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大震災 自閉っこ家族のサバイバル
著:高橋 みかわ
ぶどう社
1章 ライフラインのとまった街で
我が家の3・11——あのときなにがあったか 高橋みかわ
2章 ブログとメールでつながりあった——「みかわ屋通信」の1カ月
3章 津波に襲われた街で
家は浸水したけど、家族で一緒に暮らせるなら 浅野雅子
震災は障害を軽く超えた!って感じ 及川恵美
4章 地域の避難所で
中学校で、娘の頑張りとみなさんの理解で 三浦由里香
支援学校で、息子に寄り添い続けて あるお母さんに聞く
学校を避難所としてひらいた先生たち 石巻支援学校の先生方に聞く
ぶどう社より、知的障害を伴う自閉症のお子さんとその家族が、東日本大震災をどのように乗り切ったかの体験談を集めた本が緊急出版されました。(これまでにない最速のスピードでの出版ということらしいです。)
ちなみに、著者の印税の一部およびぶどう社の収益の一部は、義捐金として寄付されるとのことです。
著者の高橋みかわさんは、仙台市在住の、重い知的障害を伴う自閉症の息子さん(21歳)のお母さんです。
本書の第1章では、そんな著者の被災後のサバイバル生活が日記風に記述されます。やはり避難所生活は厳しいだろうということで、自宅マンションでの生活を選択した家族が、すべてのライフラインが途絶した震災直後から、徐々に普段の生活を取り戻していくまでの過程と、そのなかで自閉症の息子がどのように「普段とまったく違う生活、環境」を乗り越えていったか(乗り越えられるような支援を行なったか)が活き活きと描かれます。
そして、著者は自らの生活を切り開いていくのと同時に、「みかわ屋通信」というブログや携帯メールを通じて、同じように自閉症のお子さんとともに被災したたくさんの家族に対して情報発信していきます。
震災後1か月のあいだの「みかわ屋通信」でのやりとりが、第2章にまとめられています。
そして第3章以降は、これらのネットワークのつながりのなかで語られていった、他の自閉症のお子さんを抱えるご家族の震災サバイバルの記録が綴られていきます。
特に、第4章で紹介されている、自閉症のお子さんとともに地域の避難所に避難したご家族のエピソードは、避難所での生活が非常に難しいといわれている知的障害のある自閉症のお子さんが、実際にそういった場所での生活をどのように乗り越えていったかが描かれていて、同じく重度知的障害のある自閉症児を育てている身としては、身につまされる思いで読みました。
全体として、テーマが「知的障害を伴った自閉症の子どもをもった家族は、東日本大震災で被災したらどうなるか」という、かなりピンポイントに的が絞られているので、この問題に問題意識を持っている方(恐らく、知的障害を伴う自閉症児をかかえる親御さんは誰もが、今回の震災でこのテーマについて深く考えざるを得なくなったと思います)にとっては、参考になるエピソード集になっていると思います。
もちろん「エピソード集」ですので、ここから一般論を安易に導くのは危険です。
本書に掲載されているエピソードでは、どの自閉症のお子さんも、意外に(?)震災後の不便な生活、いつもと違う環境で大きく崩れることなく、親御さんの用意した「安心グッズ、安心環境」によって比較的安定した生活を送ることができたようですが、ニュースなどでは、避難所で大きく崩れてトラブルを起こしてしまった事例なども紹介されていました。
https://aspara.asahi.com/column/eqmd/entry/PvqfdUpkil
自閉症の子、わかって 周囲に遠慮 車中泊1週間で限界
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201103/2011032600198
避難所行けず、食料も薬もない…=自閉症の子持つ家庭孤立-東日本大震災
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2011080102000168.html
行き場ない発達障害児 南相馬 避難所10カ所転々
でも、震災後わずか4か月あまりで出版されたというこのスピード感によって、この本は初めてこの重いテーマ(自閉症児と被災生活)を扱った本というポジションを得ることができました。
いま、このテーマについてまとまった情報を得ようと思ったら、この本が最善・最新のものであることは間違いないでしょう。そういう意味で価値のある本だと思います。
本書で、私が一番印象に残ったのは、著者のお子さんの「きら」さんが震災後に安定している様子をみた著者が、「私たちは震災で『先が見通せない生活』に動転してしまったけど、息子は普段から同じくらい『先が見通せない』毎日を送ってるのかもしれない、だから震災だからといって特段に崩れなかったのかもしれない」と洞察している場面でした。
確かに、そうかもしれない。
私たちが震災によって体験するであろう「先の見えない生活」への不安やパニック感を、もしかしたら自閉症の人は普段から当たり前のように感じているのかもしれない。
だから、ちょっとしたハプニングに過剰に反応し、パニックしているように見えるのかもしれない。
それは「過剰に反応」ではなくて、自然な反応なのかもしれない。
そんなことを感じて、毎日の娘の、「見通しが狂ったときのパニック」のときの心情が、少しだけ分かったような気がしました。
それ以外では、やっぱり自閉症の子どもの特性にあった被災支援というものは形としては存在していなくて、家族の努力や関係者のネットワーク、あるいは善意の理解ある支援者の個人的な尽力、そういったものに頼らざるを得ないという現状、あるいは「なるようになるさ」といった楽観的な考え方の重要性、そういったことを考えさせられました。
震災(と自閉症の人への支援)について、「いま」考えたいテーマに応えるタイムリーな本だと思います。
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