うまくやるための強化の原理―飼いネコから配偶者まで
著:カレン プライア
二瓶社
第1章 強化とは何か
第2章 シェイピング―苦労しないで上達する方法
第3章 刺激制御―強制しなくてもうまくやっていける
第4章 やめて欲しい行動をやめさせる方法
第5章 実社会における強化
前々から気になっていたにもかかわらず、なぜか巡り合わせが悪くて(ヤフオクに出品されたのを競り負けたり、書店で見つけたのに次に買いに行ったらなくなっていたり)、今まで読んでいなかった本。
今回ようやく買って読むことができましたが、やっぱりこれはもっと早く読んでおくべきでしたね。
著者は、応用行動分析(ABA)の素養を持ち、かつては動物のトレーナーだったという女性です(今は実業家のようです)。
内容は、ABAの考え方のうち、特に「強化」に関する部分を、できるだけ専門用語を使わずに日常生活に即して解説するというものになっています。
いや、もっと端的に書いてしまったほうが本質をついているでしょう。
本書は、著者がイルカなどの動物を相手に培ったABAの実践的応用技術(言葉を使わずに、相手の行動をコントロールするやり方)を、人間に対しても適用する方法について書かれた本だと言えます。
巷には、うさんくさい「他人のコントロール法」といった本がたくさん出ていますが、一見まじめそうな?この本は、実はどんな「うさんくさい系」の本よりも実用的で効果のありそうな「人の操り方」について書かれた本なのです。
例えば、第4章の「やめて欲しい行動をやめさせる方法」は、本当に実用的な内容になっています。
私もいろいろなABAの本を読みましたが、「問題行動をやめさせる」というテーマだけについてこれだけのボリュームで書かれた本は初めてでした。
この章には、以下の7つの「やめさせ方」が、具体的な実践例とともに紹介されています。これらの方法の多くは、そのまま自閉症児の問題行動への対応法として活用できるでしょう。
1) 抹殺法
問題行動の主体を消してしまう。
2) 嫌子法
いわゆる罰。
3) 消去法
いわゆる消去。
4) 対立行動法
問題行動と同時にできない行動を強化する。
5) 合図法
合図をしたときだけ問題行動を強化し、二度と合図を出さない。
6) 他行動法
問題行動以外の行動を何でも強化する。
7) 動機法
動機付けを変え、問題行動を起こす動機が起こらなくする。
ちなみに、訳者のあとがきに書いてありますが、原書ではここは7つではなくて「8つ」だったそうです。
カットされたのはいわゆる「負の強化」、つまり問題行動が起こったら罰(たとえば犬に水をかける)を与え続ける状態にして、問題行動がおさまったらその罰を中断することによって「強化」する、といったものです。訳者の判断では、これは最初に与える「罰」が効いているだけだから、2)の「嫌子法」と同じであり、「負の強化」として紹介するのは不適切だ、という判断だったようですが、私はこれも訳出しても良かったんじゃないかな、と思っています。
というのは、自閉症児のパニックに対しては、典型的な「負の強化」による対応法が1つあるからです。
それは、「抱っこ法」です。
以下、抱っこ法に対して批判的な解説になります。
私の考えでは、パニックしたりしたときに、子どもの「逃げたい」という動きを抑えこんで抱っこ状態を強要することは、子どもにとって負の強化子(嫌子)として働いていると思われます。そして、パニックをしている限りはその「抱っこ」という状態から逃げられず、おとなしくなると解放されます。つまり、「おとなしくなること」が、「抱っこから解放される」という形で「負の強化」を受け、強化されると考えられるわけです。(参考記事)
抱っこによる拘束は、子どもにとってはあまりハッピーなやり方ではなく、決して「ベストな方法」ではありませんが、パニック中に自傷など危険な行動を取る場合、そういった行動を抑えつつ、パニックの持続時間を短縮する効果が期待できることから、他の方法がうまくいかない場合には検討してもいいでしょう(ただし、子どもの力に親が負けて、大暴れすると脱出できるような場合は「大暴れ」を強化してしまうのでダメですが)。
実は、TEACCH本である「自閉症のすべてがわかる本」でも、この「負の強化としての拘束テクニック」がこっそり(初版51ページ)紹介されています。コツは、「パニックを抑えこんでいる間は冷淡にして子どもの相手をしないこと。子どもが落ち着いたら声をかけたり構ってあげたりしながら解放する」ということです。(ですから、誤解のないように書いておきますが、ここでおすすめしている方法は、いわゆる「抱っこ法」ではありません)
さて、話を本書に戻しますが、上記の第4章の内容からも分かるとおり、本書はあらゆる内容がとても実践的に書かれているだけでなく、実はABAのかなり本格的な内容にまで踏み込んでいます。
ですから、「理屈じゃなくて実践としてABAを理解したい、しかも初歩的な入門書ではなく、ある程度歯ごたえのある内容が読みたい」という方にはうってつけだと思います。
「実践派」の本としての面白さはもう1つ、動物のトレーニングなどでは経験的に知られているものの、必ずしも理論的には明確になっていないようなABAのトレーニングまで書かれている点にあるでしょう。
例えば、上記の「合図法」で言われているような、「ある特定の条件下で強化した行動は、他の状況では(何もしなくても)起こりにくくなる」なんていうやり方は、私はこの本以外では見たことがありません。
また、本書の第2章で紹介されている、2人の人間が「動物」と「トレーナー」に分かれてABAのシェイピングにチャレンジするという「シェイピングゲーム」も、ABAの実践的な本質を知るためにはとても役に立ちそうだと思いました。
この本も、ABAを学ぶという流れの中では、ぜひ読んでおいた方がいい本だと思いました。おすすめです。
※その他のブックレビューはこちら。
いつも参考にさせてもらっています。とくにABAについては、心理学にまったく詳しくないので大変勉強になります。ぜひこれからもお続けください。
ところで、この本はとても面白そうなのでぜひ手に入れたいと思うのですが、アメリカ在住なので原書を手に入れようかと思ってます。(送料もかからないし)
で、アマゾンで調べたのですが、これの原書と思われるもののタイトルが
”Don't shoot the dog: The new art of teaching and training"
となっていたのですが、これで正しいでしょうか?
よろしくお願いします。
こんにちは。海外からもアクセスをいただいているというのはとても光栄です。
この本の原本ですが、ご指摘の本で合っているようです。
http://simamune.cocolog-nifty.com/nature_human_and_science/2004/11/post_10.html
あれから時間をかけて特別支援教育士を取得し、放課後等デイサービスに転職しました。
こちらで初めて教えて頂いた応用行動分析を一番のよりどころとして療育にあたれればと考えていますが、瞬間的に良いリアクションがとれているかといえばなかなか難しいものがありますね(笑)
今でもこちらのおすすめ本は追いかけて読んでいます。
『うまくやるための強化の原理』、とても読みやすく頭に残ること幾つもありました。
次、またブックレビューの行動療法系からひろっていこうと思っています。
ごぶさたしています。
また、転職おめでとうございます。
最近は新刊もほとんどフォローできておらず、こちらの本のリストも古くなってきている側面もありますが、ABAやTEACCHといったベースのきっちりある手法についての定評のある本については、そう簡単には古くなってしまわないと思います。
この「うまくやるための」は、私がレビューした時点でも少し古い本でしたが、今読んでも古さを感じない(そして、結構類書には見られないような独創的な内容が含まれた)本だと思います。