2006年07月25日

PECS特別講義(1)-「言語行動」とはなにか

※今回のシリーズ記事は、先日受講したPECS特別講義の内容を、私なりに解釈・再構成して書いているものです。誤解している部分もあるかもしれませんし、講義で触れられなかった内容を私が勝手に追加している部分もあります。内容についての文責はすべて私にあります。

今回から何回かに分けて、先日受講したアンディ・ボンディ先生のPECS特別講義から、私なりに学んだことのエッセンスをまとめていきたいと思います。

特別講義の中で、実際にPECSの療育を進めていくにあたって非常に参考になると感じた内容が2つありました。

さっそくその内容を書いていきたいと思うのですが、その前にどうしても、今回の講義の中心になった「言語行動」について書かなければなりません。

「言語行動」(Verbal Behavior)というのは、ABAの元祖といわれるスキナーが1957年に出した同名の本で提案した、コミュニケーションの分類のことです。スキナーはこの中で、それぞれの言語行動がどのような行動随伴性によって維持・強化されているのかについて考察しています。

私は以前この本に批判的に触れたことがあるのですが、それはこの本をヒトのことばの発達モデルとして扱うという態度に対してのものであって、現に表出されているコミュニケーションの分析としては明快さという価値があると思っています。
今回のボンディ先生の「言語行動」に対する態度も、PECSでの療育の「枠組み」を「言語行動」の考え方ですっきり整理しようというものであり、「言語行動」からいきなり発達モデルが出てくるという考えではなかったと理解しています。

・・・ともあれ、今回の記事では、さまざまな「言語行動」の簡単な定義を整理するところから始めたいと思います。
多少退屈かもしれませんが、次回以降の記事のために、どうかお付き合いください。

注意!以下の説明は、私が独断でかなり手をいれた表現になっており、特別講義での内容とは異なりますし、厳密さにも欠けます。より厳密な理解のためには、専門書に入っていく必要があります。

1.(純粋な)マンド 外界からの刺激なしに、欲しいものを要求して手に入れる行動
 簡単に覚えるなら⇒要求表現
 (例:りんごが目の前にないときに「りんご」と言ってりんごを手に入れる)

2.(純粋な)タクト 外界からの刺激を受けて、それを叙述し、社会的強化子を手に入れる行動
 簡単に覚えるなら⇒叙述表現
 (例:りんごが目の前にあって「りんご」と言って「そうだね」と言われる)

3.(純粋な)イントラバーバル
 言語刺激を受けて、おうむ返し以外の言語行動を返し、社会的強化子を手に入れる行動
 簡単に覚えるなら⇒質問に答えること
 (例:「赤い果物は?」と聞かれて「りんご」と言って「正解!」と言われる)

4.(純粋な)エコーイック
 言語刺激を受けて、おうむ返し(一部でも可)を返し、社会的強化子を手に入れる行動
 簡単に覚えるなら⇒音声模倣
 (例:「りんご」と言われて「りんご」と答えて「よくできたね」と言われる)

※社会的強化子:うなづく、ほめる、注目する、「会話が続く」など、強化子(行動を増加させる力を持つ「ごほうび」)として機能するヒトとのかかわりのこと。自閉症児は社会的強化子が機能しにくいと言われています。

ここから先は「純粋ではない言語行動」です。上記の2つ以上の要素が混ざったものです。たくさん出てきたのですが、重要だと思われるものだけ抜粋して書いておきます。

5.マンド/タクト
 目の前に欲しいものがある状態でのマンド
 (例:りんごが目の前にあるときに「りんご」と言ってりんごを手に入れる)

6.イントラバーバル/マンド
 欲しいものについて聞かれて答える形態のマンド
 (例:「欲しいものは?」と聞かれて「りんご」と言ってりんごを手に入れる)

7.イントラバーバル/タクト
 質問されて答える形態のタクト
 (例:りんごを前に「これは何?」と聞かれて「りんご」と答えてほめられる)

8.イントラバーバル/マンド/タクト
 目の前に欲しいものがあり、かつ質問に答える形態のマンド
 (例:りんごを前に「欲しいものは?」と聞かれて「りんご」と言ってりんごを手に入れる)
 
9.イントラバーバル/エコーイック/タクト
 目の前にあるものについて、質問して答えを先に言って、真似させる形態のタクト
 (例:りんごを前に「これは何?りんご」と聞かれ「りんご」と真似してほめられる)


ここで重要なことは、上記の定義では分かりやすさのために「言う」と表現していますが、実際にはかならずしも音声言語が使われる必然性はなく、相手に伝わればどんなやり方でも「言語行動」になりうるということです。
ここから、音声言語の代わりに絵カードを使うというPECSの発想が生まれ、PECSによるコミュニケーションも音声言語同様に「言語行動」の概念で説明できることになるわけです。

なお、「言語行動」については、当ブログで「殿堂入り」している下記の本にもある程度詳しく紹介されています。



行動分析学入門―ヒトの行動の思いがけない理由
著:杉山 尚子
集英社新書

(次回に続きます。)
posted by そらパパ at 23:01| Comment(2) | TrackBack(0) | 理論・知見 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
何時も楽しくよまさせていただいています。とてもよく勉強しておられるようで感心しています。又宜しくお願いいたします。
Posted by don at 2006年08月04日 15:09
don様、というより久野先生、

プロの方からコメントをいただけるのは大変光栄です。
自閉症児の親にとって、行動療法は端的にはほとんど唯一の光だと思いますし、「療法」と大げさに?考えなくても、言葉が通じにくく、安易に接すると簡単に問題行動が増えていってしまう自閉症児と「日常的にどういう態度で接するか」という大問題に、きわめて明確な指針を与えてくれる考え方だと思います。

久野先生のページも、「おすすめリンク」に追加させていただきました。
これからも、よろしければご笑覧ください。ありがとうございました。
Posted by そらパパ at 2006年08月04日 15:42
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