発達障害のある子とお母さん・先生のための思いっきり支援ツール―ポジティブにいこう!
武蔵 博文・高畑 庄蔵
エンパワメント研究所
1.生活する力を増やそう! -支援の考え方
2.支援の輪を広げよう -4種の支援ツール
3.うちの子いちばんアンケートを書こう -子どもの長所を理解する
4.支援のアイデアを練ろう -子どもに合ったねらいを考える
5.いいこといっぱいチャレンジ日記 -交換記録ツール
6.チャレンジは自助具で自分から -実行を助ける手がかりツールその1
7.コミュニケーション・パワーアップ -実行を助ける手がかりツールその2
8.チャレンジは手順票で自分から -自発を促す手がかりツール
9.子ども・親・支援者も楽になるサポートブック -協働ツール
10.支援ツール・サークルをひらこう -支援ツール作成教室のすすめ
11.チャレンジ発表会をしよう -支援ツールによるグループ活動のすすめ
12.支援ツールの素
この本を一言で表すなら、「お買い得!」ということに尽きるかもしれません。
悪い意味ではないですよ。
何が「お得」なのかというと、家庭・学校・地域での療育のために、親として持っていたい療育ツールとその活用方法が、この一冊で一気に揃ってしまうからです。
例えばこんな表、前からずっとあったらいいなと思っていました。

(普通に掲載してしまうと、そのまま使えてしまいそうなので、申し訳ありませんが「引用」という文字をかぶせることにしました。ご了承ください)
これは、本書の巻末の「支援ツールの素」に掲載されている「トイレばっちり手順表」の1つです。本書には、男の子用、女の子用、和式用、洋式用の組合せで4種類の手順表が掲載されています。
また、以前の記事で少し話題になった、「歯医者さんで見通しを持たせるための絵カードはどんなものがいいのか?」についても、納得できるいい手順表が掲載されています。

うん、これならきっと分かってもらえそう。これは確かに「写真よりずっと分かりやすい線画」だと思いますね。
また、本書が、単なる支援ツールの寄せ集めにとどまらず、支援ツールを4つのカテゴリーに分類し、それらを有機的に組み合わせて活用しましょうという明確な方向性を持っている点も特筆すべきでしょう。
「4種の支援ツール」とは、順に、
1.チャレンジ日記
2.自助具・コミュニケーション拡大手段
3.スケジュール/手順表
4.サポートブック
を指しています。

↑4種の支援ツールがどう組み合わさるかが良く分かるイラスト。(赤字は私の加筆)
「チャレンジ日記」というのは、課題の達成・成功を記録する「記録帳」で、これがたまっていくことが子どもにとっても親にとっても継続への動機づけ、強化子となるような「支援ツール」です。
自助具というのはいわゆるワークシステム、「見ただけで分かる」ように工夫された道具や課題実行のための「支援ツール」です。
コミュニケーション拡大手段というのはいわゆるAACで、PECSの絵カードをはじめとする、「言葉以外のコミュニケーション手法」を指します。
スケジュール、手順表は視覚化によって子どもに見通しを持たせるものです。
「サポートブック」というのは、子どもの特性・好きなもの・苦手なものなど、子どもに関する情報を第三者に効率的に伝えるための情報ノートのことです。
本書では、これら支援ツールについて「参考になるようなサンプルや実例をたくさんご紹介しますから、子どもに合わせて各自で工夫しましょう。」というスタンスをとっています。例えば、手順表やサポートブックについても以下のように各種紹介されていて、「これしかない」という見せ方ではないことが分かります。

↑手順表の実例集です。

↑サポートブックの実例集です。

↑「拡大コミュニケーション」の実例として、PECSがまるごと(非常に短くまとめてありますが)イラスト入りで紹介されています。
もともと、こういう支援ツールは子どもの特性に合わせて取捨選択していく必要があるものだと思いますから、こういう見せ方は非常に正しいと思います。
さらに、これまではこういった「いろいろなツール」はそれぞれ別の本に掲載されていることが多かったので、「つまみ食いして取捨選択」するのはとてもコストがかかりました。
それが本書によって、短くまとめられてはいるものの、全部まとめて手に入るというのは、やはり「お買い得!」と思わずにはいられません。
ただ、そうは言っても「支援ツール」を自ら開発するのは難しそうだ、というのも事実ですね。
本書ではその問題の解決のために、地域で支援ツールサークルを作りましょう、というかなり大がかりな提案がされています。
そこまで頑張るなら自分で支援ツール作りをした方がラクな気もしますが(^^;)、アクティブなお母さん(ないしお父さん)であれば、チャレンジしてみるのも面白いかもしれません。
(恐らくこの章は、「支援ツール作り」のような取り組みはできるだけ大勢でアイデアを出し合いながらやったほうがいい、という著者らの養護学校での経験から来る提案なのだと思います。・・・ちょっと敷居は高いですが。)
ところで、個人的に思い入れがあり、どうしても引用しておきたいページがもう1ページあります。

この、本書の冒頭に出てくる「ポジティブ・サイクル」のイラストが、私はとても好きです。「やさしい応用行動分析学」でも同様の考えが強調されていました。
「叱る」ことがサイクルを回し、大人も子どももどんどんネガティブになっていく悪循環から、「ほめる」「できる」ことがサイクルを回し、どんどん成果があがって皆が幸せになれるポジティブなサイクルに変えること、これこそが療育にとって最も大切なことだと思いますし、私の考えとも完全に合致します。
本書は、療育に取り組む親が持っていて、必ず役に立ちそうな内容になっていると思います。いわゆる養護学校の先生が読むような特別支援教育実践系の本を親として読むのであれば、何よりまず本書がおすすめですね。
また、「やさしい応用行動分析学」とあわせて読むとさらに理解が深まるでしょう。
今のところ、まだこういった課題実践本が「殿堂入り」していませんでした。本書はそれに値する内容を持った本だと思うので、殿堂入りさせることにします。
※魅力的な内容満載の本なので、ついたくさん引用してしまいました。
量的に問題があるようでしたら、関係各位よりご連絡いただければ掲載点数を減らします。
※その他のブックレビューはこちら。
こちらのブックレビューはいつも参考にさせていただいてます。
「思いっきり支援ツール」さっそく購入しました^^
「その子が一番よくわかり 慣れたやり方で」というくだりに ハッとしました。
だんだんとステップアップしていきたくなるところですが
「わかるけどむづかしい」やり方だと 混乱するのかもしれません。
療育の園ママにも この本を紹介しようと思います。
そうですね。
高畑先生が関わっている本は、「やさしい応用行動分析学」もそうですが、子ども自身の生活を豊かなものにするという視点が常にあって、それが本全体ににじみ出ているのがとても魅力的だと思っています。
あと、この本は一人で読むより、周りの人を巻き込んで活用するほうが絶対に良さそうですね。(^^)
うちもいよいよ幼稚園が見えてきたので(まだ入れるかどうか分かりませんが)、そろそろサポートブック的なものを作らなければいけないかな、と思っています。
そんなわけで、まずは我が家ではこの本はサポートブック作りの参考として活用されそうです。
現在は香川大学教授に転出された主著者の武蔵先生に、ゲラ刷りの段階で本書は見せて頂きました。良くまとまった実戦向きの良い本です。こういった分野が武蔵先生の本当のご専門と私は考えていますが、彼はバックグランド的には旧東京教育大学の小林研ご出身で応用行動分析学者・臨床家といったところでしょうか。筑波大学の藤原義博先生や上教大の加藤哲文先生の後輩に当たられます。応用行動分析学では四項随伴(三項随伴+環境因子)は基礎原理ですが、武蔵先生の弁によりますと、一般の親御さんにこういった小難しい理論を説明しても駄目、これを分かり易く翻訳(具現化)したものがこの著作で紹介されている4つのツール、ということなのだそうです。
環境要因項の調整がサポートブック、先行刺激項としての働きかけがスケジュール表や手順書、行動の項がコミュニケーションブックや自助具など、そしてオペラント行動を強める結果への働きかけがチャレンジ日記(正の強化子)と、対応するということになります。こういった説明を武蔵先生は一般の講演会では仰らないのですが、そう説明を彼の口から聞くと、何となく先生の狙いというのが分かった気がするので不思議です。
私も自分が関わっているお子さんの親御さんには、武蔵先生を通して割引価格で購入し、必ず読んで頂いていますが、実際の活用ということになると、なかなか難しい面もあります。自分の子どもに合ったものがうまく作れない。ちょっと使ってみたけれど上手くいかない等々。そこで、必要性を強く感じるお子さんには基本的な部分を実際に作り上げてお渡しし、親御さんに肉付けをしていって貰うことにしています。やはり親御さんが実際に役立つと実感して下さることが一番大切と強く感じますね。
一方、高畑先生の単著である「やさしい応用行動分析学」の方は表題通り読み易い本なのですが、内容的には必ずしも正確ではないので、若干注意が必要かも知れません。例えば41ページに記載のスキナーの強化の原理を簡単に説明したマトリックスに消去が含まれている点などは重大な間違いと言えます。ま、大きなお世話なのかも知れませんが、ASP系の私としては気になるところです。
この本で紹介しているツールは、確かにABA的でもあり、環境整備に力を入れているところからは、TEACCH的でもあるように感じられます。
そして、そういったABAとかTEACCHといったことばを「あえて使わない」ことが、日本の教育現場に受け入れられやすくするために必要な場合がある、ということも最近は理解しています。
そういう意味でも、この本はなかなかすごい本だ、と改めて思います。
ちなみに、高畑先生の「やさしい応用行動分析」については、私もこんなものを作っています。ご参考までに。
http://soramame-shiki.seesaa.net/article/41698903.html
書籍「やさしい応用行動分析」修正案
Mixiのコミュで、紹介されてて、来ました。早速購入しようと思います。ありがとうございました。
この本は、療育を「実践」するときに非常に役立つ「ネタ集」になっていると思います。
私もときどき活用しています。
このレビュー記事が、安藤さんのご参考になれば幸いです。