自閉症児のための絵で見る構造化 パート2―TEACCHビジュアル図鑑
佐々木 正美
学習研究社
第1章 保育園・幼稚園での活動の構造化
保育園で落ち着ける空間を用意する
保育園でのカードとスケジュールの工夫 ほか
第2章 小学部でのさまざまな活動の構造化
自由時間を楽しく過ごす遊びの工夫
一人でできることを目標に家事スキルを練習 ほか
第3章 給食・調理・食事の構造化
コミュニケーションを大切にした楽しい給食
苦手をなくす偏食指導の工夫 ほか
第4章 自宅での生活の構造化
子どもと家族が心地よく過ごせる住宅の工夫
自宅での自立した生活のための動線や配置
第5章 就労・職場・余暇活動の構造化
重度の青年も働けるおそば屋さんでの支援
支援や補助具を工夫したきのこの選別と栽培 ほか
本書は、以前簡単にご紹介したことのある、「自閉症児のための絵で見る構造化―TEACCHビジュアル図鑑」の続編という位置付けの本です。
もともと実例集なので、これを読めばTEACCHの療育法が体系的に分かる、というものではなく、むしろ他のTEACCH本(最もやさしいものでは「自閉症のすべてがわかる本」でしょう)を読んだうえで、TEACCHの根幹概念である「構造化」をどのように実践するのかについてさらに具体的に理解するための本です。
一時流行った、妹尾河童さんのイラストエッセイのように、TEACCH実践の「場所」「場面」が詳細なイラストによって再現されているので、あたかもTEACCHを実践している施設を訪問して見学し、担当教員の解説を聞いているかのような感覚で、構造化の実際について学ぶことができます。
また、今回も随所で佐々木先生の解説を読むことができ、TEACCHの構造化のもつ理念について再確認することができます。
ところで、前著と今回の「パート2」を読み比べて、はっきりと気づくのは、絵カードを使った構造化の取り組みの比重がぐっと大きくなっていて、ことコミュニケーションに関する限り、完全に主役の座に踊り出ている、という点です。
私の場合、自分の娘が未就学で療育施設に通っているということで、まずは1章と4章を優先的に読んだのですが、特にこの2つの章については、「これってPECSの教科書?」というくらい、絵カードによるコミュニケーション、しかもPECS的な、大人と子どもが絵カードを実際にやりとりするようなやり方が全面的に紹介されています。
↑第1章にある、保育園での絵カード活用の実例のページから
考えてみると、PECS的な絵カード交換によるコミュニケーションというのは、コミュニケーションという非常に複雑で理解が難しく、また大人の側からみても教えるのが難しい行動を、視覚化してあいまいさもなくし、かつ教えやすくするというメリットを持っています。
つまり、TEACCH的な文脈でPECSを説明するとすれば、まさに「コミュニケーションの構造化」そのものだと言えるのではないでしょうか。
もちろん、TEACCHでは従来から絵カードが使われていました。でも、前著と「パート2」を見比べると気がつく「進化」が1つあります。
それは、従来型のTEACCHでの絵カードの使い方というのは、「環境の構造化」の一種、つまり、大人の側が提供する情報(スケジュールや作業のやり方、それぞれの場所の意味など)を分かりやすい形で示すという側面が強かったのに対し、「パート2」で目立つようになった絵カードの使い方は、子どもの自発的な意思を示すため、あるいは大人との相互作用的なやり取りを成立させるためのものです。
つまり「コミュニケーション」のために絵カードを使う傾向が明らかに強くなっているのです。
PECS(絵カード交換式コミュニケーションシステム)は、自閉症児とコミュニケーションするにはどうすればいいかという超難問に対して、極めて明快なソリューションを出したと言えるでしょう。(もちろん改善すべき点も残されていますが)
PECS自体の出自はABA(応用行動分析、行動療法)ですが、その目指す方向性は、TEACCHの構造化の理念と完全に一致します。
ところで、先ほど「実例集」と書きましたが、実は「パート2」になって、単なる「実例集」の枠を少し乗り越えて、TEACCHによる体系的な療育法についての記述がある程度盛り込まれてきているように感じます。
PECSがそのような「体系化」実現への1つの大きな力として働いていることは間違いなく、今回、本書に「家庭の構造化」というとても有益な章が加わったのも、PECSによる家庭でのコミュニケーションという「柱」を立てることができたからなのではないかと思います。
↑第4章の、家庭における絵カードの活用の実例ページから
TEACCHの実践、あるいは体系化は、PECSとの出会いによって大きな一歩を踏み出したといえるのではないでしょうか。そんなTEACCHのダイナミックな動きを感じるという意味でもエキサイティングな書籍です。
少なくとも「家庭の療育」という観点で読むとすれば、前書よりも、こちらの「パート2」のほうが断然面白くて有益です。かなりおすすめですね。
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