療育と関係あるのか?と言われると多少微妙ですが、心理学というのがどんな風に人の心を研究するのかの一端が見える事件だと思いますし、人の「直観的判断」というのが、実はいかにもろいものであるのかということを痛感させられる事件でもあり、私たちが自閉症に対する多くの怪しげな民間療法、代替療法に接するときに取るべき態度についても考えさせられる内容が含まれていると思います。
残念ながら私はすべてが終わってから知ったのでリアルタイムに経験できませんでしたが、こんな「事件」があったそうです。
血液型性格診断を題材にした「ブラッドタイプ」という小説があるそうです。
そして、この小説に出てくる「非常に当たる」と評判のオンライン血液型性格テストを「再現した」というウェブサイト「究極の血液型心理検査」があって、それが「よく当たる」と評判になっていたそうです。
http://news.ameba.jp/2006/09/we0911_2.html
↑こちらがその様子を伝えるAmebloニュースです。
ここで、評判に「なっていた」と過去形で書いているのには理由があります。
以下にそのサイトのアドレスをリンクしておきますが、現在は既に全く違うサイトに変わっています。
http://www.senrigan.net/bloodmind/
長いのですが、ほぼ全文を引用させていただきます。
<お知らせ>
このアドレスには「究極の血液型心理検査」というサイトが掲載されていました。
「小説『ブラッドタイプ』の中で用いられた原理に基づく、9割近くの人が『当たっている』と信頼を寄せるサイト」と紹介されていました。(中略)
サイトの最終掲載日、2006年9月11日迄に、ブログなどで「当たってる」と紹介されている記事を見かけた方も多くおられたことでしょう。
アメーバブログのクチコミでも1位になりました。
なお、このサイトには英文で「バーナム効果による」という注釈もついておりました。
上記結果が、何を表しているのかお知りになりたい方は、この下をご覧ください。(中略)
血液型性格分類は、科学的根拠のない迷信です。
「究極の血液型心理検査」の結果表示は「時刻ごとに変わるランダム」でした。
血液型とはなんの因果関係もございません。
小説「ブラッドタイプ」では、同じ方法で「8割以上の人が当たったと信じる心理検査」が描かれています。
当サイトでは、そのシステムをそのまま用いました。
そして、現実に試した結果は「9割近くの人が当たったと信じ」ました。
グーグルで「究極の血液型心理検査」をお調べになると、9月11日以前には多くの人が「当たった」とおっしゃっていることがわかるでしょう。
ブログにお書きになった皆様。申し訳ありません。しかし、皆様は、間違っていたわけではありません。
もともと性格は一元的ではなく多面的なものです。
あの結果表示は、必ず性格の一部に当てはまるようになっています(当たっていないと信じようとすれば、これまた当たっていないと感じます)。それがバーナム効果です。
小説「ブラッドタイプ」では、血液型性格分類は「月の錯視」と同じぐらい強力な錯覚だと書かれています。
月が地上に近いほど大きく見える、わかっているのにそう見えてしまう…
血液型で性格が変わるという迷信の根深さも、それだけ強烈な錯覚だからです。
「統計で多くの人に錯覚が起きると証明されたからといって、血液型性格分類が否定されたことにはならない」とおっしゃる人もいるでしょう。
しかし、ならばそれらの人は、なぜ信じているのですか?
実は、このサイトは、著書「ブラッドタイプ」のプロモーションを兼ねつつ、「バーナム効果」と言われる、「誰にでも当てはまるような性格診断は、たとえそれがランダムにでっち上げられたものだとしても、多くの人がそれを信じてしまう」という心理効果を実際に証明するための「仕掛け」だったのです。
心理学をちゃんと学んだ人は誰でも、血液型性格診断がまったく根拠のない占いに過ぎないことを知っていますし、その一方でどんなに「非科学的だ」と言われても血液型性格診断を信じる人がいて、それがバーナム効果によるものだということも理解しています。多くの心理学者は血液型性格診断に対して何も語りませんが、それは「議論するだけ無駄だ」という無力感を感じているからだと思います。
実際、私も、血液型性格診断について直接聞かれれば「迷信だ」と答えますが、周囲で話題になっている程度のときはあえて反論する気にはなれません。信じている人と議論してまともな会話になった経験がないので、真面目に議論することはすっかり「消去」されてしまいました(^^;)。
でも、このサイトが示した結果はものすごく刺激的ですね。「闇討ち」的な社会実験(といっても、実際には最初から小さく釈明してあって最初から分かっていた人も少なくなかったようですが)には批判もあるかもしれませんが、この血液型性格診断がランダムな文章でも9割の人に「当たっている」と思わせることができたということは、血液型性格診断がバーナム効果に基づく迷信だということを、どんなやり方にも代えられないくらい明白に、しかも実験室の中ではなく、完全にオープンなウェブの上で、白日のもとに示したということです。
もしかすると、この事件は今後日本の心理学の世界での語り草になるかもしれません。(血液型性格診断が流行っているのは、基本的には日本だけのようです)
こんな魅力的な「事件」を起こした著者の作品ですから、せっかくだから、小説も読んでみようかという気になっています。
ブラッドタイプ
松岡 圭祐
徳間書店
なんというか....まあ、その書き込みもネタ、ということもありうるのかもしれませんが。
ちなみに「科学」9月号の疑似科学特集を興味深く読みました。
疑似科学と科学との境目って、よくよく考えていくと非常にあいまいになっていきますね。
この辺りを突き詰めていくのが、科学哲学の1つのテーマだと言えると思います。
古典的な定義の1つに「科学とは反証され棄却されうる仮説を立てることだ」というのがありますが、血液型診断はこの古典的な定義からすると、イヤというほど反証され棄却されているのに生き残っているわけで、これが既に科学とは何の縁もないものであることは論を待たないと思います。(^^)
疑似科学については、菊池聡先生の「超常現象の心理学」(平凡社新書)あたりも面白いです。