2006年10月01日

改めて自閉症の謎に取り組む(6)



以前ご紹介した、この「相互作用の複雑さの階層図」と、ウィングの孤立型・受身型・積極/奇異型という行動類型との間には、対応を取ることができそうです。

ウィングの行動類型の話が続いているのは、それが重要だからということもありますが、それよりはむしろ、自閉症児の対人関係の発達の経路は「モノからヒトへ」という形で、環境とのかかわり方を徐々に学習していく過程であるという仮説に妥当性があることを確認するためです。

そして、このような発達経路は、自閉症児独自のものであって、恐らく健常児とはまったく異なったルートである可能性が考えられます。つまり、自閉症というのは「発達の遅れ」ではなく、まさに「発達の異常」である、と考えることが必要そうなのです。

ただし、私がここで言っているのは、いわゆるアスペルガー症候群も含めた自閉症スペクトラムの人がすべて通常とはまったく異なった発達経路をたどる、ということではありません。

そうではなくて、障害の重い自閉症スペクトラムの人ほど「ヒトを頂点とする複雑な環境とのかかわり」が困難になり、通常から大きくズレた発達経路から「対人関係の発達」というゴールを目指さなければならなくなる、ということなのです。

つまり、目指すべきゴール自体は同じでも、経路は同じではない、ということです。障害が重い自閉症児ほど、大きくズレた経路をたどることになり、結果としてゴールにたどり着けない場合も出てくるでしょう。

そして、そのような「違う発達経路をたどっている姿」こそが、我々から見える「自閉症の症状」なのではないでしょうか。



↑自閉症児の環境知覚の発達経路のイメージ図

それでは、なぜ自閉症児は複雑な環境との関わりに失敗するのでしょうか?

この部分については、先日ご紹介した「認知過程のシミュレーション入門」で指摘されている脳のモデルが最も説得力をもっていると思います。

実は、この部分だけで今回のシリーズ記事を大幅に上回る長編記事になりそうなので(笑)、時期をおかず項を改めて本格的に書く予定です。
ここではとりあえず天下り的に、自閉症児の脳は、環境のささいな違いを無視できないような「過敏なネットワーク」を形成している、と書いておきます。

その結果、自閉症児にとっての周囲の環境とは、常に違うこと・新しいことが降って沸いてくる、断続的なものとして知覚されるでしょう。そこには連続的な時間の流れも知覚されないでしょう。時間の流れを知覚できないのであれば、見通しを持つことが困難であるのも当然ということになります。

さらに、このような極めて不十分な環境の知覚しか持たない状態では、常に変化する「ヒト」というものを安定して知覚することはほとんど不可能です。
ヒトは、常に違う場所で違う動きをして、顔の向きも表情も常に変わります。さらに言えば、ヒトの行動というのは時間の流れの中で連続的に見ることができて初めて意味が分かるのであって、断続的な瞬間瞬間だけを見ても、到底理解できないでしょう。

それと比較すると、「モノ」はおおよそいつも同じ場所にあって、予測可能な動きをしますから、ヒトよりはずっと知覚が容易です。
そのため、限られた環境知覚スキルの中から、それでも何とか環境に適応するために、自閉症児はゆっくりと、「ヒト」ではなく「モノ」に対する環境知覚スキル(アフォーダンスの知覚)を発達させていくのではないでしょうか。

そこから先の歩みは、ウィングのいう「孤立型」「受身型」「積極・奇異型」、あるいは何回かご紹介している下図のように、まずはモノとの関わりを確立させ、次に少しずつヒトとの関わりを増やしていく、といった経路になるのでしょう。
それは、定型発達とはかなり違う歩みではありますが、恐らく、自閉症児の持つ限られた環境知覚スキルに基づいた、精一杯の環境適応の歩みであるはずです

(次回に続きます。)
posted by そらパパ at 00:13| Comment(0) | TrackBack(0) | そらまめ式 | 更新情報をチェックする
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