これは、基本的には私が大学時代に学んだ「認知心理学」の考え方をベースに、私なりに自閉症がなぜ発生するのかを整理しようとした試みでした。
この仮説をまとめた後、私はギブソンの生態学的心理学、いわゆるアフォーダンス理論に出会いました。
ギブソン心理学はきわめて革新的な考え方を持っているのですが、その革新性の本質は、認知心理学が当然のように前提としている、「感覚」→「知覚」→「認知」という脳の情報処理のピラミッド構造を否定している点にあります。
私はギブソン心理学に触れて、この理論は非常に独創的で、従来の心理学とは相容れない部分をたくさん持っているけれども、かなり本質をついているのではないか、と直感しました。
そして、この理論を自分の考えに組み込んでいくとき、「知覚の恒常性障害仮説」を修正しなければならないことに気づきました。
なぜなら、「知覚の恒常性」という名前からも分かるとおり、この仮説は先に書いた「感覚→知覚→認知」という認知心理学的な意味での「知覚」という考え方に依存しているため、その「知覚」のとらえ方がまったく異なるギブソン心理学の立場にはなじまないものだったからです。
ただ、その修正はこれまでの考え方の否定ということではなく、これまでうまく説明できなかった部分が説明できるようになるといった「理論の拡張」とでもいえるものです。
自分の考えを整理するのに少し時間がかかりましたが、ここで改めて、ギブソンのアフォーダンス理論や脳科学的な学習モデルまで組み込んだ、新しい自閉症の発生モデル、それを前提とした療育の枠組みについて書いていきたいと思っています。
ここで、ギブソン心理学・アフォーダンス理論に関する参考図書をいくつかご紹介しておきます。
アフォーダンス-新しい認知の理論
著:佐々木 正人
岩波科学ライブラリー(12)
エコロジカル・マインド―知性と環境をつなぐ心理学
著:三嶋 博之
NHKブックス
「心」はからだの外にある―「エコロジカルな私」の哲学
著:河野 哲也
NHKブックス
参考記事:1, 2, 3
新しい仮説の名前は、シンプルに「環境知覚障害仮説」と呼びたいと思います。
この名称をよく見ると、「知覚の恒常性」が「環境知覚」に変わっただけですね。この2つはかなり似ています。
この名称からも分かるとおり、新しい仮説も、実はこれまでの「知覚の恒常性障害仮説」とそれほど大きな隔たりがあるわけではなく、考え方の違いというよりも視点の違いといったほうがいいかもしれません。
・・・さて、そもそも私が、これまでの「知覚の恒常性障害仮説」という考えに至った一番のきっかけは、自閉症の障害として言われている「コミュニケーションの異常」とか「ことばの異常」とか「特定のものへのこだわり」(これら3つの症状は、ローナ・ウィングが提唱した自閉症スペクトラムの「三つ組の障害」として知られています)、その他もろもろの症状は、実は「モノ」と「ヒト」への関わり方を区別することの発達障害という、たった1つの概念で説明できてしまうのではないか、と思い至ったところにありました。
(次回に続きます。)