ここで再び、「自閉症の三つ組」のローナ・ウィングに登場してもらって、彼女が示している自閉症児の行動パターンの3つの類型について考えてみましょう。
ウィングは、自閉症児の行動パターンを大きく3つの類型に分けました。それが、「孤立型」「受身型」「積極・奇異型」です。
この3類型を簡単に説明すると、こんな感じになります。
「孤立型」・・・・他人に関心を示さず、まるで他人がいないかのようにふるまう型。
「受身型」・・・・自分から他人に関心を示さないが、他人からの働きかけには対応する型。
「積極・奇異型」・自分から他人に関心を示し接近するが、その行動が奇異である型。
ここで、ウィングが指摘している重要なポイントは、一般に「孤立型」→「受身型」→「積極・奇異型」の順に知能が高い傾向があり、かつ、成長の過程の中でも、「孤立型」から「受身型」へ、あるいは「受身型」から「積極・奇異型」への行動パターンの移行が見られる(逆はめったにない)、という点です。
ちなみに、このあたりの議論は、有名なこの本で読むことができます。
自閉症スペクトル―親と専門家のためのガイドブック
著:ローナ・ウィング
東京書籍 (紹介記事)
前回ご紹介した「自閉症スペクトラムの三つ組の障害」や、今回の「自閉症児の3行動類型」など、自閉症という障害観の新たな枠組み作りに大きな功績を残した本であり、ある意味「良質な古典」としての位置付けを持ち始めています。
入門書ではあるのですが、「自閉症のことを初めて知る本」としては、ちょっと堅苦しすぎるかもしれません。別の自閉症の入門書(例えばこれ)を読んだうえで、「もう少し自閉症を『勉強』したい」という方にこそすすめられる本です。
さて、本題に戻ります。
つまり、自閉症児に関していえば、何より先に母親という「ヒト」との関わりが始まる、という発達経路ではなく、むしろ「モノ」との関わりの学習が先になり、そこから徐々に「ヒト」との関わりのスキルを伸ばしていく、という特異な発達の道すじをたどっている可能性が高いのです。
なぜ、こういう違いが生まれるのか?についての仮説もあとでご紹介しますが、ここでは「モノ」→「ヒト」という認知スキルの発達の流れをもう少し追いかけたいと思います。
この、「モノ」→「ヒト」の流れを説明するために、「知覚の恒常性障害仮説」で考察されたのが、「素朴物理学から心の理論へ」という流れでした。
つまり、乳幼児は、モノはこういう法則で動くという一般的な経験体系として「素朴物理学」をまず学び、次にその体系では語れない存在である「ヒト」に対する一般的な経験体系として「心の理論」を学習していく、という考え方です。
この考え方自体は、少なくとも自閉症児の発達プロセスとしてはある程度有効だと、今でも考えています。ただ、健常児も同様にこの流れに乗って発達していくのかといえば、どうやらそうではないようです。
先にご紹介したとおり、健常な赤ちゃんは生まれてすぐの頃から「ヒトとのかかわり方」を知っており、モノとヒトとで対応の仕方を変え、適切にかかわることができます。
ところがその一方で、いわゆる「心の理論」と呼ばれる認知スキルは健常児であっても4歳くらいまでは発達しないことが分かっており、「ヒトと適切にかかわれること」イコール「心の理論が発達すること」では絶対にありえない、ということは明らかです。
今にして思うと、「知覚の恒常性障害仮説」では、この辺りのつじつまが合っていないことが理論上の弱さの1つになっていました。
ここで、ギブソンの生態学的心理学、アフォーダンス理論が登場します。生態学的心理学の考え方を導入すると、この辺りが矛盾なく説明できるように思われるのです。
(次回に続きます。)