今回も、前回にひきつづき、「ABA(応用行動分析)」に関連する実践的な殿堂入り本の続きです。
2.ABA(応用行動分析)・行動療法についての本(続き)
<殿堂入りおすすめ本>(続き)
自閉症児のための明るい療育相談室(レビュー記事)
ABAのすぐれた「実践書」の3冊めです。
こちらは、先にご紹介した2冊以上に「実践例」色が強い本だと言えます。
本書は、親御さんなどが悩まされる「54の相談」に対して、2人のABAのプロがそれぞれ対処法を提案するというスタイルになっています。
なので、体系的に療育のすすめかたがまとめられているというものではなく、問題行動などへの取り組みなど、個別の「目の前にある問題・課題」への解決法が事典的に並べられたものになっています。(最初の項目から順に取り組んでいくと療育体系になっている、といったものとはまったく異なりますから、注意してください。)
本書の最大の特色は、1つ1つの相談に対して2人の専門家がそれぞれ別々に回答を提示しているという点です。(なので、54の相談に対して、回答は108個あることになります。)
つまり、同じ相談に、違う回答が出されているということになります。
このことを、どうとらえればいいのでしょうか?
多くの人は、同じ療育法であれば、同じ問題に対しては同じ「解決方法」が出されるものだと期待するところでしょう。
でも、あくまでもABAは「基礎的なところ(行動原理)が定まっているだけの方法論」に過ぎないので、個別の問題に対してどのような解決案を出していくのかという点については決まったものがなく、相当に自由です。
例えば、「危険な行動をとってしまう」という問題行動があったとき、「危険な行動に対して罰を与える」ことも、「安全な代替行動に切り替える」ことも、「危険な行動が起こせないように環境を変える」ことも、「危険な行動をするヒマを与えない」ことも、ABAの枠組みの中ではみな「効果を期待(説明)できる対応方法」になります。経験豊富なABAの臨床家であれば、これら以外にももっとユニークな「ABA的働きかけ」の引き出しをたくさん持っていることでしょう。
つまり、今日ご紹介している1冊目の本のところでも触れましたが、ある問題に対するABAの「答え」は1つではなく、さらにそこで出されている「答え」も、あくまでも一般化した1つの実践例であって、自分が対応しなければならない問題にそのまま適用できるわけではないわけです。
そう考えていくと、この本はABAを学び、実践する人(もちろん私たち親も含む)にとっての「参考書」だということが分かってきます。
つまり、理論だけでは追いつかない、臨床場面での「無限の広がり」の見通しを少しでも良くして、自らの「実践」につなげていくための参考資料だ、ということです。
そういう意味では、本書に登場する2人の専門家はABAの世界では名の知れた方たちであり、その達人たちの「実践の引き出し」を垣間見ることができるこの本は、ある種の「秘伝の奥義書」の類だと言えなくもないでしょう(ちょっとオーバーですが)。
繰り返しになりますが、この本からいきなり入って、この本を「参考書」ではなく「教科書」として読もうとすると、同じ問題に対してほとんど逆のアプローチをとっていたりする例がたくさん出てきて、混乱してしまうでしょう。
まず、前回までにご紹介したような、理論面からABAを学べる本来の「教科書」を読んで、そのうえで今日ご紹介した「参考書」に入っていくのがいいだろうと思います。
(次回に続きます。)
※ブックレビュー一覧をまとめた記事はこちら。