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2006年11月02日 [ Thu ]

新しい認知心理学から自閉症を考える(17)

ここからは、この仮説を自閉症児への療育にどう応用するかということについて考えます。

その前に、まず確認しておきたいのは、私たちは自閉症児の「脳内」に直接働きかけることはできない、という大原則です。

つまり、この仮説で自閉症の原因だとされる「弱い一般化処理」とか「強すぎる抽象化処理」といった脳の情報処理の問題について、脳自体を直接いじって治すことはできないのです。
もちろん、脳には可塑性があり、「脳を鍛える」という言葉が流行語になるくらいですから、脳に働きかけ、脳の情報処理能力を改善したり調整したりすることもある程度は可能です。でもそれはやはり、脳を開いて手術することではなく、外部から課題を与えたり有効な働きかけを行なうことによってなされるのであって、我々ができるのは、「外部からの働きかけ」だけなのです。


ここで「薬を飲むのはどうか」と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、現時点で「自閉症児に効く」という薬物はありません(対処療法的に向精神薬等が処方されることはあります。また、キレーション療法や代替療法の類については私は明確に否定しています)。
さらに補足するなら、これまで見てきたとおり、自閉症の問題は、脳のどこかに悪い場所があるからそこを治せばよくなるというものではなく、脳の障害により環境に対する知覚・学習・適応が成立しないという発達ないし学習の問題だと考えられます。ですから、仮に自閉症の脳の問題を改善する薬が発見されたとしても、その薬を使いながら、脳のネットワークに環境の知覚・学習をやり直してもらうような働きかけ、つまり「療育」が結局必要になると考えられるのです。

また、ここで、自閉症児の「心」とか「内面」を新たに考える必要もありません。
自閉症児が環境とのかかわりの中でどのような困難を抱えているかは、「脳の中」まで含めて、既に仮説で明らかになっています。療育方針を観念的なあいまいなものにしないためには、目に見えない構成概念は少なければ少ないほどいいのです。「よくわからないものをよくわからないもののせいに」してはいけません。

とはいっても、この仮説に基づく療育方針は、いわゆる「徹底的行動主義」に基づくものでもありません。
この仮説では皮膚の内側、脳の情報処理についてネットワークモデルを仮定し、そのふるまいを考慮して療育を考えます。つまり、「皮膚の内側」に構成概念を置いてそこに影響を与えることを考えますから、純粋な意味での徹底的行動主義ではなく、あくまでも「認知心理学的アプローチ」の一種です。

ここから、具体的な療育法について考えていきますが、その前に、「脳 回路網のなかの精神」で語られている、より一般的な(でも極めて重要な)ポイントに触れておきたいと思います。

@課題に注意を向けているときにだけネットワークが変化し「学習」する。
 同じ課題を解く場合でも、ちゃんとその課題に注意を向けている場合は、対応する脳ネットワークが変化を起こし「学習」するのに対して、注意を向けずにこなしている場合は脳は変化しない。つまり、「その場だけの処理」として済ませてしまい、「学習」しないのです。
 療育というのは本質的に、脳の可塑性(変化し学習する性質)に期待し、脳を望ましい方向に変化させる試みですから、脳が変化しないのでは意味がありません。
 つまり、子どもに最優先で教えるべき課題の1つが、「特定の対象に注意を向けさせる」ということだと言えます。
 残念ながら本の中では、注意とは何なのか、という疑問に対しては十分な答えが用意されていないので、ここでは一般的なやり方を選ぶしかありません。ABAにおけるアイコンタクトの訓練や、私が開発した「鏡の療育」で自分自身の鏡像に注目させるなど、子どもの課題遂行スキルに応じて、まずは「注意力を上げること」を目指すことがその後の療育の効率アップに役立つでしょう。

A学習には「脳にとって最適な時期」がある一方で、脳の可塑性は一生失われることはない。
 例えば、ことばの獲得にとって最適な時期は、健常児がことばを獲得するまさにその時期であり、そこから遅れれば遅れるほど、学習は困難になっていきます。社会性やコミュニケーションについても同様だと思われます。
 このことは、できるだけ早期から療育を開始することには意義があることを示唆しています。自閉症をできるだけ早期に発見し、すぐに療育を開始することによって、予後を改善できる可能性が高まります
 でも、療育が遅れてしまえばやってもやらなくても同じ、ということにはまったくなりません。脳はいくつになっても、ネットワークを変化させ学習する、柔軟な可塑性を持ちつづけるのです。
 早く始めるに越したことはありませんが、遅すぎるということもありません。大切なのは、適切な介入を継続的に続けることです。

B小さく始めて、大きく育てる。
 これもシミュレーションから発見された非常に重要な法則です。
 ことばや社会性のような非常に複雑なことを教えるとき、いきなり複雑なことを教えると、学習が進みません。ところが、最初に単純で基本的なことを教え、それをマスターしてから複雑なことを教えると、ちゃんと学習できるのです。
 ここでのポイントは、最初に教える「単純なこと」は、最終目標の「複雑なこと」の基盤になるようなものでなければならない、ということです。
 例えば、絵カードでコミュニケーションを教えるとき、最初に使う最も単純な要求表現の「文法」は、最後まで同じように有効でなければなりません。その上で、より複雑な表現がそこに加わってくる、という構造を保たなければならないのです。(そういう意味では、PECSのフェーズ4にはやはり問題があると言えます。)

[関連文献]:今回の内容が書かれている本です。(再掲)

脳 回路網のなかの精神―ニューラルネットが描く地図
マンフレート シュピッツァー
新曜社 (レビュー記事

(次回に続きます。)

posted by そらパパ at 22:37 はてなブックマーク | コメント(0) | トラックバック(0) | そらまめ式
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