2006年08月09日

「自閉症児と絵カードでコミュニケーション」日本語訳修正案が完成しました。

当初の予想をはるかに越える大作業になってしまいましたが、ようやく「自閉症児と絵カードでコミュニケーション -PECSとAAC」(下にある本です)の日本語訳修正案が完成しました。

 

自閉症児と絵カードでコミュニケーション -PECSとAAC-
著:アンディ・ボンディ ロリ・フロスト
二瓶社

ちょっと悩みましたが、カテゴリは「オリジナル教材」にしてみました。
(サイドバーの「オリジナル教材」のところにもリンクを設定する予定です)



上記の画像をクリックして開くか、右クリックで「対象(リンク先)をファイルに保存」してから開いていただくと、中身をご覧いただけます。

※PDFファイルですので、開けない場合はアドビのAcrobat Readerをダウンロードしてインストールしてください。(ダウンロードセンターはこちら

結局、修正箇所は約300箇所にものぼってしまいました。(^^;)

ですので、単に修正箇所を並べただけでは著しく使い勝手が悪いので、修正内容を3つのランクに分けることにしました。

重要度A:「A Picture's Worth」の論旨を正しく理解したり、療育の正しい手順を把握するために極めて重要な修正および情報の補足。数えてみたら53箇所ありました。
まずはこの「重要度A」の修正を最優先で反映させることをおすすめします。

重要度B:ランクAと比べるとやや重要度が低いですが、それでも療育手順の重要部分に影響があったり、論旨のゆがみを引き起こしているため、手を入れることが強く推奨される箇所。76箇所あります。
ここまで含めて直すのはかなり骨が折れると思いますが、このランクに入っているのはそれなりに影響の大きいポイントですので、できれば修正をおすすめします。

重要度C:ランクA、Bよりも重要度が低く、論旨の「乱れ」はあっても大きな内容の修正が含まれないような修正箇所。172箇所もあるので、このランクの修正点にまで手を入れるのは現実的ではないと思います。
ただ、本書を読んでいて、文の意味が分かりにくいな、と感じたときに、改めてこの「修正案」を参照してみてください。もしかすると、その該当箇所に「重要度C」の修正があるかもしれません。


以下、これまで書いてきたことの繰り返しです。
本「修正案」の制作意図は、PECSによる極めて優れた療育入門書である「A Picture's Worth」に書かれている内容を、できるだけ多くの方に正しく理解してもらいたい、それに尽きます

残念ながら、本書の訳はお世辞にもよくできているとは言えません。そのまま読むと、誤解を招きかねない部分がいくつもあります。そこまで行かなくても、論旨や文脈が乱れている場所がたくさんあり、本書を読んだ感想も「何だかややこしくて分かりにくい本だな」といったものになってしまうかもしれません。

でも、その「分かりにくさ」は日本語訳に起因するものであって、原文はそうではないのです!
それどころか、原文「A Picture's Worth」は、療育書に限らず、私がこれまで読んだどんな本よりも、論理が明快で分かりやすい本でした。
本書の翻訳の水準を考えると、英語の論文やペーパーバックを読めるだけの英語力があるなら、むしろ本書ではなく原文の「A Picture's Worth」を読むことをおすすめしたいくらいです。(下記が原文です)


A Picture's Worth : PECS and Other Visual Communication Strategies in Autism
著:Andy Bondy, Lori Frost
Woodbine House (2001)

でも、やはりそうは言っても「誰でも読める」という意味で、日本語訳された本書の存在が大きいのは論を待ちません。本書の出版に尽力された関連各位に対して、感謝の意を改めて表したいと思います。
ただ、上記のとおり、日本語訳には問題点が多々あるのも厳然たる事実だと私は感じています。ですので、自分にできる本書への「応援」行動として、私製修正案を制作した次第です。

なお、本修正案はあくまで私が個人的に作ったものです。
内容の正確性についての保証はいっさいありませんし、本修正案の内容について出版社や著者など私以外のところに問い合わせることは絶対にしないでください
また、無断で他の場所に転載することもご遠慮ください(その場合は、必ずご連絡ください)。

そもそも、本質的にいえば、「どちらの訳が正しい・間違っている」ということは実はどうでもよく、「私の考える『A Picture's Worth』の内容はこうだ」ということを示したかっただけなのです。ですから、内容については、皆さんの自己責任でご判断いただきたいと考えています。

もちろん、本修正案へのご意見や、私自身の誤訳についての情報は大歓迎ですので、何かありましたらぜひご連絡ください。
よろしくお願いします。
posted by そらパパ at 22:25| Comment(11) | TrackBack(0) | オリジナル教材 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして。そらまめちゃんがとても可愛くて、そらママさんの日記を楽しみにしているnaorinです。
早速、この本を購入しました。
この夏に、少しずつ読んで勉強しようと思っています。
確かに、特に新しい理論や理念について述べられている本の翻訳本は、時に、「日本語としてよみにくいな」と感じることがあります。
私は、残念ながら原書を読めるほど英語力がありませんので、そらパパさんの、修正案とても
助かります。あくまでも、そらパパさんのおっしゃる通り、「PECS」をよりよく、理解するための一助として参考にさせていただきたく、早速ダウンロードさせていただきました。訳本と、そらパパ修正訳を2つ並べて、読んでみたいと思います。まずは、ダウンロードのご報告とお礼まで。
Posted by naorin at 2006年08月10日 07:39
naorinさま、はじめまして。

この本は、本来は、とても易しく、かつとても本格的な内容が書いてある画期的な本だと思っています。
この修正案が、この本を読むときの手助けになればとても嬉しく思います。
Posted by そらパパ at 2006年08月10日 22:36
こんにちは。
早速使わせていただいてます。
すごくいいです!
曖昧なところがすっきりしました。
何度も読みたいので、
三色ボールペンで書き込んでしまおうと
思っています。
ありがとうございました。
Posted by みけ at 2006年08月11日 14:27
みけ様

ご評価くださりありがとうございます。
この本は、これからの自閉症児の療育に非常に大きなインパクトを持つ極めて重要な本になりうると思っています。
この修正案が、この本が持つ本来のパワーを取り戻させる一助になればいいな、と思います。
Posted by そらパパ at 2006年08月11日 22:40
すみません。問い合わせです。№50の25ページの件ですが、「話す能力が遅い」ではなく、本では「速い」になっています。
autism rapidly develop speech (including speech with unusual features such as echolalia), の部分と思うのですが。
英語力が無いので、間違っていたら、ごめんなさい。(自信がないので、表示しないで。)
Posted by さと母 at 2006年08月19日 22:34
さと母さん、

確かに「速い」ですね。
ここは単なる転記ミスです。(日本語訳、修正案ともに、本来「速い」で修正もしていない場所が「遅い」になっているというものです)

鋭いですね。じっくり活用していただいているということが伝わってきて嬉しく思います。

この部分は、近日中に直したいと思います。
情報ありがとうございました。
Posted by そらパパ at 2006年08月20日 00:28
上記の誤転記の部分を修正しました。
Posted by そらパパ at 2006年08月24日 23:57
そらパパさん、はじめまして。
私には中度精神遅滞・自閉傾向ありの今年から幼稚園に通い始めた娘がいます。
ひとり娘です。

娘は大人の手を引っ張って意思表示をしているのですが、幼稚園に通い始めたことから絵カード等を使って意思表示が出来るように、少しずつ練習していこうかと考えていました。

そこで、『絵カードでコミュニケーション』を購入して読み始めたのですが、文章表現に『?????』となり、何回も同じところを読み返したりしていました。

昨夜、そらパパさんのHPを知ったのですが、今日、さっそくコピーをさせて頂きました。じっくりと読み返してみようと思います。
そらパパさん、ありがとうございます。

Posted by ゆん at 2007年04月22日 17:34
ゆんさん、はじめまして。

この修正案は、私自身かなりの突貫工事で、でも思い入れをこめて作りました。
お役に立てば嬉しく思います。
Posted by そらパパ at 2007年04月24日 22:49
翻訳って、難しいですね・・・ 本当にわかりやすく直したら、原文の意味と違ってしまうかもしれず、でも、直訳にすると、伝わらないという感じですよね。私は英語ダメなのでそらパパさんがうらやましいです。ふつうに読んでいたら、こどもが成人してしまうかもしれません。療育の先生の中には、絵カードが良いからやり方を勉強しないで、ただ、こどもに押し付ける人がいます。私もこの本を読むまで、どう教えたらよいのか、とおろおろしてました。だから、こういう本はもっと広まってほしいです。ただ、うちの主人がそうですが、一般的な書籍が読めない人(国立理系の大学院卒業してるのに)もいるようなので、手順のところだけでも図解があればうれしいです(笑)
Posted by はるーゆづる at 2016年04月11日 18:06
はるーゆづるさん、

コメントありがとうございます。
ちゃんと確認はしていないのですが、たしかこの本は増刷時にある程度の訳の修正が入っていたと思いますので、現在はここまでひどいことにはなっていないと思います。

当時は、日本語で読めるPECSの本がまったく(本当に1冊も)ありませんでしたので、やむなく原本を読む羽目になってしまいましたが、英語はとても易しい本だったと記憶しています。
Posted by そらパパ at 2016年05月17日 07:01
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