2006年10月02日

改めて自閉症の謎に取り組む(7)

自閉症の「謎」にアマチュアなりに頑張って切り込む(笑)、「環境知覚障害仮説」の全体像についてここで整理してみたいと思います。

ヒトは本来、生まれながらにして母親をはじめとする他人と関わる力を持っており、その能力は生まれた直後から発揮されます。
「ヒトと関わる」というのは本来、最も複雑な環境との相互作用であり、高度な知覚能力が求められるのですが、ヒトは種の歴史の過程で、この高度な能力を生得的に獲得できるように進化してきたのだと考えられます。

ところが、この能力が何らかの原因によって阻害される場合があります。それは、例えば脳のネットワークが環境からの情報刺激に対して「過敏すぎる」場合に起こります。
脳のネットワークが過敏すぎると、情報に含まれる小さな違いを、取るに足らないノイズとして無視することができず、本来「同じもの」として認識すべき対象を常に違うもの・新しいものとして認識してしまいます。

このために、環境を安定し連続したものとしてとらえることができなくなり、環境に対する学習を積み重ね、新しい刺激にも過去の経験を活用し(汎化)、環境に適応していくという発達経路に著しい遅れが生じます
また、「連続した環境の変化」を知覚できないということは、「時間」の知覚の発達をも極めて困難にします。
また、このような汎化障害は、恐らく自分の「身体感覚(ボディ・シェーマ)」の確立にも悪い影響を与えているのではないかと思われます。

このような環境の知覚・学習能力の障害により、まっさきに影響を受けるのが、非常に複雑な動きをし、連続した時間的「流れ」の中での相互作用なしには理解できない「ヒトとの関わり」だと考えられます。
瞬間瞬間が分断された世界の中では、他人というのはまったく予測できない恐ろしい未知の存在と知覚されても不思議ではないでしょう。

そして、そのような知覚世界の中でも、辛うじて「同じもの」と知覚できる「モノ」に興味が集中し、まずはモノとの関わりがゆっくりと発達してくることにになります。
このような状況下では、同じモノをいつも同じ場所に置くことにこだわったり、特定のモノにずっと関わり続ける、といった行動が生まれてくるのも、また自然なことでしょう。

知的な遅れが大きくない自閉症児であれば、やがて「ヒト」の存在にも気づき、他人と表面的な関わりを持ったり、ことばを話したりすることも身に付けていくでしょう。しかし、そこから更に進んで、他人の行動の理由を「心」に求める「心理化」ないし「心の理論の発達」にまで到達することは、もともと脳のネットワークが抱えている汎化・分化学習の障害のために、知的能力の高い自閉症児にとっても難しい課題になるのだと考えられます。


これが、「環境知覚障害仮説」に基づく、自閉症という発達障害の発生の機制(仕組み)です。

前回も書いたとおり、今回の仮説では自閉症児の脳には具体的にどのような障害があるのか、という議論についての詳細については、説明を先送りしました。
というのも、この部分については先日読んだ「認知過程のシミュレーション入門」をきっかけに非常にはっきりとした仮説が自分の中でできあがりつつあり、項を改めて本格的に書いてみようと思っているからです。
またこれらの私なりの「仮説」に基づいて導き出される、「自閉症児にとって最適だと思われる療育法」についても、これから書く記事の中で掘り下げてみたいと思っています。

最後の最後、脳の問題の部分で急にはぐらかしたような文章になってしまって申し訳ありませんが、すぐに次の記事でその部分を徹底的に解明するつもりですので、ご期待ください。

最後に、今回の「環境知覚障害仮説」仮説に基づく自閉症の発生機制を、シンプルにフロー図で整理しておこうと思います。

[出生以前・直後の脳へのダメージ]
      ↓
[脳ネットワークの形成障害]
      ↓
[刺激過敏な脳ネットワークの形成]
      ↓
[環境知覚能力の障害]
      ↓
[ヒトという最も複雑な環境との関わりの失敗]
      ↓
[さまざまな自閉症の症状]

posted by そらパパ at 22:28| Comment(0) | TrackBack(0) | そらまめ式 | 更新情報をチェックする
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