2006年09月08日

実験神経症に思うこと(2)

学習(条件付け)に関する実験場面で、被験者(被験動物)が対応しきれないような難しい課題を与えられると、被験者が神経症的な状態となり、なかなか元に戻らなくなることを「実験神経症」といいます。

このような状況で実験神経症が起こるという事実は、自閉症児の療育に取り組む私たちにとって、次のようなアドバイスを含んでいるのではないでしょうか。

1. 難しすぎる課題を与えてはいけない。
2. 叱ることをベースにした指導をしてはいけない。
3. 実験神経症的反応に敏感にならなければいけない。


前回の記事で、上記1.と2.については書いたので、今日は3.について解説し、さらにもう1つ私が大切だと思っていることについて書きたいと思います。

前回解説したような、1.や2.の考え方を実践するにあたって大切だと思うのが、3.の「実験神経症的症状に敏感になる」ということです。
実際の子どもの療育に置き換えて考えてみると、次のような症状が見られる場合には実験神経症的な状態になっていると考えるべきでしょう。

・療育を始めることを回避、逃避しようとする。
・精神状態が不安定になり、攻撃的もしくは抑止的(何事にも反応性が弱くなる)になる。
・今までできていたことまでできなくなる。
・その他、あらゆる「新しいことを学ぶこと」ができなくなる。


実験神経症は長く尾を引き、なかなか回復しないという特徴を持っています。ですから大切なことは、こういった症状が本格的に起こってしまう前に、課題を難しくしたら成功率が著しく落ちたり、これまで課題を楽しくやっていた子どもが急にむずがるようになった、といった事前の「サイン」に気づき(敏感になり)、早めの対策を打つことです。

最後におまけ(でも実は重要)ですが、この「実験神経症」的な状況を避けるという考え方は、療育される子どもの側だけではなく、療育する親の側についてもあてはまります

親が療育をする、続けるということそれ自体も、与えた課題をやってくれる、療育の成果が上がる、周囲から努力を評価されるといった「強化子」によって強化・維持されている行動です。
だとすれば、子どもが与えた課題をやってくれない、療育の成果が目に見えない、誰も自分の努力を認めてくれない、といった「困難な状況」に直面し、「どう療育を進めていけば分からない」といった感覚を強く感じた場合、親自身が「実験神経症」的な状況に陥り、療育への熱意が冷めてむしろそれを避けてしまう、子どもに対して攻撃的になってしまう、従来できていた冷静な療育もできなくなるといった問題が発生する可能性があるわけです。

子どもの療育がうまくいくことと、親が療育をうまく続けられることは、まさに車の両輪であり、どちらがつまづいても先に進めなくなります。そして、その「両輪」を調整し、うまく回しつづけることこそが親の役目だといえます。
この↑部分、さっと読むとポイントを見逃します(笑)。親が真に目指すべきなのは「療育を頑張って続けること」ではなく、「療育を楽しく続けていける環境を維持すること」にあります

ここにも「行動主義的考え方」が活かされます。療育に必要なのは「頑張り」のような目に見えない内面ではなく、親も子どもも「続けることが強化される」ような環境作りなのです。
家庭の療育で究極的に求められることは、「療育を通じて親と子どもが互いに強化的な相互作用を形成すること」です。そして、この定義はそのまま、「親子がコミュニケーションできるようになること」とほぼイコールです

では、「続けることが強化される」環境作りというのは、具体的にどうすればいいのでしょうか?

シンプルなところでは、今回解説したように、子どもが実験神経症的にならないように療育をコントロールすること、あるいは、ABAやTEACCH、PECSをはじめとする「自閉症児に効果がある」という評価と実績のある科学的療育法をよく理解し、効果的で無駄のない療育を進めることなどがあげられるでしょう。

でも、もちろん実際にはそんなに単純な話だけでは終わりませんよね。私も同じです。
そこから先、もっと広い視野で、「親子が楽しく療育できる強化的な環境」をどうやって作っていくのか、これは実はこのブログのテーマそのものです。
そう考えると、例えば私が(そして妻が)ブログを書いていることそれ自体も、「娘の療育を続けることが強化される」環境作りのための1つのアクションと言えるのかもしれませんね。

療育は「頑張る」のではなく、「頑張らなくても続けられる」ことが大切です
それが、このブログのテーマである「頑張らない家庭の療育」ということばが意味していることです。
posted by そらパパ at 20:55| Comment(3) | TrackBack(0) | 療育一般 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
親自身が「実験神経症」的な状況に陥る。
親が真に目指すべきなのは「療育を頑張って続けること」ではなく、「療育を楽しく続けていける環境を維持すること」にある。
自分を振り返り、親ががんばることを求められ、誰のためにやっているのか、わからず、結局、私は、やるだけのことをしているのよとアピールをしているだけ、自己満足だけではないか、子どもの為なのだろうか、親の見栄ではないのだろうかと、時々、逃げ出したくなりたくなります。
今度から、そんな時には、そらパパさんのこの文章を、読み返して、子どもと2人で笑いながら生きていくために、がんばろう(!…がんばらないで、がんばる?)
ありがとうございました。
Posted by さと母 at 2006年09月08日 22:54
そらぱぱさん、実験神経症的に陥っていました・・^^;
本当に、振り返るとなにも成果がないように思えて、子どもに辛く当たってしまったり。多くを求めてもかなわないことに楽しくなくなってきていました。
頑張りすぎてたのかも(気持ちだけ)
肩の力を抜いて楽しく過ごせたらなと思います
Posted by marine at 2006年09月09日 11:37
さと母さん、marineさん、

コメントありがとうございます。
まさに今回一番書きたかったのはそのポイントで、療育での親の立場というか、置かれている状態をもう一段高いところから見られるようになることがとても大切だと思っています。

「がんばらないで、がんばる」というのは面白いですね(^^)。
私は「がんばらなくて済むようにするためのことをがんばる」と考えています。
これは仕事でも同じで、「仕事ができる」というのは、ただ頑張ってそのときの結果を出すだけではなくて、将来の仕事の効率を上げるために頑張ることがより大切だと思っています。
Posted by そらパパ at 2006年09月09日 23:27
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