2006年07月30日

他人の心を知るということ(ブックレビュー)

韓国出張で読んだ本の3冊め。



他人の心を知るということ
金沢 創
角川Oneテーマ21 (新書)

第1章 おしゃべりでやりとりしているもの
 雑談
 言葉は意味を伝えているか ほか
第2章 言葉でない言葉
 言葉でないもの
 「バカ」 ほか
第3章 他人の心
 言葉によらない意図的なコミュニケーション
 認知環境 ほか
第4章 言葉の力
 言葉の役割
 「私は修理してとはひとことも言っていないわ」 ほか

あまり期待しないで読んだのですが、意外と面白かったです。

本書は、「コミュニケーション論」の入門書ということになっています。
本書を最も特徴づけているのは、「コミュニケーションとは言葉による情報の伝達ではない」ということが非常に強調された内容になっていることで、いわゆる言葉以外のコミュニケーション(ノンバーバル(非言語)・コミュニケーション)が果たす役割、そしてコミュニケーションによって真に『交わされている』ことは何なのかといった問題が、興味深く語られています。

そしてもちろんそれは、自閉症児へのコミュニケーション療育を、パターン化された会話の訓練から、真に「心が通う」ものに変えていくための大きなヒントになると思います。

いま、簡単に「心が通う」と書きましたが、会話で「心が通っている」と感じたり信じたりできるというのは、考えてみるととても不思議なことですね。本書が扱っているテーマも、まさにこの辺りです。

目次からも分かるとおり、全部で4つの章からなる本書の最初の3章(第1章~第3章)では、主にことば以外の方法によるコミュニケーションが語られています。

第1章では導入として、「コミュニケーションとは、情報を伝達することである」という古典的な考え方が、「日常のおしゃべり」を例にとって批判的に検討され、「実はわたしたちがおしゃべりで行なっているのは、時間的な『パターン』を形成することに過ぎない」という結論が導かれます。

だとすれば、私たちがおしゃべりの中で、「自分の気持ちが伝わった」あるいは「伝わらない」と感じるのはなぜでしょうか? あるいは、そもそも、コミュニケーションによって「気持ち」なんていう目にも見えないものが伝わる、共有されていると信じられる理由はどこにあるのでしょうか?
それを解明するのが、第2章以降ということになります。

続く第2章のテーマは、言葉でないコミュニケーション、例えばうなずきとかジェスチャーとか表情といったものが果たしている役割についてです。
ここで面白いのは、貧乏ゆすりとか髪の毛や爪をいじるとか、そういう一見無意味なしぐさもコミュニケーションの一部であるという考え方です。(なぜなら、そういったしぐさの有無によって、相手に「伝わる」ものが変わる場合があるからです。)

さらにこの章では最後に、とても興味深い結論が導かれます。
それは、結局、「言葉以外のコミュニケーション」が伝えている最も重要なメッセージの1つとは「Go/No-Go」である、ということです。

つまり、私たちは、表情やしぐさなどの「非言語コミュニケーション」を使って、「私はあなたが話していることを理解している、興味を持っている、どうぞこのまま続けてください」(Go)、あるいは「あなたの話は理解/同意できない、つまらない、もうやめてください」(No-Go)のどちらかの気持ちを常に相手に伝えているのです。
そして、話している人は常に相手が「Go」のサインを出しているかをチェックしつつ話を進めており、万一相手が「No-Go」のサインを出しているときは、話すのを一旦やめたり話題を変えたりして調整を図っている、というのです。

あ、これって、自閉症児にとって特に重要なポイントかもしれない。
相手の表情やしぐさを見て自分の「続ける」「やめる・変更する」という反応を切り替えるような、「Go/No-Go」ゲームをうまく開発できれば、療育効果があるかもしれませんね。

これ以降も、面白い話がいろいろ出てきます。

第3章では、コミュニケーションの本質とは、「世界とはどんなものであるかについて、相手が知覚していることを予想し、それを相手に対し『賭ける』ことである」と定義されます。
これは言い換えると、「私の予想する『他人の心を含むこの世界』は正しい」ということをお互いに確認、調整しあうことだともいえます。このようなやりとりの繰り返しにより、コミュニケーションに参加しているメンバーの「世界」は1つになっていき、「心が通った」状態になると考えられます。

これも、自閉症児の話題として考えてみると、自閉症児がコミュニケーションにはこういった作用があることを真に体得できているか、あるいはできるようになれるのか?ということを、じっくり考えてみる価値がありそうです。

第4章では、ことばによるコミュニケーションの独自性として、上記の「賭け」を公然化させるという機能を持っている点が指摘されます。
例えば、ある人がある異性を好きだという場合、「好きだ」と実際に言葉に出して言った場合、その言葉が届いた人間(当の異性も、それ以外の人間も)に対して、自分が確かにそう感じていることを証明していかなければならなくなります。
これは、言葉にさえ出さなければ、「そんなことは一言も言っていない」と言えるのと対照的です。

この章では、自閉症の世界で特に有名な「心の理論」の話題なども出てきますし、「ことばを発する」ということが、他人とのコミュニケーションの中でいかにデリケートな行為なのかということが実感できます。
そして、そんな途方もない複雑な行為を「療育する」ということが、どれだけ大変なことなのかも改めて痛感させられます。

「コミュニケーション論」というと、一部には「好感を持たれる話し方」とかそういった安直な本も多い中で、本書は私たちにとてもユニークな視点を与えてくれる本だといえます。
そしてその「視点」は、自閉症児へのコミュニケーション療育においても、きっとたくさんの貴重なヒントを与えてくれると思います。

※その他のブックレビューはこちら

補足:今回の出張では、↓の本も読みましたが、やや専門的すぎるのでレビューはしません。ただ、コネクショニズムについて学ぶにはいい本だと思うので書名だけご紹介しておきます。

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コネクショニストモデルと心理学―脳のシミュレーションによる心の理解
著:守 一雄 ほか
北大路書房
posted by そらパパ at 08:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 理論・知見 | 更新情報をチェックする
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