まず第一に、「待って」というコミュニケーションを教えることは、親にとっても子どもにとっても、かなり難易度の高いトレーニングだということを知っておく必要があると思います。
このトレーニングを行なうためには、少なくともPECSのフェーズ3(複数の絵カードを使い分けて要求表現ができる)に達している必要があるでしょう。つまり、自分が要求のコミュニケーションをしていて、それが相手(親)に伝わっているという「確信」があって初めて、その要求の実現を少し遅らせる「待って」のトレーニングができるということです。
また、このトレーニングのミソは、「待つ」という行動を、絵カードで視覚化するところにありますから、フェーズ3までのPECSの基礎訓練で、絵カードの持つそもそもの意味がわかっていないと、実施場難しいでしょう。
さらに、こちらからの最小限の「指示」というものが通る、つまり、「ごみをポイ」でも「おかたづけ」でも「こっち向いて!」でも何でもいいのですが、こちらから何らかの(音声でなくてもかまいません)簡単な指示を出すと、子どもがそれを聞いてくれるという行動が最低2、3種類くらいある、ということも必要なのではないかと思います。「こちらからの指示を聞く」という行動がまったくない状態で、「待って」という難易度の高い「指示」をいきなり教えるのは、やはりかなり無謀なように思います。
(ちなみに、こういった「指示」のトレーニングにも、例えば「おふろ」のカードを見せてお風呂まで歩くのを誘導する、といったように、絵カードを使ったやり方が考えられます。)
さて、では、これらの条件が満たされていることを前提として、実際に「まって」を教える手順に入ります。
「まって」カードは、親が携帯しているべきカードです。携帯できないとすれば、子どもが何かを絵カードで要求してきたとき、すぐに手の届くところに置いておく必要があります。
ちなみに、「まって」カードは、必ずしも先日私が紹介したものを使う必要はありません。自由に自作することが可能です。
ただし、自作する場合は、次のような点に注意しましょう。
・通常の絵カードとはまったく違うデザインにする。
(形を丸くする、鮮やかな色にする、大きく「まって」と書く、など)
・絵カードよりもかなり大きなサイズにする。
(絵カードを貼っても、「まって」カードだということがすぐに分かるように)
・絵カードを貼り付けられるようにする。
(マジックテープなどを貼って、絵カードがくっつくようにします)
以下、実際の手順です。
1. 子どもが、何かが欲しくて(自発的に)絵カードを持ってきたときが、「まって」のトレーニングを開始するときです。
2. 子どもが絵カードを渡したら、その絵カードを「まって」カードに貼り付けて、「まって!」といいながら「まって」カードを子どもに渡します。
↑このような状態で、いったん絵カードを「まって」カードに貼って子どもに戻します。
3. そのまま心の中で5つ数えましょう。(声に出してはいけません)
4. 数え終わったら、「よくできました!」など、普段ほめるときの言葉をかけてやり、「まって」カードを絵カードごと受け取って、絵カードの要求をかなえてやります。
これで、「まって」カードのトレーニングの1セッションが終わりです。
その後は、機会があるごとにこれを繰り返していくわけですが、心の中で数える時間を少しずつ長くしていきます。
決してあせって時間を延ばすことなく、あくまでも待ち時間の長さよりも、「待つ」という概念を理解させることに力点を起きます。
ある程度待てる時間が長くなって、「まって」カードを持っている間は待っていなければならない、ということが子どもに分かってきたら、この段階でタイマーを併用するようにしてもいいでしょう。
いきなりタイマーを見せて「待つ」という概念を教えるよりも、「まって」カードのような分かりやすい方法で「待つ」ことを先に教えたうえでタイマーを導入したほうが、タイマーの持つ意味を理解させやすいかもしれません。
なお、このトレーニングが非常にうまくいった場合は、これによってとても長い時間(例えば30分、1時間)待つことができるようになるかもしれませんが、その場合は、待っている間の「時間つぶし」を与えるようにしましょう。
(大人だって、1時間待てと言われれば何かひまつぶしが欲しくなりますよね)
最後に、繰り返しになりますが、これらの手順は、PECSの入門書「自閉症児と絵カードでコミュニケーション」に掲載されています。理解を深めたい方は、こちらもぜひご覧ください。
自閉症児と絵カードでコミュニケーション -PECSとAAC-
著:アンディ・ボンディ ロリ・フロスト
二瓶社
(ブックレビュー記事)
樹の場合は、まだPECSのフェーズ3にまでは達していないので、“まってカード”はまだ早いのかなぁと思いました。
でも、なぜ、待たせる時に、声に出して数を数えてはいけないのでしょうか?
今のところ、食事やおやつの前や、テレビをつける前に、マカトンサインを出し、「5待ってね。」と言ってから、はじめは指を5本出して、指を折りながら、数を数えて待たせていました。だんだん数を増やしていき、今は、「10待ってね」と言ってから10数えるようにしています。その方が、どれくらい待てばいいかの目安が解りやすいと思ってそうしてみたのですが・・・
それだと、10などの、知っている数までしか待てるようにならないから?ということなのでしょうか?
ちなみに、樹は、「まって」という言葉と、マカトンサインにに非常にうけている(面白がっている)状態です。それでも、一応待っているのですが・・・
ここは日本語版・英語原文両方確認しましたが、どちらも声を出さないことになっていますね。
理由は、声を出したり、指折り数えたりしてしまうと、「まってカード」ではなく、そちらを手がかりにしてしまうからだと思われます。
例えば、「まってカード」を渡して、指折り数えながら、口でも「1、2、・・・」と数えてしまうと、子どもは、「まってカードを渡されたら待つ」ということではなく、指折りや数を数えることと「待つ」ことを組み合わせて学習してしまう可能性があります。
ここで教えたいのは「まってカード」なので、「まってカード」を渡すこと以外の「待つ」手がかりは、できるだけ使わないようにします。
マカトンサインと同時に数を数えることも同じですね。いっくんママさんはどちらを教えたいですか? 教えたいものでないほうは、「プロンプト」(補助)になりますので、慣れるにしたがって徐々に消していくと、やがて片方の手がかりだけで待てるようになるはずです。