2006年08月18日

「叱ること」について(3)

「叱る」という行為が本質的に持っているさまざまな問題点・副作用について、ABAの視点から書いています。

1. 問題行動の直後に叱らなければ効果がない。
2. 叱られた原因が子どもに弁別できなければならない。
3. 叱るのをやめると行動が復活する。
4. 叱られる状況と叱られない状況との間に分化強化学習が成立してしまう。
5. 恐怖反応に基づく別のレスポンデント条件付けが成立することがある。


前回は上記のうち1.と2.について説明しましたので、今日は残る3.から5.について書いてみたいと思います。

まずは3.についてです。
これは、「叱る」といった「罰」が持っている最大の問題点ですが、罰によって減らした行動は、罰を与えるのをやめると復活してしまうことが多いのです。
どんなやり方を使うにせよ、罰というのは、できれば与えたくないものです。
ところが実際には、望ましくない行動を罰によって抑えこんでいる限り、その罰は行動が起こるたびに与え続けなければならなくなるのです。
うまくその行動が完全に消失すれば罰を与える機会はなくなりますが、そのような幸運は滅多にないと考えるべきでしょう。

ここで、逆に考えてみます。
そもそも、「叱らなければ問題行動が起こる」ということは、その問題行動は何らかの形で強化されているはずです。
その強化子を取り除かずに、罰によって行動を抑えているわけですから、罰がなくなればその行動は容易に復活してしまう、というわけです。
(問題行動が何によって強化されているかを検討するのが、ABAでいう「機能分析」です。(参考記事))

次に4.です。
これは簡単にいえば、「叱って行動を抑えようとすると、親の目の届かないところでその行動をするようになる」ということです。
実は、ある問題行動を叱ることで抑えている場合、抑えられているのは、「その問題行動をすること」ではなく「親の前でその問題行動をすること」にすぎません
親の目の届かないところでは、問題行動を起こしても叱られないわけですから、「親の前ではやらずに、親のいないところではやる」という、問題行動の分化強化学習が成立してしまうわけです。
前回ご紹介した「弁別刺激」という考え方で説明すると、「親がいない」ということが、問題行動を起こすことの弁別刺激になってしまった、という状態です。
この学習がさらに進むと、「親のいないところ」に積極的に行くようになります。これが、「脱走癖」と呼ばれる行動です。

最後に5.です。
子どもが、なぜ叱られるか分からない混乱した状態で叱られることを繰り返すと、叱られることによって起こる恐怖反応と、親が近づいて何か言うこととの間にレスポンデント条件付けという学習が成立してしまい、「親が近づくのが怖い」「親と目が合うのが怖い」「話しかけられるのが怖い」といった強固な反応が形成されてしまう恐れがあります

※レスポンデント条件付けとは、生得的な反応を引き起こすような刺激(例えば、恐怖を感じる刺激としての怒鳴り声や叩かれる痛み)と、本来中性的な刺激(例えば、親が目の前にいること)が繰り返しセットで提示されると、本来中性的な刺激に対しても、生得的な反応を引き起こすようになる(親が目の前にいるだけで恐怖を感じる)こと。

こうなってしまうと、家庭での療育やことばの発達に悪い影響が出ることは避けられないでしょう。


・・・このように、「叱る」というのは、本質的にとてもデリケートな行為だといえます。叱る相手が自閉症児の場合、ここで指摘したような副作用が特に発生しやすいと考えるべきでしょう。

次回は、これらの問題をふまえ、自閉症児を「どう叱るか」について考えたいと思います。

(次回に続きます。)
posted by そらパパ at 22:38| Comment(2) | TrackBack(0) | 療育一般 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちは!このシリーズは特に興味深く読ませてもらってます!
これはまさに、健常児にもそっくり当てはまりますね~
実は以前、上の子の小学校で、学級崩壊を経験したことがあり、まさにその通りだと思いました。次回が楽しみですね~
『行動分析学入門』を読み始めて、まだ途中ですが、(実は私、ものすごく本を読むのに時間がかかるのです)そのおかげで、専門用語などの意味が解り、そらパパさんのブログがとても読みやすくなりました!
Posted by いっくんママ at 2006年08月19日 12:33
いっくんママさん、こんにちは。

そうですね、いつも書いているのですが、「問題行動への対応方法」というのが、ABAがもっとも力を発揮する分野だと私は確信しています。
このシリーズ記事はあと2回の予定で、週明けから再開するつもりですので、よろしくお願いします。
Posted by そらパパ at 2006年08月20日 00:23
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