2006年08月08日

「自閉症児と絵カードでコミュニケーション」中間報告(4)

昨日の「第7章」に続き、今日は最終章である第8章の日本語訳修正案についてご紹介します。


自閉症児と絵カードでコミュニケーション -PECSとAAC-
著:アンディ・ボンディ ロリ・フロスト
二瓶社

このシリーズ記事ですが、本書を持っていない方や、本書にご興味のない方にとって、あまり意味のない記事になっていることをお詫びしたいと思います。
ただ、逆にこの本をご購入されて、実際にその内容にしたがってお子さんの療育に取り組んでいこうとしている親御さんに対して、少しでも早く自分がいまやっていることを伝えたい、という思いが強いため、他の記事の優先順位を落として速報的に修正案のアップデートを進めているというのが現状です。
ご理解いただければ嬉しく存じます。

ところで、第8章には、療育法が原文とはまったく正反対に書かれてしまっている、「大誤訳」が存在します。本書をお持ちの方は、最低限、ここだけでも絶対に直しておくべきだと思います。

第8章 そらパパ版日本語訳「修正案」

全体を通じての指摘:「指示従事」という訳語は、できれば「指示に従うこと」とシンプルに訳すべきでしょう。
P143 10~11行目 彼は10個の物品のうち1個だけを手にし、 → 彼が取ってこれたのは10個の物品のうち1個だけでしたし、
P143 13行目 すべての物品を手にした → すべての物品を取ってこれた
P144 9行目 多くの視覚刺激 → 多くの視覚的手がかり
P145 22行目 絵カードと物品の一致 → 絵カードと物品のつながり
P146 4行目 他者を理解できるようになれば、その人たちが持つ重要な情報を得られる → 私たちが他者を理解することを学ぶ理由の1つは、その人たちがしばしば自分にとって重要な情報を持っているからだ
P146 8~11行目
たとえば、指示に従ってソファーやイスやドアのところに行くことを教えるのもよいでしょう。子どもが指示されたところに行ったら、十分に褒めます。十分に褒めないと、その子どもはそれ以降そうした指示にはあまり応じなくなるかもしれません。 →
たとえば、指示に従ってソファーやイスやドアのところに行くことを教えようとするとします。子どもが指示されたところに行ったら、あなたは褒めるかも知れませんが、子どもが褒められるという反応を好きでもなく、期待もしていないとすれば、恐らくその子どもはそれ以降そうした指示の多くに応じなくなるでしょう。
P147 12~16行目
最初の数回は、間違いがないように一緒について行くとよいでしょう。やがて、同じようにレッスンを始めても、行動連鎖の最後の部分は、子ども一人でやらせます。徐々にプロンプトを減らすと、絵カードを見せるだけで、子どもは皿を持ってきてテーブルに置き、シリアルを待つようになります。 →
最初の数回は、間違いがないように手順の全てに対して一緒について回るとよいでしょう。やがて、同じようにレッスンを始めつつ、手順の最後の部分だけ、子ども一人でやらせて完結させるようにします。徐々にプロンプトを減らしていき、絵カードを見せるだけで、子ども皿を持ってきてテーブルに置き、シリアルを待つようにします
P148 9行目 行かせなくてかまいません → 行かせることはせずに
P148 12~13行目 よい反応を示すわけではありません → あまり反応しません
P149 19~20行目 子どもに教える方法をとっています。 → 子どもに教えるほうがいいと思っています。
P149 23行目 唯一のルール → 一つの簡単なルール
P150 4~5行目 環境的な刺激(中略)あるいは人による刺激 → 環境からのもの(中略)あるいは人からのもの
P152 10行目 文字を独特の色や形 → 独特の色や形
P152 11~12行目 子どもがスケジュールのそのカードに初めて手を伸ばしたら → 子どもがそのシンボルが意味するスケジュールを初めて経験するときは
P152 14~15行目 勉強やあまり楽しくない活動 → 作業その他のあまり楽しくない活動
P152 17行目 勉強 → 作業
P152 18~19行目 「びっくり」カードはすぐに楽しいもの(たとえば、勉強の代わりにパーティ)を意味する → 「びっくり」カードは、何かやらなければならないが、その後にはすぐに楽しいものが待っている(たとえば、勉強の代わりにパーティ)ということを意味する
P152 27行目 レッスンを続ければよいのです。 → レッスンを続けられるようになるのです。
P152末尾~P153 3行目
私たちは誰でも、予測できない変更が生活の一部としてあることを知っています。ですから、親と教師がもっと効果的にそれを教えることができれば、生活をそのために変える必要はなくなるでしょう →
私たちは誰でも、予測できない変更も生活の一部だということを知っています。ですから、親や教師がもっと効果的にそれを教えることができるように、その生活に働きかけていくのです
P153 24行目 解決に時間がかかります。 → 解決に時間がかかりました
P154 4行目 後で得られる楽しみ → 楽しみが遅らせられること
P154 6行目 理解する必要があるということから、 → 理解する必要があるという意味で
P155 3~4行目 完全にコントロールしている → 完全にコントロールできる
P155 18~19行目 子どもはこの後どうなるかをはっきりわかっていなければなりません → 言うまでもなく、子どもは何が起こっているのかをいぶかしんでいるわけですが
P156 12行目 「待合室」 → いみじくも「待合室(!)」と呼ばれる場所
P156 14~15行目 欲しい物を待っている間に何かすることが子どもにもあるということを確かめるべきです。 → 欲しい物を待っている間に子どもにも何かすることを確保するようにすべきです。
P156 18~19行目 教職員が何も言っていないのに → 教職員が声をかける前から
P157 8~9行目 移動を助ける方法のほとんどすべてです。 → 移動を助けるための「最後の一歩」になることがよくあります。
P157 18行目 次の活動について話す → 次の活動について教える
P157 19行目 即時的な強化子に → まだ目の前の強化子に
P158 2行目 強化子に執着しているなら → 強化子に注目しているなら
P158 7~8行目 絵カードや必要であれば具体物を使って → 必要であれば絵カードや具体物を使って
P158 10行目 ロビンがボールを取ろうとしたら → ロビンがボールを取ることに気持ちが移ったら
P159 18行目 「そうですか」 → 「だとすれば?」
P160 27行目 何を得られるかがわかっていれば、 → 何を得られるかがわかって初めて
P161 5~6行目 私たちは、雇用主でなくても、仕事に対する報酬の種類を選ぶ(金額だけでは十分ではないのです!) → 雇用主ではなく、私たちが仕事に対する報酬の種類を選ぶ(残念ながら報酬額は選べず、それはいつも足りないものですが!)
P162 2~12行目 → これが本書最大の「大誤訳」です。
もちろん、「取引」を始めたからといって、子どもの要求すべてに応じる必要はありません。ときどきは子どもの好きでないものを与えるのも大切(思いやり)です。誰でもすべてのものを手に入れられるわけではないのですから! →
もちろん、「取引」を始めたからといって、子どもの要求すべてに取引を導入する必要はありません。ときどきは、子どもの好きなものを無償で与えることも大切(思いやり)です。誰でもすべてのものを「労働」によって稼がなければならないわけではないのですから!

P162 12~14行目 取引を始めてさらに多くの課題を → 取引のためにより多くの課題を
P163 8行目 最後には5つと → やがては5つと
P163 10~11行目 つまり、「5つの丸を埋めるだけの課題」 → つまり、この課題は「丸5つ分」だということ
P163 12行目 常時カードに → 常時「がんばっています」カードに
P163 13~14行目 5つの丸から始めたいかもしれませんが、やめた方がよいでしょう。 → たどり着きたい目標である5つの丸から始めてはいけません。
P164 12行目 最初に報酬を決め、それから要求されたことを実行する。 → 最初に報酬を決め、それから要求を決める
P164 13行目 再取引はできるか? → 取引の再交渉はできるか?
P164 16~17行目 絵ならば、子どもが使っているPECSブックや強化子のメニューから選んでもよい → 子どもが使っているPECSブックや強化子のメニューから選んだ絵カードなど
P164 20行目 トークンの交換の回数 → トークンの交換の時間


他の訂正はともかく、162ページの修正だけは絶対に行なってください。
原文では「子どもに無償の愛を与えましょう」となっているところが「子どもに意地悪しましょう」というまったく逆の文に訳されてしまっています。

とりあえず、本書は第8章で終わりなのですが、現在、全体の文章を改めて見直しています。(5章より前についても、改めて調べてみるともう少し修正すべき箇所が多いようです。)

それが終わったら、修正案をまとめてご紹介しようと思います。
いましばらくお待ちください。
posted by そらパパ at 22:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 理論・知見 | 更新情報をチェックする
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