2006年10月22日

新しい認知心理学から自閉症を考える(11)

前回ご紹介した、脳の情報処理の「健常者のモデル」を出発点として、脳への何らかのダメージにより、「一般化処理」の処理能力が弱くなってしまった状態を考えてみましょう。

一般化障害仮説 「弱い一般化処理」の自閉症モデル
↑「弱い一般化処理」の自閉症モデルです。

この状態では、「抽象化処理」の処理能力は正常範囲ですが、「一般化処理」の処理能力が弱くなっているために、抽象化された情報を処理しきれず、相対的に「抽象化処理された情報が多すぎる」状態になります。

その結果、一般化学習に失敗し、環境に自ら働きかけるための「適切なルール」が確立されず、環境へ働きかけるスキルが発達しません。その結果、環境からのフィードバックを受けることもできず、「サイクルが回らない」状態になります。
サイクルが回らないということは、「環境を知覚する」スキルが発達せず、環境との適切な「かかわり」、相互作用ができない状態に陥ります。これが、自閉症の発症のしくみ(の1つ)だと考えられます。
(なぜ「環境を適切に知覚し相互作用するスキル」に障害があることが自閉症の各種症状につながるのかについては、既にシリーズ記事で解説している「環境知覚障害仮説」もあわせて参照願います。)

なお、既に書いたとおり、この「弱い一般化処理のモデル」は、脳の全体的な情報処理能力自体も下がっている、つまり広い意味での認知能力が落ちていることから、典型的なカナー型(低機能)自閉症のモデルだと考えられます。
また、この場合、以前ご紹介した「一般化の失敗」の3つの類型の中でも、②誤ったルール化③ルール化の失敗が起こりやすい状態になっていると考えられます。

次に、「一般化処理」の処理能力は正常なのに、抽象化処理能力が発達しすぎて肥大化した状態を考えてみます。

一般化障害仮説 「強すぎる抽象化処理」の自閉症モデル
↑「強すぎる抽象化処理」の自閉症モデルです。

「抽象化処理能力が過大になる」原因の1つとして、先ほど少し触れた「刈込みの失敗」をあげておきたいと思います。
抽象化処理モジュールの中核をなすと思われる、海馬という脳領域は、発達の過程で肥大化と縮小を繰り返してネットワークの密度を調整しているようです。ここで、肥大化しすぎたニューロンを自殺させるのが「刈込み」と言われる現象であり、これがうまく働かないと抽象化処理モジュールは肥大化に傾くことになり、結果としてこの図のような「強すぎる抽象化処理」という状態に陥ると考えられます。

「強すぎる抽象化処理」の状態では、環境からの入力を過剰に取り込み、雑多な個別経験を大量に一般化処理に送り込んでしまうため、正常範囲内の処理能力を持つ「一般化処理」の処理能力をもってしても情報量が過大となってしまいます。
その結果、やはり一般化学習が失敗し、適切な環境への働きかけのために必要な一般化されたルールの獲得に失敗し、「環境知覚のためのサイクル」がうまく回らない結果となります。

このモデルの場合、全体的な脳の情報処理能力は高く維持されている(むしろ部分的には健常者より優っている可能性すらある)ので、典型的にはアスペルガー型(高機能)の自閉症のモデルとして考えることができそうです。
また、この場合の「一般化の失敗」としては、①過剰な適応が起こりやすい状態になっていると考えられます。

そして、この2つの間にはいくらでも中間のモデルが作れます。
ポイントとなるのは、「抽象化処理>一般化処理」というモジュール間の処理能力のアンバランスだけであり、これが自閉性の正体だと考えられます
これが、正常から最重度まで連続する「自閉症スペクトラム」の実体であり、知的能力の高低とは独立して「自閉的傾向の強さ/弱さ」が現れるように見えることの理由だといえるでしょう。

(次回に続きます。)
posted by そらパパ at 22:38| Comment(0) | TrackBack(0) | そらまめ式 | 更新情報をチェックする
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