この本は韓国出張中に読んでいて、実はこの部分はホテルのお風呂(海外式の浅くて寝そべって入るバスタブ)につかりながらくつろいで読んでいたのですが、読んだ瞬間、思わず「すごい!」とつぶやいてバスタブから起き上がってしまいました。
そして、急いで体を洗ってお風呂を出て、この部分の出典とされる「脳 回路網のなかの精神―ニューラルネットが描く地図」をホテルからすぐにAmazonで注文してしまいました。
この仮説は、一言でいうと「脳内での情報の抽象化の能力が、その脳の一般化能力に対して過剰に強いことによって一般化が障害されることが自閉症の原因である」というものです。
私が、なぜこの仮説にそれほど衝撃を受けたのか?
それは、この仮説が、シンプルなモデルで自閉症のあらゆる症状を整合的に説明できる可能性を持っているだけでなく、「なぜ自閉症は軽い人から重い人まで幅広く分布する『自閉症スペクトラム』を形成するのか?」「なぜ自閉症児は男子に多く、かつ男子では高機能自閉症児の割合が高いのか?」「ことばの出ない『カナー型自閉症』と、ことばが出るが使い方の不適切な『アスペルガー型自閉症』では、何が共通していて何が違うのか?」「自閉症児によく見られる『折れ線現象』はなぜ起こるのか?」といった問題をすべて含んだ、自閉症の全体像をシンプルに説明できる可能性があること、さらには自閉症児が抱えている問題を特定することによって、どのような療育法、介入法が効果的かを示唆することができることなど、仮説としての完成度が、私がこれまで見た何よりも高いと感じたからです。
そして、この内容は、私が考えている「環境知覚障害仮説」とも矛盾しません。
むしろ、私の仮説ではブラックボックスとして扱っていた「どのような脳機能の損傷で『環境知覚障害』が生じるのか?」という発症機序の部分と、「どのような療育が必要なのか?」という療育理論への橋渡しの部分が大幅に補強されます。
余談になりますが、私の大学時代のコネクショニズムに関連する卒論で、ほとんど独力で苦労してシミュレーション実験を繰り返し、発見した知見とも合致する部分が多いので、この仮説が主張する内容への妥当性を、個人的に「実感」できる、という面もあります。
まさに、「欠けていたパズルのピースが大幅に埋まった」という印象を個人的には持っています。
もちろん、あくまで「仮説」ではありますが、それでも、仮説として説得力のある「自閉症の全体像」が描けるとすれば、それは大きな意義のあることなのではないでしょうか。
今回のシリーズ記事では、この「認知過程のシミュレーション入門」や「脳 回路網のなかの精神」が示唆する仮説を「一般化障害仮説」と呼び、徹底的に掘り下げることで、私なりの「自閉症理論の全体像」を構築しようと思います。
かなり本気?です。
今回に限っては、私は「素人パパ」としてではなく、一人のアマチュア心理学者としてこの仮説を書き下ろしたい、と思っています。僭越ではありますが、プロの心理学者・コネクショニスト、あるいは療育者からのご意見・ご批判もぜひいただければと思っています。
そのため、今までの記事と比べると、かなり専門性が高くなってしまうかもしれませんが、最後に実用的な「療育の話」にもつながっていきますし、「知的読み物」としてお付き合いいただければ幸いです。
[関連文献]:新しい認知心理学(コネクショニスト・モデル)から自閉症について考えることのできる本
認知過程のシミュレーション入門
伊藤 尚枝
北樹出版 (レビュー記事)
脳 回路網のなかの精神―ニューラルネットが描く地図
マンフレート シュピッツァー
新曜社 (レビュー記事)
自閉症に働きかける心理学〈1〉理論編
著:深谷 澄男
北樹出版 (レビュー記事)
(次回に続きます。)
三歳の♀自閉、重度知的遅滞、高度難聴です。
この記事にはとても興味深いものがあります・・・、時間がある時に続きを読ませて頂きます。
この「一般化障害仮説」のシリーズ記事は、当ブログのなかでは最も本格的な心理学的テキストです。
内容は易しくない部分もあるかと思いますが、自閉症の理解にきっと役立つ内容を含んでいると思いますので、よろしければぜひお読みください。
なお、この内容を、当ブログの内容よりもさらに一歩進めて書いたのが、ブログの右上でも紹介している、拙著「自閉症」です。