今回は、「ABA(応用行動分析)」に関連する本のなかで、おすすめではなくて逆に「読むのに注意が必要なタイプの本」について書いてみたいと思います。
2.ABA(応用行動分析)・行動療法についての本(続き)
<読むのに注意が必要な本>
わが子よ、声を聞かせて―自閉症と闘った母と子
キャサリン・モーリス
NHK出版(過去のレビュー記事)
自閉症を克服する―行動分析で子どもの人生が変わる
リン・カーン ケーゲル、クレア ラゼブニック
NHK出版(過去のレビュー記事)
あきらめないで!自閉症 幼児編
平岩 幹男
講談社(過去のレビュー記事)
自閉症児の親を療育者にする教育―応用行動分析学による英国の実践と成果
ミッキー キーナン、カローラ ディレンバーガー、ケン・P. カー
二瓶社(過去のレビュー記事)
ABAによる療育というのは基本的に「行動の制御・変容」を目指すものです。
つまり、ものすごく乱暴に言ってしまえば、なにか「望ましい行動パターン」みたいなものがあることを前提にして、それをゴールに設定し、子どもの行動を変えていこう、そういうアプローチなわけです。
このようなアプローチは、往々にして、「望ましい行動パターン」として「健常者の姿・行動パターン」をおき、「障害のある子どもを『普通』『健常』にする」ことを療育の目標に設定してしまいがちです。
そして、その傾向がさらに強まると、障害の存在を邪魔なもの、敵として除外すべきものと考え、「ABAによって子どもを変え、忌々しい障害を追い出して、『わが子の本当の姿』を取り戻したい」といった考え方に傾いていってしまうことがあります。
こういった考えに基づいた療育は、障害の受容からはもっとも遠いものであると言わざるをえません。
当然ですが、障害を敵視し、排除すべきものと考えると、いま目の前にいる「障害をもったわが子」をありのままに受け入れることは難しくなります。
そして、「頑張って障害を克服して(「治し」て)『普通に』なろう(そうした愛せるようになるはず)」といった「条件つき愛情」を子どもに提示することになってしまいます。
また、このような「自分の介入によって子どもの発達を制御・変容できる」という考え方は、度を過ぎると実際の介入可能性を超える「錯覚」に陥ってしまいます。このような錯覚を、「統制感の幻想(イリュージョン・オブ・コントロール)」といいます。
統制間の幻想については以下の本で読むことができます。
「自分だまし」の心理学
菊池 聡
祥伝社新書(過去のレビュー記事)
ABAによる療育は、科学的なエビデンスのある堅実な方法という側面と同時に、「統制感の幻想」に陥っている方にとってパワフルに見える危うい方法という側面をもっています。
統制感の幻想にとらわれてABAに取り組んでいる(と思われる)方の特徴は、ABAと同時に、エビデンスの乏しい代替療法などに同時に取り組んでいる点にあります。
いろいろ療育を検討した結果として、キレーション、GFCFダイエット、ホメオパシー、サプリメント療法等の代替療法とABAの組み合わせに魅力を感じ、特に優先的に取り組みたいと感じた方は、ちょっと冷静に考え直したほうがいいかもしれません。
今回ご紹介した本は、そういった「ABAの持つ『普通・健常』への圧力の側面」や「統制感の幻想」などに自覚的に読まないと危険だという意味で、「読むのに注意が必要な本」としてご紹介させていただきました。
(次回に続きます。)
※ブックレビュー一覧をまとめた記事はこちら。