それにより、環境との相互作用が可能になり、意味のある環境からの入力が次々と入ってくることによって脳が活性化され、やがては脳全体の処理能力を引き上げる(知的な面での遅れを回復する)効果が生まれてくるでしょう。やはり大切なのは「小さく始める」ことです。

では、自閉症児の脳への「環境からの入力」をコントロールするとは、具体的にどんなことを考えればいいのでしょうか?

まず、「量」という観点からは、情報量を減らさなければなりません
自閉症児の場合、環境からのそのままの量の情報を受け取ると、一般化処理がオーバーフローしてしまうわけですから、このオーバーフローを防ぐためには、環境からの情報量を減らす必要があると考えられます。

次に、「質」という観点からは、意味のある情報だけを与える必要があります
情報の量を減らすといっても、ただ漫然と減らしてしまっては、子どもにとって重要な情報まで入ってこなくなって結局効率的な環境の知覚・学習は進みません。
ですから、意味のある情報は残し、環境からのノイズと呼べるような「余計な情報」は徹底的にカットする必要があるのです。
つまりこれは、環境に対して積極的に働きかけ、自閉症児の生活環境のできるだけ幅広い範囲について、その環境が持っている重要な構造を分かりやすく提示する、ということを指しています。

これは、何かに似ています。

そうですね、TEACCHの療育技法の中核をなす「構造化」の考え方とまったく同じです。

TEACCHの構造化というのは、療育環境の「多義性」を徹底的に排除して、子どもが注目すべき「重要な情報」が何であるのかがはっきり分かるようにすること、言い換えると「情報のコントラストを高めること」「環境を単純化すること」です。

ここに、今回の仮説に沿った説明を追加するとすれば、構造化は、弱った「一般化処理」でもオーバーフローを起こさずにルール化ができるように、事前に環境からの入力をある程度クリーニングして送り込むことだ、といえます。
例えていえば、おなかを壊して弱っている胃に配慮して、おかゆを与えるようなものでしょうか。

(TEACCHの構造化は、具体的には「空間の構造化」「時間の構造化」「ワークシステム」などいくつかのアイデアに分かれます。ここでは詳しくは触れませんので、詳細はこちらの記事や、あとでご紹介する書籍などを参照してください。)

TEACCHの構造化のアイデアはどちらかといえば臨床の現場での経験から生み出されたものだと思われますが、この仮説からも、構造化によって自閉症児にとって「理解しやすい環境」を作ることが決定的に重要だということが理論的に導かれました。

発達課題についても、何でもかんでもいろいろ同時にやらせるということではなく、いまちょうど伸びてきているスキル(TEACCHでいう「芽ばえ反応」が出ている発達課題)を中心に、1つの場所では1つの発達課題といったように「空間の構造化」によって多義性を排除しながら、厳選した課題を慎重に教えることが必要でしょう。
(以前補足的に説明した大脳の階層モデルに基づいて考えると、療育の手順は「下の階層から上へ」、つまり最初は感覚と運動の統合=感覚統合的な療育から始めて、粗大運動や感覚に極端な問題がなくなってから認知スキルのトレーニングに入るという手順がいいのかもしれません。)


[関連文献]:TEACCHと構造化に関する本


自閉症児のための絵で見る構造化 パート2―TEACCHビジュアル図鑑
佐々木 正美
学習研究社 (レビュー記事

本当のTEACCH―自分が自分であるために
内山 登紀夫
学習研究社 (レビュー記事

自閉症のすべてがわかる本
佐々木 正美
講談社 (レビュー記事

(次回に続きます。)
posted by そらパパ at 22:00| Comment(0) | TrackBack(0) | そらまめ式 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください
この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/24620240
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。

この記事へのトラックバック
子どもが自閉症かもしれない!どうしよう!という親御さんへのアドバイスはこちら
孫が自閉症らしい、どうしたら?という祖父母の方へのアドバイスはこちら

fortop.gif当ブログの全体像を知るには、こちらをご覧ください。
←時間の構造化に役立つ電子タイマー製作キットです。
PECS等に使える絵カード用テンプレートを公開しています。
自閉症関連のブックレビューも多数掲載しています。

花風社・浅見淳子社長との経緯についてはこちらでまとめています。